54 不利な状況
「なるほど。そんなことがあったのですね」
と国木田は、黒川のことを疑わしく思いながらも、感情を隠して、静かに頷いた。
酒井蘭珠は、尾形乾吾に代わって、話を続けた。
「ええ。その騒動で、場が白けてしまい、梶原さんはどこかへ行ってしまいました。それで、解散という流れになったのですが、それ以降も、パーティー会場に残っていた人もいました。自由時間のように、皆、各自が好き勝手に行動していたんです。わたしはしばらく、自分の部屋で休んでから、大浴場に行きました。そしたら、そこには未空さんがいました。彼女の鎖骨のホクロを見て、彼女が渚ちゃんではないことを知ったんです。わたしはパーティー会場に戻りました。それから十一時頃でしょうか。そこにいらっしゃる、すみれさんが室内に走りこんできて、渚ちゃんの部屋に死体があるらしいと言ったんです」
「なるほど。そして……」
「そこにいたメンバーで部屋に突入したら、廊下に梶原さんの死体があったんです」
「なるほど」
「ところが、このドアは、内側から鍵がかかっていたんです。それで、室内には、未空ちゃんと梶原さんの死体しかありませんでした。それでみんな、彼女を犯人だと思ったんです。だから、娘想いの東亜先生は、執事と料理人に命令して、死体を谷に捨てさせたんです」
そう言うと、蘭珠は悲しげにうつむいた。
「なるほど。まあ、なんという不幸な状況でしょうね。なんとか、死体が回収できればよいのですが。それから?」
「この一件で、黒川さんが怒ってしまい、東亜先生ら三人を縛り上げて、部屋に閉じ込めてしまいました。それで、残った者でどうしたらいいかと相談していたんです。そのうちに夜が明けてきてしまいました。それで、未空さんとすみれさんが、探偵と刑事のおふたりを電話とメールで呼んでくださったんです」
「なるほど。大体の流れは分かりました。それならば、犯人は羽黒未空さんというわけですね」
と国木田は、鮮やかに断定する。
「いや、待ってください。他の人物に犯行が不可能であったか、しっかりと検討すべきです」
祐介は、未空が今にも逮捕されそうな勢いだったので、柄にもなく、焦った調子で言った。
「それはもちろんですよ。われわれは徹底的に証拠を集めるつもりです。しかし、羽黒さん、あなたの立場からしたら、これはなかなか難しい状況ですよ。あなたが妹さんの無実を証明するためには、この部屋の中に、妹さんと死体しかなかったという証拠を覆さなくてはならないのですからね」
「そうかもしれませんね」
祐介は、国木田の言い方を腹立たしく思った。未空が犯人なわけがないじゃないか、と感情的に言ってやりたいが、そんなことをしたら、かえって、この刑事の思う壺というものだ、と祐介は自分を抑え込んだ。
「それでは、捜査は福島県警が責任を持って行いますから、おふたりは一旦、別室に移動していただきましょうか」
この刑事に勝手なことをされてはたまるか、と根来は不満に思い、一歩前に出た。
「国木田刑事、わたしにも協力させてください」
根来はこう言ったのだが、それには無理があった。根来も刑事なのだから、そんな無茶な話が通るわけがないことは知っていたが、このまま福島県警に捜査を任せてしまうと、未空が逮捕されてしまうことは目に見えていた。
「駄目ですよ。第一、ここでは、あなたは捜査員というより、容疑者の一人です。一旦、ここにいる人々を対象に、事情聴取を進めますから、あなたもそのうちの一人として別室で控えていてください」
根来は、そう言われて、なんとも言い返せなかった。




