28 牛タンと鱒ずし
祐介はもやもやしている。確かに、デッキには未空のような少女がいた。しかし、そんなはずはない、アリバイトリックもののミステリー小説じゃあるまいし、まさか白月浜という、これからゆく目的地にいるはずの妹が、そこへ向かう新幹線の中にいるわけがないので、トイレから席に戻っても、根来に言う気にはなれなかった。
根来はすでに牛タンの乗った駅弁をさも美味そうに食べ始めていた。彼は、白飯の塊の上に牛タンの焼肉を二枚乗せて、そいつを丸ごと箸でつまんで、口に放り込む。そして、サイダーを一気に飲み込む。また白飯に箸をつける。そんなことを繰り返している。
祐介は、ぼんやりしながら根来の豪快な食べっぷりを眺めていたが、しばらくして自分も鱒ずしの駅弁を開けて、箸をつけて、頬張り始めた。
「一つで足りるのか」
と根来は祐介の鱒ずしを見ながら心配そうに言ってた。見ると、根来はすでに二つ目の駅弁の蓋を開けている。
「足りますよ。そりゃ……」
祐介は呆れてそう言って、白飯を口に入れた。
駅弁を食べ終えると、新幹線の中というのはあまりやることがないもので、祐介は暇になった。近頃の新幹線は食堂車もないので、遊びにゆくところもない。ただ、未空にそっくりな少女のことだけが気になっている。あれやこれやと考えているうち、隣の根来は、いびきをかいて寝入ってしまった。
(呑気なもんだ……)
祐介はそう思った。
祐介はすることがないので、スマートホンで今、向かっている白月浜町のことを調べ始めた。
漁港が近くにあり、海産物が豊富にある。浜辺、商店街や水族館、白月浜タワーなどというものまである。山側には温泉が湧いていて、歴史のある神社があるというから、観光にもってこいの街というわけだ。
祐介は頷きながら、白月浜町だけでなく芸術家、長谷川東亜のことも調べる。
検索して出てきた長谷川東亜の顔は、まるでダリのようにとんでもないものであった。黒い髪の毛が逆立っていて、口髭や顎髭も伸びている。目つきは鋭く、カメラを睨んでいるようである。
(これは信用できない……)
祐介はこの芸術家が大好きだという妹のセンスを疑った。まあ、そういう妹自身もアフリカの民族芸術とヨーロッパの現代アートを合成したような、わけのわからないものを描いているから、同類には違いないのだが……。
そうしているうちに根来が目を覚まし、起きてきた。根来は背伸びをして、窓の外を眺める。何も見えない。夜なのだ。
「そういえば、根来さん。宿はもう取ってあるんですか?」
と祐介が言うと、根来は、
「ああ。中川旅館って、昔ながらの旅館を取っておいた。民宿みたいなところだと思うが……」
と言って、欠伸をした。




