87 朝食のベーコンエッグ
すみれは、眠れないと思いながらもよく眠っていた。朝、目を覚まし、隣で眠りこけている羽黒未空を見つめると、旅行していることをすっかり忘れていたので、すぐには理解できずに、しばらく違和感があった。すぐに今の自分の状況を思い出し、欠伸をし、ベッドの上で伸びあがって、上半身を起き上げ、窓の外を眺めた。
すでに海は青々として、朝の陽気に包まれていた。綿あめのような雲が立体的にいくつも上空に浮かんでいた。すみれは冷房の効いた部屋の床に裸足で降りると、カーペットの肌触りがして、冷やりとした。スリッパに足を突っ込むと、そのままトイレに向かった。
トイレと浴室が一緒になっている。洗面台の鏡には、髪が乱れて、顔が腫れぼったくなっている自分が映っている。とりあえず、顔を洗おう、とすみれは思った。
(今日は、羽黒さんと事件の捜査だ)
すみれにとってみれば、祐介と近づける絶好のチャンスだ。
しかし昨夜、エレベーターで見た祐介の悲しげな表情の意味がすみれには分からず、不安であった。
(まあ、どうにかしよう。今日はもし、別れて行動することがあったら、祐介さんとタッグを組もう。間違っても、父親とは組まないように)
そんなわけのわからない状況は勘弁してほしいと思った。
すみれと未空は、朝食を食べるために一階のレストランに向かった。朝食会場に赴くのは、初めてだった。広い会場の中心に料理が並び、それを囲むようにテーブル席が並んでいる白を貴重とした空間だった。
すみれは、大皿に盛られたソーセージ、鮭、煮物、名前のわからない料理などを眺めながら、それらをよそって、白いテーブルクロスのかかったテーブル席に戻った。すみれはここでも英治の姿が見当たらないことに気づいた。
(昨日もいなかったな。どこにいるんだろう……)
すみれはあまり気にならなかった。パンをかじりながらまわりを見ると、遠くの席に、高杉薫が一人で座って、うつむいたまま伏し目がちに、ナイフとフォークを使い、ベーコンエッグを黙々と食べているのが見えた。
「あ、高杉さん」
とすみれが声に出すと、未空がちらりとそちらを見て、頷いた。
「今日は、英治と一緒じゃないんだね」
と、未空はちょっと嬉しそうに言った。そうして、にやっと笑うとオレンジジュースを美味しそうに飲んだ。
(あれ、この子、そんなこと気にしているんだ)
とすみれは思った。
食事を終えると、ふたりは一旦、部屋に戻り、荷物をまとめて、白月浜神社に向かうことにした。未空まで一緒に行く必要もない気がしたが、ひとり部屋に置いてゆくのも心配だ。真犯人は、未空を犯人に仕立て上げられなかったことに怒って、未空を亡き者にしようとしてくるかもしれない。
すみれと未空は、白月浜グランドホテル前のバス停から、白月浜神社行きのバスに乗ることにした。外に出ると、まだ観光客はあまり動き出していなかったが、海はすでに暖かそうに光り輝き、真夏のリゾートの風格を感じさせた。
バスはすぐにやってきた。あまりにタイミングよくバスがやってくると、乗りなれていないすみれは焦って、かえって乗り過ごしてしまうことがある。しかし、今回は事前に調べておいたこともあって、躊躇することなく、乗ることができた。バスの車内も空いていた。すみれと未空は最後尾の長椅子にのびのびと座ると、一息ついた。




