59 白月浜水族館
英治は、すみれたちがどうなったのかを知らぬまま、路線バスに乗って、海岸沿いにある水族館に向かった。それは三角形の白月浜町のもっとも南に位置し、白月浜水族館の名で知られていた。世界中の魚が見ることが出来、イルカショーも人気だった。英治は、すみれたちと一緒にいることのできない孤独感を少しでも紛らわすために、人気に溢れ、賑やかな水族館の群衆に紛れ込もうとしていたのだった。
英治がバスの右側の窓際に座ると、隣に親子連れがやってきて、小学生の男の子が座った。若い母親がその隣に立って、しきりに男の子の振る舞いを注意していた。それに気づいて、英治は一瞬、母親に席を譲るべきだろうか、と自問した。しかし自分が席を譲るには、男の子を一旦退かさなくてはならず、母親に話しかけるのもわずかに抵抗があった。それで、あえてその気まずさから逃れるように窓の外に目を向けた。
海岸に沿って続く車道をバスは走ってゆく。景色は、ホテルばかりだった。燦々と降り注ぐ日を一杯に浴びて、建物はいずれも白く輝いていた。
(人生とは、気まずさに堪えることだ……)
と英治は思った。そう思わなければならないほど、すみれたちとのことといい、今の状況といい、彼は気まずかった。その中で、彼はあのチャーリー・パーカー似の店員が、ジャズクラブで演奏をしているので来てください、という言葉が時折、思い出された。しかし、その同情めいた言葉に従うことは彼の中ではまだ許せなかった。そういう複雑な感情にもがいている状況でさらに、このバスの座席は窮屈で、動きが取れないので尚一層、憂鬱になり、どこかで飛び出したいと思った。
バスは、白月浜水族館というバス停に停車した。英治は、小学生の男の子に続いて、バスから降りた。そして、その親子連れをはじめとする人の流れについて、横断歩道を渡り、水族館がある方へと向かった。
水族館は、巨大な建物で、向かって左側には薄い黄色の壁がそびえ立ち、そこから右側に大きく突き出した屋根を支える巨大な柱が何本も続いていた。そして、柱の向こうには、受付があり、ガラス越しに従業員がチケットを販売している。それを買おうとするカップルや親子連れが難民のように並んでいた。
(これは、場違いだな……)
場違いだな、と気づいたのが遅すぎた。英治はここまできて引き返すのもなにか後悔が残りそうな予感がした。それならば、いっそのこと、本当に魚が好きで仕方ないマニアという設定で、一人でもこの列に紛れ込んだ方がよいのではないか、と思った。
英治は、列に並んだ。そして、その列は思ったよりも早く流れてゆくようで、すぐに一番左の受付に誘導された。受付の女性に伝えた「大人一枚」という響きがさらに英治は不安にさせた。果たして、一人で水族館をめぐって楽しいのだろうか、とそう思うのだが、ここまできて、やはり中止することはできなかった。
(とにかく、魚を見て行けばいいんだろ……)
と英治は、自分でこの場所を選んだ癖に、人から押し付けられたような言い回しで気持ちを紛らわせると、チケットを握りしめて、水族館の入り口へと向かった。




