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88 すみれのマジカルステップ

 すみれと未空は、循環バスに揺られていた。バスは、白月浜町の中心部より山側に寄ったところにある白月浜神社に向かっていた。川沿いや、温泉街の側を通り、しばらくゆくと、白月浜神社の参道が見えてきた。神社の入り口には、巨大な鳥居がそびえていて、そこへと続いている参道の両側には、飲食店や土産物店がずらりと建ち並んでいる。まばらに人の姿が見えた。

 すみれと未空はこの側のバス停で降りると、それらの店先に並んだ品々を物珍しそうに眺めながら、神社の方へと歩いて行った。飲食店の多くは蕎麦屋であった。なぜ、神社や寺の参道には蕎麦屋が多いのだろう、とすみれはあらためて疑問に思った。

 その参道に、見たことのある男性の後ろ姿を見つけた。アロハシャツなんか着ているが、あれは間違いなく胡麻博士である。胡麻博士は、陶磁器や漆器などを販売している店の店先に突っ立って、赤味がかった汚らしいぐい吞みを手にし、うっとりとした表情でそれを眺めているのだった。

「胡麻博士!」

 とすみれは背後から呼びかけた。胡麻博士は危うく、ぐい吞みを手から滑り落としそうになったが、どうにか抑えると、すみれの方を振り返った。

「ああ、あなたはすみれさんじゃないですか。お久しぶりですなぁ」

 と胡麻博士は微笑んでそんなことを言いながら、ぐい呑みを台に戻すと、すぐにすみれの背後に隠れている未空を見つけて、

「ああ、未空さんじゃないですか。昨夜は、様子がおかしかったので驚きましたぞ!」

 と言った。


 すみれは、未空と胡麻博士の二人の間に、昨晩、なにかあったのだろうかと首を傾げた。しかし、昨夜、未空はずっと白月浜グランドホテルの部屋にいたはずだ。だとすると、いつ胡麻博士と会ったというのだろう。

「昨夜、この子と何かあったんですか」

「いやね、昨晩、わたしが温泉街の近くの川のほとりを練り歩いていたら、未空さんとばったり出くわしたのだよ」

「未空ちゃんと?」

 すみれは、胡麻博士が夢でも見たのじゃないのかと思った。あるいは、狐に化かされてしまったとか。なぜって、そんなところで未空に会うはずがないのだ。

「未空ちゃん、昨夜、そんなところに行った?」

 とすみれが振り返って、未空に尋ねると、未空は必死になってかぶりを振った。


「行ってないんですって。それって、人違いじゃないですか」

「い、いや、確かに、未空さんと会ったのですよ。どうしたんだ。未空さん、本当に覚えていないのかね……」

 そんなことを話していると、参道の向こうの方から、羽黒祐介と根来拾三がのんびりした足取りで歩いてきた。祐介を見ると、すみれの胸が高鳴る。じっとしていられなくなって、不自然に前後に体を動かすと、危うく倒れそうになったので、足踏みをしてしまった。それを見ていた胡麻博士が感心したように、

「なんと、マジカルステップですなぁ。だだをこねるとか、地だんだを踏むと言いますが、昔の人はそうやって悪魔を払ったものです」

 と、まるきり見当違いなことを言う。


 祐介が、そんなすみれに気を遣った様子で、話しかけてくる。

「すみれさん。今、着いたところですか」

「ええ、たった今」

「そうですか。これで、メンバーが揃いましたね。いや、もう一人いたな。あの、すみれさん、英治の姿を見かけませんでしたか」

「さあ、朝食の会場にもいませんでしたね。今頃、部屋で寝ているんじゃないですか?」

「それならいいのですが……。まあ、大丈夫でしょう。それじゃ、神社に向かいましょうか」

 と祐介は言った。

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