表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/218

29 中川旅館

 羽黒祐介は、満腹感に苦しみながら、新幹線が到着した福島駅から電車で白月浜町へと向かった。

 一体、この苦しみはなんだろう、と腹を抑えながら考えると、今の今まですっかり忘れていたが、池袋の事務所でチャーハンと餃子を食べたのに、また新幹線内で鱒ずしを食べてしまったせいだと気づいた。

 根来は、二人前を平らげても、まだ腹が減っているらしく、ちらちらと街の店の看板などを見ていた。

 白月浜町に着いたのはもう夜のことで、時計を見るともう十時である。芸術家のパーティーはすでに始まっているに違いないが、駅前からバスはもう一本も走っていない。祐介は、どうしよう、と困った。


「とりあえず、泊まる場所がなけりゃどうしようもないからさ。このあたりの中川旅館っていう、旅館みてえな民宿みてえなところに、チェックインするとしようぜ」

 という根来の一言もあって、二人は静まり返った店と店の間、暗い夜道をとぼとぼと歩いた。このあたりは温泉街なのであるが、賑やかな通りから外れてしまっているために、まったく人気がない。

 さらさらと黒い川が流れている。その上を橋が架かっていて、そこを越えて、左手に進めば観光スポットである白月浜神社、まっすぐ道なりに進むと、白月浜の商店街が近いようである。

 白月浜の名前の通り、夜空を見上げると白い月が雲の間から光を落としている。いやに静かだ。二人は怖がるでもなく、ただ夢心地で歩いた。


 二人が温泉街に入ると、そこは旅館がいくつも建ち並ぶ、曲がった石畳の坂道が続くところだった。その右側に古めかしい旅館が建っている。生け簀には鯉がいて、ガラスの中には、いかにも高そうな壺が飾られている。建物自体は上等な印象ではないが、赤っぽい照明によって、「中川旅館」と記された看板も少しばかり雰囲気が出ている。

「ここだなぁ」

 と根来は言って、祐介の返事も待たずに、自動ドアに近づいた。


 あんまり遅いから、もう今日は来ないのだろうと思っていた旅館の主人は、突然、現れた根来に驚き、目を瞬かせながら、カウンターに宿帳などを用意をした。

 根来は、荷物を渡しながら、

「今から長谷川東亜の屋敷に行きてえんだが……」

 と主人に語りかける。

「はあ、長谷川東亜先生の」

「バスはあるかい」

「この時間、もうありません」

「なんだって……」

 当てが外れたので、根来は途端に不機嫌になった。パーティーに間に合わなかったら、はるばるここまで来た意味がなくなってしまう。

「なんとかならないのか。電車は……」

「駅は、白月浜駅しかありません」

「屋敷に徒歩でいくと……」

「二時間ぐらいかかりますか。山の方ですからね……」

 根来は、祐介の方をちらりと見て、

「一体、どうしたらいいんだ……」

 と呟くように言った。

 祐介は、

(知らんよ……)

 と思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ