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22 渚にそっくりな少女

 英治は、話がまとまると、薫を連れて、エレベーターに乗り、一階に降りた。一時はどうなるかと思ったけど、なにはともあれ、薫が付いて行ってくれることになったので、これで一安心だ、と安堵のため息をついた。エレベーターの中では会話はなかった。まもなくドアが開いて、ふたりはロビーに出た。


(あれは……?)

 上手い具合に、ロビーの先の土産物売り場にすみれと未空の姿があった。先ほどのチャーリー・パーカー似の黒人の店員が、お土産の饅頭を細かく切って、ふたりに味見をさせている。

 英治は、薫の方をちらりと見て、いましたよ、とばかりにアイコンタクトを送った。あまり薫は、あまりピンと来てなさそうだったが、英治が率先して土産物売り場の方に歩いてゆくと、ふたりの女性の姿が見えて、大体、状況を察したようであった。

「やあやあ、おふたりさん、そこで何をしているんだい?」

 と英治が、イルカの刺繍されたハンカチを見ていたすみれに話しかける。すみれは顔を上げると、

「ああ、英治さん。先に父へのお土産を選んでおこうかと思って……」

 と、すみれは言いきらぬうちに、英治の後ろに立っている薫に気づいて、思わず、口ごもった。この人は、商店街で英治さんと一緒にいた人だ、どうしてここに、と思っているのだが、英治はそんな場面を見られていたとは思わないので、すみれの反応が解せず、違和感を覚えた。

「もしかして、このお二人が……?」

 と薫はマイペースな様子で、まごついているすみれの顔と、バームクーヘンに見入っている未空の後ろ姿を交互に見比べた。


「そうなんですよ。こっちが根来すみれさん。それで、あそこにいるのが羽黒未空ちゃん」

 名前を呼ばれて、未空は振り返った。その時だった。未空の顔を見た薫は、稲妻に打たれたかのように驚きの表情を浮かべて、放心した。瞼が大きく見開かれ、口もぽかんと開いている。埴輪にこんな表情のものがあると英治は思った。しかし、英治は、その顔の意味が分からず、何も考えられなくなり、ぼんやりとその顔を見つめてから、今度は戸惑いながら未空の顔を見た。未空の表情はいつもとまったく変わっていなかった。

「渚ちゃん……?」

 と薫は震えた声で呟き、ふらつく足取りで、未空に近づいた。未空は驚いて、チャーリー・パーカー似の店員の後ろにくるりと隠れた。

「ねえ、どうしたんですか。薫さん?」

 英治は心配になって尋ねた。

 薫はまだ心の整理がつかない様子で、何も語れず、呆然と立ち尽くしている。すみれも何事だろう、という顔で見つめている。

「そんな……だって、こんなことが!」

 薫は混乱しているらしく、そう叫ぶと、貧血を起こしたように、ふらりとよろめいた。慌てて、英治が後ろから抱きかかえた。ところが、思っていたよりもずっしりと重たくて、英治の腰は悲鳴を上げ、ふたりはそのまま体が重なりながら、お土産売り場の棚に飛び込んでいった。棚が揺らぎ、包装された箱がばらばらと床に落ちた。しかし、それだけでふたりはすぐに立ち上がった。


「まずいよぉ!」

 チャーリーパーカー似の店員はそう叫んで、慌てて床に落ちた箱を棚に戻した。

「いったいどうしたと言うんです。薫さん」

 英治は腰に手を当てながら、薫に尋ねた。そこで、薫は未空を指差して、こう叫んだ。

「この子が、長谷川東亜先生の行方不明になった娘さん、渚ちゃんです!」

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