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48 怪しげな根来警部

「しかし、青酸カリが吸引器に仕込まれていたのだとしたら……、犯人はいつ、そいつを仕込んだのだろうなぁ」

 と根来は、顎に手を添えると、考え込んだ。ところが、そもそも情報が足りていないので、いくら考えても、埒があかなかった。見かねた様子で、塩崎刑事が口を開いた。

「勿論、それが問題なんですよ。東京にいる段階で仕込まれたものなのか。白月浜町に到着してから仕込まれたものなのか。いずれにしても、被害者(ガイシャ)の足取りを調べる必要がありますね」

 塩崎刑事は、どこか冷たく棘のある口調だった。それが根来は少し気になった。どこか自分に対して敵意が滲み出ている気がするのだ。しかし、そんなことは気にしていられない。


「吸引器は、すでに何回分、使用されていたんですか。また、服薬の時間帯はいつごろと指定されていたのですか……」

「それはもちろん、調べているわけですが、そもそも被害者が処方された通りに服薬していたかは分かりませんからね。いずれにせよ、おそらく、被害者は夜間になって、喘息症状を引き起こし、薬を吸引しようとした。そこで、吸引器に付着した青酸カリを吸って、死亡したのでしょう。まあ、はっきりした情報は、これから明らかになってくると思いますよ」

 そう言うと、じろりと根来を睨んだ。根来は、鷹に睨まれたようで、胸がどきりとする。隠れたくなる。なんとなく、野に放された兎の気持ちなのだ。


「それで、根来さんは何故、この白月浜へ?」

 そうだ、それを言わなければならない、と根来は熱く語り始めた。

「それが、わたしの娘がこの白月浜に観光しに来ているんですがね、どうも、破廉恥なパーティーに参加しようとしているらしいんですよ。それで、俺とこの羽黒の二人で、わざわざ、止めに来たというわけなんですよ」

「破廉恥なパーティー?」

 塩崎刑事は、さも馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに眉を潜め、根来に冷めた視線を浴びせかけた。根来は、自分がおかしい発言したように思われた気がして、慌てて手を横に振りながら、

「いや、違うんですよ。破廉恥なパーティーといっても、そんなに破廉恥ではなくてですね……。どうも芸術家の集まりのようなものらしいんです」

 と言った。

「芸術家。すると、もしや、長谷川東亜の集いですか……」

「えっ、ご存知ですか」

「有名ですからね。毎週、芸術家を招待して、あの城館の中で、パーティーを繰り広げているらしいですからな。なんでも、長谷川先生は、娘さんが行方不明になってから、寂しさを紛らわすために実施しているのだとか……。まあ、あくまでも、噂ですがね」


 根来は、そう言われてみると、それほど破廉恥なパーティーでもなかったのかもしれないな、と思い直した。一体、誰だろう、破廉恥なパーティーとか言い出したのは、と彼は思って、隣の祐介をじろりと睨んだ。祐介は、仏像のように静かに縮こまって、塩崎の話を聞いているところだった。

「それで、結局、娘さんには会ったのですか?」

 と塩崎刑事。

「いや、それが、わたしたちが長谷川なんちゃらの邸宅に到着したのは、もう十一時を過ぎた真夜中で、チャイムを鳴らしても、誰も出てこなかったんですよ。それで、おそらく、もうパーティーは終わって、娘たちはホテルに帰ったんだろう、と思って、諦めて、この旅館まで帰ってきたんです」

 根来はそんなことを言いながら、何のためにここまで来たのか、まったく分からない気持ちになっていた。


「なるほど。そういうことなのですね。では、被害者(ガイシャ)と生前会ったことはないのですか」

「ないですね。なあ、羽黒。会ったことないよな?」

 と根来は、祐介の方に話を振る。祐介は、首を傾げる。

「少なくとも、僕の記憶では、死体を発見した時が初対面でした」

「なるほどね」

 と塩崎刑事は、手帳にメモを取る。

 根来は、なんとなく自分は疑われているな、という嫌な感覚がいよいよはっきりしてきたので、居心地が悪そうに、座布団の上で座り直した。


「まあ、わたしたちがこの町に着いたのは、もう日が暮れた後のことですから、犯行をするような時間的余裕はないですよ」

 と根来は、弁解がましく、何の根拠もないことを述べた。

「日が暮れた後だから、犯行をする余裕はない、というと? では、根来さんは、犯行は日中行われたと仰るのですか。その根拠は?」

 塩崎刑事は、根来の発言の隙をついて、容赦なくプレッシャーをかけてきた。根来は、まずい、と思って首を横に振った。

「いやいや、到着したのが何しろ遅いものですから、時間的に犯行は無理かな、という意味です。でも、ああ、そうか。青酸カリが仕込まれた時刻は、俺たちが到着した後である可能性もあるのでしたね。これは、失礼しました。あはは……」

 と根来は焦って、白々しい笑い声を上げたので、余計に怪しげになってしまった。

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