21 どこまでも尽きることのない道
英治は驚きを隠せなかった。そして、しばらく薫のその勇敢な姿を眺めていた。彼女は真剣な様子で、スクリーンの中のゾンビの大群に銃弾を連射していたが、ついに間近に迫ってきた一体のゾンビに噛みつかれて、ゲームオーバーとなったようだった。
スクリーンはタイトルの画面に戻った。ゾンビたちが廃墟の中を歩きまわる映像が流されている。薫はいかにも不満そうに眉をしかめると、マシンガンを台に戻した。
「高杉さん……」
と英治は話しかけた。薫は振り返った。
「ああ、あなたですか」
「こんなところで、なにをしているんですか」
「いえ、ちょっとゾンビを退治しようと思ったのですが……」
と薫は言うと、本当に悔しいらしく、下唇を噛んで、床を見下ろした。しばらくして、薫は顔を上げた。
「あなたこそ、何をしているんですか?」
英治はそう尋ねられ、実はあなたを探していたのです、と正直に言うのはあまりにも恥ずかしいことのように感じられ、何と言ってよいのか、分からなくなった。
「いえ、ちょっとね」
「ちょっと、ってなんですか」
「うん……」
英治はちらりと薫の瞳を見つめる。その迷いのない瞳にはどこまでも尽きることのない道が映っているように見えた。
「高杉さん、長谷川東亜先生のパーティーに招かれているでしょう?」
「そうかもしれませんね」
「実は僕の連れの女性二人も、そのパーティ―にお呼ばれしているんです」
「へえ、そうなんですか」
それはなんという運命の糸だろう、とでも言いそうな驚きの表情をしている、と英治は思った。しかし、その声の調子はどこか冷ややかでもあった。
「実はそのことで、ちょっと気がかりで。決して怪しいパーティーだなんてと思っているわけではありませんが、二人がそう言うパーティーで、いかがわしい人物に誑かされないか心配なんです」
「いかがわしい人物ね」
その言葉が面白いらしく、薫の口の中でその言葉を繰り返す。
「高杉さんに二人の見守りをおねがいしたいんです」
「見守りって、つまり何のことですか?」
「いえ、なに、大したことじゃないんです。パーティーの間、ふたりと一緒に行動してくれたらそれでいいんです。変な男が寄り付かないようにね」
「ああ、なるほど。変な男ね。たしかに写真家の香坂さんなんて変でいかがわしい男ですよ。いつだって水着になってくれる、可愛らしいモデルさんを探していますからね」
「誰ですって?」
「写真家の香坂さん」
英治はぶるりと肩を震わした。そんな話を聞いたら、根来警部や羽黒祐介は何というだろうか。
「そういう方もいるのですか。心配だなぁ。実に心配です。どうか、そういう破廉恥な誘いがふたりに来ないように見守っていてほしいんです」
「破廉恥な誘いだなんて大袈裟ですね。別に本人たちが水着モデルになることを望むのなら、それを止める必要性はどこにもないと思いますけどね」
「まあ、それもそうなのですが、なにしろ、お堅い性格のお兄さんとお父さんが池袋と群馬にいるもので。この旅行中に起こったことはすべて僕の責任になるんです」
そう言うと、薫はなるほど、とばかりに頷いた。いかにもどうでもよさそうでもあったが。
「わかりました。それじゃ、パーティーではその方々と行動を共にしましょう。ところで、そのふたりは今どこにいるんですか」
「それが、どこにいることやら……」
英治は首を傾げた。あのふたりは今、どこにいるのだろう。




