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34 パーティー会場

 執事は未空をちらりと見て、その渚と瓜二つの外見に驚いた様子ではあったが、執事という立場のためだろうか、何も言及することはなく、にこりと笑うと歩き出した。

 すみれも、その老執事に案内され、香坂たちと共に洋館に入って行った。


 玄関は、洋風の造りで、靴を脱ぐ土間はなかった。すみれたちはそのまま直進し、円形の白い空間の中央に、黒い鳥のような形をした奇妙な彫刻が飾られているロビーの先にあるエレベーターに乗って、四階に上がることとなった。

 芸術家のパーティーなどというものには一度も参加したことのないすみれは、これから何が起こるのか、どんな空間に入ってゆくことになるのか、想像がつかず、心が落ち着かなかった。

 変てこな仮装の人びとが赤やら青やらの照明が天井でまわる中で踊り狂っているイメージが、突如としてすみれの脳裏に浮かんだ後、それを打ち消すように、スーツ、ドレス姿の男女が物静かに立食パーティーをしている情景が浮かんできた。

 すみれは、ガラス張りのエレベーターの中で、いかにも観光客らしい自分の姿がガラスに映ると途端に、これじゃ場違いなんじゃないか、とんでもない恥を掻くんじゃないか、という恐れが胸の底からこみ上げてきた。

(どうしよう……)

 そう思いながらまわりを見ると、他の人は自分と同等か、それよりもひどい格好をしていたので、すみれは氷が溶けるように不安がなくなってゆくのを感じた。


 エレベーターが到着したのは四階である。四人は執事に連れられ、ドタドタと下品な足音を立てながら、赤い絨毯の敷かれた廊下を闊歩し、その勢いを崩さずにパーティーが行われている部屋に雪崩れ込んだ。

 その部屋は薄暗く、官能的なランプの灯りに包み込まれているようで、黒いソファーがいくつか並び、真ん中には大きなテーブルがあった。そこには豪勢な料理が並べられているようだった。数人の男女がくつろいで談笑しているようで、そこに若き芸術家たちの狂乱などはなかった。ただ、誰もが酒を飲んでいるらしく、少し浮ついた雰囲気は感じられた。

「香坂君と薫君! 来るのが遅いじゃないかね!」

 と一番奥に座っている髭の老人が叫んだ。それは怒っているというより、親しみのこもった挨拶のようだった。


 すみれは彼こそ、長谷川東亜に違いないと確信した。いつかの雑誌で見たことのある逆立った黒い髪の毛、そして顎を覆うような髭、気難しそうな顔つき。彼はワイングラスを片手に、いかにも愉快な微笑みを浮かべ、ソファーにもたれかかっていた。

「すいません。こちらのお嬢さま方のお迎えに上がっていたもので……」

 と、香坂は何故かうきうきとした口調で自慢げにそう言うと、すみれと未空をぐいと前に押し出した。

 すみれは芸術家たちの視線を浴びることに抵抗を感じ、慌てて、後ろに引きさがろうとしたのせいで、結果的によろめきながら前に歩み出ることになった。

(うわっ、変な感じになっちゃった……)

 ところが誰もすみれのことなど見ていなかった。

「渚!」

 長谷川東亜はそう叫んで立ち上がった。そして、料理の並んだテーブルとソファーの間をぬって、あっという間に、未空の前に押し迫ってきた。東亜の驚愕の表情が、未空の眼前に展開された。未空はうわっと思って、二、三歩下がった。それを強張った表情で見つめる東亜。

「渚なのか?」


 すみれがまわりを見ると、そこにいる男女、皆この二人に注目していた。

「生きておったのか」

 未空は慌てて首を横に振った。

「よかった! 本当によかった!」

 未空は、その東亜にぐしっと抱きしめられて、抵抗することもできず、ふらふらと海面に浮かんだ葉っぱのように頼りなく、宙をさまよっている心地であった。

「先生、その方は羽黒未空ちゃんと言って、渚ちゃんとは別人です……」

 と薫が東亜にそっと告げた。

「別人なわけがあるかい!」

 東亜は、涙を流しながら、そう薫に反発した。

「月から帰ってきてくれたのだなぁ。そうだろ。渚……」

 未空は必死で首を横に振り続けた。

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