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44 密室の問題

 すみれが知らせたのだろう、短い廊下の先のドアが、激しく叩かれる音が聞こえ、すぐに男性の荒々しい声が響いた。

「おいっ、ここを開けるんだ!」

 しかし、未空は死体に近付くことの恐ろしさから、掛け布団から顔も出せずにいた。恐怖が心を覆い、吐き気が幾度となく襲った。そして、布団の中に隠れているうちに、ドアの向こう側の慌ただしさは次第に増しているようだった。

「こうなったら、ドアを壊して、開けるしかない!」

 そう声がし、続いて、どんと大きな音が響き、ドアが軋む音が聞こえた。体当たりをしているのかもしれない。しかし、体当たりをして、あのドアは壊せるものなのか、自分が行って、鍵を内側から開けるべきなのではないだろうか、と未空は怯えながらも、責任を感じるのだった。


 しかし、しばらくしてドアは壊されたらしく、物音がより鮮明で大きくなった。そして、怒鳴るような、叫び声のようなものが布団越しに聞こえてきた。

「おい、死んでいるぞ!」

「梶原……さん……!」

「渚ちゃんはどこにいったんだ?」

 その声はさらに近付き、どたどたと忙しない足音が近づいてくる。そして、掛け布団が剥ぎ取られると、未空は驚いてのけぞり、ベッドの向こう側に転げ落ちた。


「大丈夫?」

 未空がその声に、はっとし見上げると、そこにはあの尾形乾吾の端正な顔があった。

「渚ちゃんは無事だったのか……」

 ダンサーの黒川が乾吾の背後から現れ、未空を見て、ほっとしたように微笑み、そして不快そうに、尾形乾吾をじろりと睨んだ。


 未空が、ちらりと廊下の方を見ると、数人の人影が皆、放心し、男性の死体を静かに見下ろしていた。パーティーの会場にいた人々だったが、長谷川東亜の姿はなかった。その後ろに、すみれの怯えた表情があった。


 黒川が、乾吾を邪魔そうに退かしながら、未空に近付いてきて、肩を掴んだ。

「でも、渚ちゃん、何があったんだ。梶原(かじわら)とは一体……」

 未空は、梶原という名前を聞いたことがなかった。なんと答えてよいのか分からず、ぼうっとしていると、黒川はあたりを見回し、

「しかし、今、この室内に、もし渚ちゃんしかいないとしたら……」

 と震えた声で、苦々しく呟いた。

「どうした。何を言っているんだ……?」

 乾吾が怪訝な表情で、黒川の顔を見る。

「分からないのか! あのドアには、内側から鍵がかかっていた。そして唯一の鍵は、あの執事が管理しているはずなんだ」

「それが一体……」

「つまり犯人は、梶原を殺害後、あのドアからは出ていないんだ。まだ、この室内のどこかにいるはずなんだ。探すんだよ!」

 それを聞いて、未空は自分の置かれている状況を理解することができた。もし、まだ犯人がこの近くにいるのだとしたら、と思うと恐怖心が込み上げてきて、吐きそうになった。


 黒川はすぐに、洗面所のドアを開き、トイレの中を見た。乾吾は、カーテンを開き、ベランダに誰かいないかを確認した。その後、乾吾が、洋室に向かおうとすると、酒井蘭珠がドアから出てきて、首を横に振って一言。

「誰もいない……」

 黒川は、拍子抜けした様子だ。沈黙に包まれる。しかし、彼は未空の顔を見た。

「だとしたら、刺せるのは……」


「そんなわけないだろ!」

 乾吾が驚いてすぐに叫んだ。

「まさかお前は、渚ちゃんが梶原を刺したとでも言うのか……」

「………」

 黒川は答えることができず、絶望的な表情を浮かべ、顔を背ける。しかし、未空も分かっていた。この状況では、そうとしか考えられないのだ。密閉された室内に、死体と二人っきりだったのだから。ただ、そもそも自分は渚ではない、とも思った。

 黒川は、意を決したように話し出した。

「俺は、渚ちゃんが梶原を刺したとしてもおかしくないと思う。なぜなら、梶原のやつは、渚ちゃんを我がものにしようと考えていた。だから、密かに渚ちゃんに会いに来たのかもしれない。だが、渚ちゃんに……」

「そんな……」

 ただ、未空は、あの男性を殺害した記憶はない……。

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