51 尾行
祐介と根来が、長谷川東亜の洋館に向けて出発したのは、その直後のことだった。
ふたりはまだ警官の居残っている中川旅館から弓矢のように飛び出ると、昨日、借りた自動車に乗り、温泉街から山の方へ、つまり長谷川東亜の洋館へと向かった。この時、ふたりの表情は緊張感に包まれていた。
この異常な行動に異変を感じた、塩崎刑事の部下の国木田刑事は、すぐにパトカーに乗ると、車の後を追った。このことは、すぐさま塩崎刑事に報告された。
『怪しいな。国木田。そのまま尾行を続けるんだ』
「はい。まかせてください」
部下の国木田刑事は、根来警部の乗っている車から適切な距離を取りつつ、尾行を続けた。最初、根来たちは、白月浜神社に向かっているのかと思った。が、分かれ道で右に曲がったので、国木田はいよいよ目的地が分からなくなった。白月浜神社は、左側の道を道なりに進んだところにあるのである。
根来たちの車が赤信号で停車したので、国木田は慌てて、左手にあるコンビニエンスストアの駐車場にパトカーを突っ込ませた。縁石に乗り上げそうになる。それはあまりにも唐突で、不自然な動きだったが、上手い具合に、根来達の車はそのまま発進した。
「危なかった」
国木田は、気付かれていないと確信し、パトカーを運転し、尾行を再開した。
車はどんどん山の中に入ってゆくようだった。このあたりは、田舎らしい民家が片側に見えるぐらいで、観光地の賑やかさはない。なだらかな登り坂が続く。正面の空には、長谷川東亜の城がそびえている。
まさか、あそこに向かうのか、と国木田は思った。そういえば、根来警部の娘さんたちはあの城のパーティーに参加していたということだった。その二人に会いに行ったということなのだろうか、しかし、それだったら、なにもこんな早朝に出かける必要もないし、警官に一言、声をかけてゆくはずだ、第一、あの焦った様子が説明できない、と国木田は首を傾げた。
「だが、なにかある」
国木田は、刑事の血が騒ぎだすのを感じた。前方の車は、城門のような門の前に止まったので、国木田も停車した。車から根来と祐介が跳び出て、門のインターホンのボタンを押したようだった。しばらくして、門が開き、中から若い男が出てきた。爽やかな好青年である。三人は何事か、その場で。早口に喋っているようだった。そして、急いでいる様子で中へと入った。
(どういうことだ。しかし、まだ乗り込むのには早いな)
国木田は、このことを塩崎刑事に連絡した。
『わかった。しばらく、外で様子を見ているんだ。何かあったらすぐに知らせるんだ。根来警部が犯人ということも十分に考えられる』
そう言われて、国木田は相手に見えていないのに頷いた。しかし、国木田は、館内の様子が気になるあまり、パトカーから出て、城壁のような塀の外側を一めぐることにした。
早朝だから、とても空気がひんやりとしている。鳥の羽ばたく音が聞こえ、枝葉が風に揺れている。塀に沿って、散歩道のようになっている。
城の裏側に来ると、地面が丘のように盛り上がっているから、上階のベランダがわりと低く感じられる。そこから何やら、会話が聞こえてくる。国木田は耳をそばだてた。その時、男性の怒鳴り声が聞こえてきた。
「とにかく、死体はあったんです。それもここにね!」
国木田は驚いて息を小さくし、塩崎刑事に連絡する準備をした。




