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72 夜景の見えるデートスポット

「こちらに高杉薫さんと言う方が来ていませんか」

「高杉様ですか」

 ボーイは一々、客の名前を把握していないらしく、困惑したように店内を見まわした。祐介もつられて店内を眺めたが、それらしい姿はなかったので、ボーイに礼を言って、レストランを後にした。高杉薫はレストランに食事に来ているわけではないらしい。だとしたら、後はどこにいる可能性があるのだろう。

 すみれは、ロビーの真ん中で立ち止まり、祐介の顔をちらりと眺めた。祐介は恋愛に悩んでいる様子などなく、夢中になって、高杉薫の行方を考えているようだった。


 しばらくして祐介はあることに思い当たったらしく、すみれの顔を見た。

「高杉薫さんと親しかった人物を一人、僕は知っています。もしかしたら、その人物と一緒にいるのかもしれません」

「誰ですか?」

 祐介は、探偵の悪い癖で、わざわざもったいぶった言い方をする。古今東西の名探偵はみんなこんな話し方をするものだ。


「英治です。僕は、彼が高杉薫と出会った時の経緯を知っている。そもそも、未空やすみれさんが、長谷川東亜のパーティーに行くと知った時、彼女に同行を頼むよう英治に言ったのは僕なんです」

「じゃあ、彼女、英治さんの部屋にいるのかな」

 とすみれは言ったが、あのふたりがそんなに急激に仲良くなっているとは想像していなかったので、半ば信じられない気がした。だが、商店街でふたりが一緒にいるところを目撃していたことを思い出し、だんだん疑いが増してきた。若い男女が、一つの部屋の中にいる。すみれはその状況に妄想をたくましくした。それと同時に、赤沼麗華という恋人とはどうなってしまったのだろうとか、色々な疑問にすみれの心は支配されてしまい、好奇心で一杯になった。

 

 ところで、事件が起こってから、すみれは英治に一度も会っていない。それは祐介も同じだろう。彼は今どこにいるのだろうか。福島県警の刑事たちに捕まって、事情聴取でもされているのだろうか。捜査の進展具合も分からないし、すみれには何も分からない。ただ、警察から解放されただけだ。

 祐介は、スマートホンを取り出して、英治に電話をかけようか悩んでいる様子だったが、無言のままポケットにしまった。

 おそらく、祐介さんは事前に連絡すると、英治さんが彼女をかばって、どこかに逃がしてしまうのではないかと思っているのだわ、とすみれは勝手に思った。

「英治の部屋を知っていますか」

「ええ。確か八階になります」

「行ってみましょう」

 祐介とすみれは、またしてもエレベーターに乗って、上階へと向かった。英治の部屋のドアの前に立って、ノックをしたが、反応はなかった。

「英治?」

 祐介は何度か名前を呼んだが、英治はドアから出てこなかった。室内には本当に誰もいないのかもしれない。


「ふたりでどこかへいったんですよ、きっと」

 とすみれは若干、鼻息を荒くしながら、祐介に言った。恋愛沙汰に違いないと信じているので、興奮してきたのだ。

「ふたりで……。やっぱり、英治は高杉薫という女性と親密な関係になったのかもしれませんね」

 こんな時刻まで、ふたりはどこへいっているのやら、とすみれの妄想は広がる。そして、それは今の祐介と自分の関係を暗示しているように感じられて、嬉しくなり、赤面もする。


「今頃、どっかでデートしているんですね。じゃあ、わ、わたしたちも行きますか!」

「でも、どこにいるのでしょうね。このあたりのデートスポットで有名なところをご存じですか」

「そ、それはもう、夜景が見えるところとかじゃないでしょうか!」

 すみれは興奮のあまり、弾んだ声を出してしまった。祐介は、ちょっと驚いた様子で、すみれの顔を見つめ、

「なんだか嬉しそうですね。じゃあ、僕たちもその場所に行きましょうか」

 と言った。しかし、祐介は、夜景が見える場所というのも雲を掴むようだと思っていた。

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