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27 東北新幹線の中で

 祐介は根来に連れられて、駅構内の駅弁屋に立ち寄り、鱒ずしの駅弁を購入した。

 祐介は買ってから、これから港町に行くんじゃないか、なにもここで海鮮料理を買わなくても、と後悔もした。しかし、だからといって食べたいものをわざわざ避けるのもおかしい気がする。

(鱒ずしが食べたかったんだから、いいんだ……)

 ふたりはホームに出て、東北地方へと向かう新幹線やまびこに乗り込んだ。祐介が新幹線に乗るのは久しぶりのことだった。ふたりは空調の完備された車内を歩き、二つ並んでいる紫がかった座席にもたれかかった。


 窓際の席に座っている根来は、スルメイカの袋を取り出し、二本の足をつまんで口に放り込んだ。

「ビール、飲まないんですか?」

 と祐介が尋ねると、根来は不満げにふうと唸った。

「すみれの身に何かあるかもしれない時に、酒に酔うのはいかんだろ」

 そう言って、根来はスルメイカだけを黙々とかじり続けている。なかなか面白い見た目だった。祐介はふふっと笑って、腕時計に視線を落とした。いつの間にか、新幹線は走り出している。わずかに背もたれに押し付けられている感がある。窓の外を見ると暗くて何も見えない。夜なのだ。これから一時間半後には福島駅である。


 祐介は、ほっぽりだしてきた浮気調査の仕事をどうしようか、と青くなってきている。一日で用事を済ませて、東京に帰ってくるしかないな、と思う。つまり、いかがわしいパーティーからふたりを連れ戻して説得し、少しだけ観光して、明日中には帰ってこようと思う。ちなみに未空に何度も電子メールを送っているが、返事はまったくない。祐介は気になって、何度も携帯電話を確認しているのだが……。

 祐介がもやもやしていると、根来が酒の代わりに買ったサイダーをあまり美味しくなさそうに飲んで、しみじみと語りかけてきた。

「しかし、懐かしいな。こうしてふたりで旅行するのは青月島以来じゃないか?」


 祐介はあまりそんな気がしない。その後に五色村でも一緒だったし、今年の春なんて、ふたりして教師に成りすまし、紫雲学園に潜入捜査したじゃないか、と思う。しかし、根来の妄想は、青月島までさかのぼっているらしい。

「あの時は大変だったなぁ。ふたりして殺されかけたからなぁ……」

「そんなこともありましたね」

「あの時、殺されていたら、こうしてスルメイカをかじることも、駅弁を食べることだってできねえんだからな。恐ろしいもんだ……」

 根来は真剣な表情でそう言うと、三分の二、残っているサイダーをビニール袋に戻した。お気に召さなかったらしい。


 祐介は、トイレに行くと言って、席を立った。新幹線は、座っていると揺れを感じないが、立ち上がって歩き出すと、さすがにふらつく。祐介は、左右に揺られながら、トイレのあるデッキに向かった。

 デッキに入るとそこで女子トイレからちょうど出てきた人に出くわした。あっ、と祐介は驚きの声を上げそうになった。

 女性はさっと身を翻すと、奥の車両に歩いていった。自動ドアが閉まる。

「未空?」

 返事はなかった。祐介はしばし狐につままれた心地でその場に立ち尽くした。

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