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8 宇宙との交信

「よかった。それでは、お時間になったら、車でお迎えに上がりますよ。おふたりは今どちらにお泊りですか」

 と香坂がにっこりと笑いながらいうので、すみれはけしからんと思ったが、未空は、

「白月浜グランドホテルです」

 と正直に答えた。すみれは、旅先で出会った男性に泊まっている場所を教えるなんて危なっかしい子ね、と思った。しかし、そういう危なっかしいところも芸術家らしいと思えた。なにか、一般的な警戒心がないのだ。

「ふふん。そうなんですね。良いホテルにお泊まりだ。それでは、今日の午後、六時にホテルの玄関で待ち合わせとしましょう」

「わかりました」

 と未空は言う。香坂は二人に連絡先を書いた紙を渡すと、嬉しそうにお礼を言ってその場を後にした。


 すみれはやれやれと思った。しかし、香坂が信用できるかはともかくとして、長谷川東亜のパーティーに招待されたことだけは良かった。すみれは未空の保護者として、ここに来ているわけだから、未空の喜びは自分にとっても喜びなのだ。芸術家のパーティーなんて面倒くさい気もするが、それも未空のため、こういうことは素直に喜ばなければならない。

 ふたりは第二展示室の後にして、第三展示室へと向かった。そこは円形の部屋になっていた。天井の中心に間接照明が取り付けられていて、キャプションには「長谷川東亜、三十代から四十代の作品」と書かれている。絵画はもちろん展示されていたが、中にはアフリカンな彫刻や、椅子のような日常品を芸術品に改造したものなども展示されている。このあたりからだんだんと絵画以外の作品にも手を出し始めたことがわかる。すみれは芸術に興味がなかったから、大した感慨もなく、相変わらず、ふらふらと先に進むだけであった。


 第三展示室が終わると第四展示室となった。ここからまた大きな作風の変化があった。部屋は薄暗くなり、作品は妖しげにライトアップされていた。ここから作品の抽象性が一気に増している。よく見かける城や塔のようなオブジェ、そして、惑星のような球体の模型が展示され始めたのだ。これは一体なんだろうか、まるで小さい頃、好きで父に連れて行ってもらった科学館のようだ、とすみれは思った。


「この数年で、先生のテーマは宇宙との交信になったんだ」

 と未空は唐突に語り出した。

「宇宙との交信?」

 すみれは驚いて聞き返したが、そういえば受付の女性もそんなことを語っていたのを思い出した。すみれは、宇宙って科学的なものじゃないか、芸術とどう関係あるのかな、と不自然に思った。

「そう宇宙との交信」

「じゃあ、この丸いものは月かな。この月と交信しているってことなの」

「そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない」

「ふうん。でも、作品のテーマが変わるなんて、一体、先生の身に何があったのかな」

 すみれは宇宙との交信という内容のおかげで、芸術そのものよりも身近でとっつきやすい話題に感じられて、未空に聞き返した。

「さあね」

 あまり作家個人の歴史には興味がないのか、未空はぼんやりしている。

 しばらくして、未空は、

「ねえ、英治、今ごろ、何してるかな……」

 と言った。

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