53 国木田刑事の追求
「ここで死体が発見されたのでしょう?」
と国木田は、血痕の残る床を見つめながら言った。根来はコホンと咳をする。
「ああ、そのことなのですが、もう死体はこの洋館にはないらしいんですよ」
「どういうことですか」
根来は、長谷川東亜ら三人が死体を谷に捨てたことを説明した。それを聞いて、国木田はいかにも不審そうな表情をした。なんでそんなことになっているんだ、とでも言いだけな表情である。そして彼は、現在、部屋で縛られているという長谷川東亜ら三人をここに連れてくるようにと、部下に告げた。そして、根来はさらに、ここにやってきた顛末を聞いた。未空やすみれからのメールの話もした。
「なるほど。そういうことですか。それで、ここで一体、なにが起こったのですか」
と国木田は、側に立っていた尾形乾吾に話を聞いた。
「殺人事件ですかね……」
「そうらしいですね」
「殺された梶原は、先生の弟子の画家のひとりです。昨夜は、長谷川東亜先生のパーティーに呼ばれてきていて、ここに宿泊する予定でした。そうしたら、十一時頃のことです。わたしたちはまだパーティー会場にいたのですが、そこにいらっしゃる根来すみれさんが駆け込んできて、事件が起こったことを告げました。それでみんなで渚ちゃんの部屋に向かったんです」
「渚ちゃん?」
「そこの女の子です」
指差された未空は慌てて、首を横に振る。
「人違いです!」
「どういうことですか。人違いとは……」
と、国木田は眉を潜める。
「みんな、わたしを行方不明になった長谷川先生の娘さんだと言い張るんです」
「じゃあ、あなたは本当はどなたなのですか」
「羽黒祐介の妹、未空です」
国木田はすでに聞いている情報とつながり、頷いた。
「あなたが羽黒未空さんなのですね。お兄さんは、あなたのことを心配して、この白月浜まで来ていたそうですよ。しかし、面白い状況だ。あなたはみんなに渚ちゃんと思われているわけですね」
「ええ」
「それはなぜですか」
と国木田は、尾形乾吾の方を見る。
「瓜二つだからです」
「なるほど。それで、他の方も彼女のことを渚ちゃんだと?」
「当たり前だ」
と黒川は、そうでなければならない、と言わんばかりの強情な態度である。
「でも、わたしは彼女が渚ちゃんじゃないことを知っていました」
と酒井蘭珠が言った。
「それはどうして?」
「彼女の、お風呂で一緒になったんですけど、彼女には、渚ちゃんにはなかったホクロが鎖骨にありましたから」
国木田は、鎖骨という言葉に惹かれながらも、それを表に出さず、はあ、と無感情な声を出して頷いた。
「でも、男性陣は、とても揉めていましたね」
と蘭珠は言った。
「揉めていた、とは?」
「渚ちゃんのことで口論になったんです。誰が、渚ちゃんの心を射止めるか、以前からずっと争っていたのですからね。それが、あの子が失踪して以来、うやむやになっていたんです。ところが、彼女が戻ってきた。少なくとも、みんなはそう思ったんです。それで男性陣は口論に……」
「誰と誰が口論になったのですか?」
「主に、梶原さんと黒川さんでした。もう掴み合いの喧嘩です。そして、黒川さんは梶原さんに「殺してやる」と言ったんです」
黒川は自分に都合の悪いことを言われたせいか、不機嫌そうに言い返す。
「本当に殺すつもりだったわけじゃない。ただ、あいつが渚ちゃんをわが物にしようと公言したから、そんな勝手は許されないと、俺は一喝したんだ」




