71 高杉薫の行方
すみれは、祐介に連れられて、高杉薫の部屋へと向かうことにした。父の根来拾三は、自分が加わると威圧感を感じさせるから、と言って、ロビーにとどまることとなった。
二人は、エレベーターに乗り、上階に向かう。すみれは、事件当日に高杉薫と会っているが、彼女のことは正直よく分からなかった。自分がいたところで、上手く話を聞き出せるものなのか、自信はまるで湧いてこなかった。
祐介の背中を見つめ、すみれはこうして至近距離にいられることを不思議に思った。つい数日前は、祐介さんは池袋、自分は前橋にいたのだ、それが今、二人は再会し、こうして小さなエレベーターの中にいる、とすみれは当たり前のことが当たり前に感じられずにときめいた。
「祐介さん……」
すみれはそっと祐介に話しかけてみた。
「はい?」
祐介は背中を向けたまま、返事をした。
「こうして会うのは、久しぶりですね……」
「ええ……」
エレベーターはそこで停止した。そしてドアが開き、二人は上品にライトアップされた清潔な廊下を歩きだした。なんだか、せっかく話しかけたのに、会話が自然消滅してしまったようで、すみれは残念に思った。
廊下にはアロマが漂っている。しかし、それが何の香りなのか、すみれには分からなかった。
「この部屋ですね」
祐介は、一つのドアの前で立ち止まった。すみれは途端に緊張した。高杉薫は事件の容疑者なのだろうか。
祐介はドアをノックした。ところが、名前を呼んでも、返事はいくら待ってもなかった。そこで、祐介は諦めた様子で、すみれの方を振り返り、
「いませんね。寝ているのでしょうか」
と言った。
「でも、まだそんな時間じゃありませんよ」
「そうですね。外出かな」
「どこに行ったんでしょうね」
と言いつつ、すみれは高杉薫が行きそうなところが思い当たらなかった。それもそのはずだ。すみれは高杉薫のことをよく知らない。彼女が舞台役者だという程度のことしか知らないのだから。
「彼女が行きそうなところを当たってみましょう。殺人事件が起こっているのですから、若干、心配もあります」
(そうだ……)
すみれは、高杉薫が事件に巻き込まれ、死体となってどこかの床に転がっているのではないか、という恐ろしい予感と光景が頭をよぎって、不安になった。
「こんな時刻ですから、レストランにでもいるかもしれません。あるいは、バーとか……」
祐介は首をかしげる。
「夜道を散歩しているなんてことも考えられますよ。ここは海が近いですからね」
「そうかもしれませんね。でも、まずはホテルの中を調べてみましょう」
と祐介は、若干、すみれの意見を無視したように言うと、廊下をさっさと歩き出した。すみれは、やれやれ、と思った。名探偵である祐介さんは、一度、事件のことに夢中になると、わたしのことなんかまるで目に入っていないようだ、と思った。
二人は再び、エレベーターに乗り、一階に降りてゆく。レストランに向かうためだ。レストランはロビーの隣にあった。ロビーに根来拾三の姿はなかった。
「根来さん。どこに行ったんでしょうね」
「さあ」
父がいないことはすみれにとって都合が良かった。祐介と二人で行動ができるからだ。この間にできるだけ話がしたかった。
レストランに入ると、そこには可憐な生花がライトアップされていて、ガラス張りの空間に、円形のテーブルが並び、すべてが高級感に満ち溢れている。ガラスの向こうは、ライトアップされたヤシの木が暗闇にそびえていた。
「いらっしゃいませ」
と言いながら、ボーイが近づいてきた。




