74 デラックスチョコバナナパフェ
すみれがデラックスチョコバナナパフェを注文したのは、別にふざけているわけでも、不思議ちゃんに思われようと、受けを狙っているわけでもなく、食いしん坊のごく自然な行動であった。
ちなみにデラックスチョコバナナパフェのサイズはとてつもなく大きい。程なくして、それは女性店員によって運ばれてきた。大きなグラスに富士山のように盛られたアイスクリームと生クリーム、バナナをはじめとするフルーツの数々、そこに濃厚なチョコレートソースとキャラメルソースがかかり、恒例のコーンフレークの嵩増しもちゃんとなされていた。そしてグラスの横には、なんとスプーンがふたつ添えられていた。すみれ、一人で食べきれるものではないことは一目瞭然であった。
「ああ、で、でかい」
すみれは後悔した。食べきれるわけがないものを注文してしまったことを後悔するのと共に、祐介に呆れられてしまった気まずい状況で、自分が食べ終わるまで間が持てない苦痛を想像したのだ。
「ずいぶん、量がありますね」
と祐介は、なんと言ってよいか分からない様子だったが、苦笑いを浮かべて言った。それに何と答えてよいか分からないすみれは、うふふと誤魔化すように笑った。
「そう、ですね……」
すみれはとりあえず心を落ち着かせるためにスマートフォンで二枚写真を撮った。そして、すぐさま突破口を見つけた。グラスにスプーンが二つ添えられていることに気がついたのだ。
「二人で食べると思ったんでしょうね」
と祐介はちょっと困ったように言った。
「確かに、この量ですもんね」
祐介はそれ以上何も言わずに自分のアイスコーヒーにストローを入れた。
「もしよかったら、いっしょに食べますか」
とすみれは勢いでそんなことを言ってしまってから、
「えっ」
と祐介が驚いた様子で声を上げたのを見て、顔を真っ赤にした。祐介は、この状況なので、断るわけにもいかないと思ったのか、ぎこちなく了承した。事件のことに集中していたので、嬉しそうな様子も感じられないが、困っていることを示す微笑みをうっすらと浮かべている。気まずさだけがやたらと強調される。
「いただきます」
「どうぞどうぞ」
二人で、一つのパフェを食べている様子は、傍目からはどう見てもカップルのようだったが、ふたりはそんなロマンティックな気持ちやら羞恥心に浸る余裕はあまりなかった。目の前の生クリームとアイスクリームの富士山を崩すために専念しなければならなかった。
(なんか、この状況、ヤバいな……)
すみれは気持ちを昂らせて、アイスクリームを食べながら、ちらりと祐介の顔を見た。祐介さんもこのシチュエーションにドキドキしているかもしれないと期待する。チョコレートのかかったバナナを食べると祐介は口を開いた。
「旅館で死亡していた男性の件ですが……」
(事件の話かい!)
すみれは心の中で叫んだ。
「あれから僕たちは、彼が白月浜に着いてからの足取りを調べたんです。被害者の名前は国吉平治。東京石神井に住む会社員です。彼が旅行のために、東京を出て、この白月浜に到着したのは、事件当日の午前十一頃のことと思われます」
そんなことはどうでもいい気がしたが、すみれは頷いた。
「午前十一時……、それはどうして分かったんですか」
「観光案内所の女性が彼のことを覚えていたんです。彼は、食事ができる場所と歴史的な観光スポットを尋ねたそうで、その女性は、白月浜商店街と白月浜神社を紹介したそうです」
「ふうん」
すみれは、事件の話より、祐介と一つのパフェを食べていることの奇跡を感じていた。
(これって、間接キスじゃないかなぁ)
これを間接キスじゃないなどという人間とは友達になれないな、とすみれは思った。
「ところが、その後の彼の足取りを追うのはなかなか難しいところがあります。今日、根来さんと二人で白月浜商店街に行き、聞きこみをしましたが、彼がどこで食事を取ったのかは分かりませんでした。司法解剖の結果さえ分かれば、何を食べたかぐらい分かるはずなのですが……。僕たちは福島県警と上手くいっていないので、どうも情報が足りずに困ります。現段階だと、吸引器に青酸カリが付着したのはいつなのか、特定するのはなかなか難しいようです」
すみれはパフェを食べながら、毒殺事件を平気で語れる祐介の神経を疑った。
「この毒殺事件と長谷川東亜邸で起きた殺人事件に何らかの関連性があるのか、これが最大の問題です。そのためには長谷川東亜たち、事件の関係者と親しい人物に話を聞く必要があります。それで思い出したのが、すみれさんや英治と親しい高杉薫です」
すみれは、祐介がパフェをすくう手を止めて喋っていることに不満を感じた。
(そんなこといいから、早く食べないとアイスが溶けるよ!)




