24 名探偵 羽黒祐介
池袋駅東口から王子駅の方向に明治通りをふらふら歩いていき、喧騒から離れると、羽黒祐介探偵事務所のあるビルに行き当たる。
階段をのぼるとすぐに入り口がある。
私立探偵の羽黒祐介は、人類史上、類例のない美男子であった。来年三十歳になる。彼は、事務所内のソファーに座って、さらりとした黒髪を撫で、憂いの漂う瞳の視線を紙の上に落としていた。
祐介はこの時、浮気調査の資料に目を通していたのだが、まったく仕事に集中できていなかった。胡散臭いパーティーに誘われた妹のことが心配でならなかったのだ。祐介はふうとため息をついた。
窓の外を見ると、もう夕暮れである。池袋のビルに囲まれていて、空は見えないが、なんとなく分かる。ちなみに池袋は日が暮れても騒がしい。いや、日が暮れてからが本当の喧騒の池袋だと言える。酔っ払いがゾンビのように歩いている。
(英治がいないと、食べるものがないな……)
祐介は助手の英治がつくる料理を食べる生活を何年も続けてきたせいで、自分ではろくに料理ができない。こんな日は困ってしまう。祐介は台所に向かい、冷蔵庫を開き、食材をじっと眺めた後、何のアイデアも浮かばなかったので、出前を取ることにした。
地元の中華料理屋に電話をかけると、威勢のよい店主が「すぐにお届けする」と言って、電話を切った。
祐介は、助手のいない寂しさを感じながら、ひとり、また資料を読み込むことにした。出前のことなど忘れかけた頃に、中華料理店の店員が到着した。店員は、愛想の良いタイ人の男性だった。彼は流暢な日本語を話した。
「チャーハンと餃子ですね」
日本でこうして中華料理店に勤めている彼をわざわざタイ人と呼ぶのもなにか余計な気がした。日本は開かれた日本になってから久しいというのに、いまだに外国人を特別に意識してしまう。
彼は祐介にチャーハンと餃子の盛られた皿を手渡し、代金を受け取ると忙しそうに帰っていった。
日本は急速に多国籍化しているな、と祐介はチャーハンを頬張りながら思った。池袋にいるせいかもしれない。しかし、日本が国際化している証拠だとも思った。日本の伝統が壊されると思う人もいるのかもしれない。しかし、日本は元々、色んな人種が集まってできた国だった。古代においては、朝鮮半島や中国大陸からの渡来した人びとが果たした役割は大きかった。近世における、南蛮貿易や、朱印船貿易の際も、かなりの異民族の流入があったことだろう。さまざまな人種が入り混じっている。異国文化の集積地、日本文化とはきっとそうしたものなのだろう。これからはいっそう、さまざまな価値観が日本列島に入り乱れることだろう。それらが外見は異なりながらも、しっかりと理解しあい、尊重し合う。そういうジャズのフィーリングのようなものが、これからの日本には必要だろうと思った。
助手がいないと、ややこしいことを延々と考えてしまう。
(それにしても、このチャーハン美味しいな……)
これからもこのチャーハンは食べ続けたい、と祐介は感じた。英治はしばらく帰ってこないだろうから、明日もこのチャーハンでいいか、と思った。
祐介がそんなことを考えて餃子を口に放り込むと、机の上の電話が鳴った。
祐介が取ると、聞き覚えのある声がした。
『俺だ』




