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106 ゆかりの秘密

 英治とゆかりは、夢中になってこの楽しいひと時を過ごした。あっという間に、ホッケーのゲームは終わってしまった。英治の完敗だった。ゆかりは確かに以前、このゲームをしたことがあるようだった。英治は、ゲームには負けてしまったが、ゆかりが楽しそうにしているのを見て、ほっとした。

 しかし、英治にはまだ腑に落ちないことがあった。それは、ゆかり本人に関することだった。ゆかりが大切な誰かに会うためにこの町に来ているというのに、ずっとひとりで過ごし、孤独を感じていたことに、英治は若干の矛盾を感じていて、ゆかりにはなにか秘密があるのでは、と想像をめぐらしている。その秘密が何なのか、英治は知りたいと思っているにもかかわらず、ゆかりのプライベートに土足で踏み込んではいけないという気持ちから、いつまでたっても尋ねることができずにいるのだった。


「次は、クレーンゲームをしようよ」

 と、ゆかりが言った。

 英治は、クレーンゲームのケースの中を見た。そこには、白月浜水族館で見たような海洋生物のぬいぐるみがいくつも重なって、山を成している。その中に、アザラシのぬいぐるみが横たわっている。胡麻博士のことが思い出された。約束をすっぽかしてしまって、こんなところで女の子と遊んでいることを知られたら、何と言われるだろうと英治は想像した。しかし、胡麻博士が何というかは想像もできなかった。ただ恐ろしくなって、彼はあたりを不安げに見まわした。


「ねえ、このペンギンのぬいぐるみ、欲しい」

 とゆかりが、英治の袖を引っ張って甘える。英治は、気合を入れ直し、必ずこのペンギンのぬいぐるみを取ろうと誓った。そうすれば、きっとこの子の寂しさは永久に消え去ることだろう、と思ったのだ。

 小銭を入れて、クレーンのアームを横に動かす。ちょうど良い位置に移動する。降りてきたアームの爪が、ペンギンのぬいぐるみの腹部を優しく撫でるが、持ち上げるどころか、ぬいぐるみはぴくりとさえもしなかった。何度やっても、ペンギンのぬいぐるみが取れることはなかった。英治は気まずそうにゆかりの顔を見た。しかし、ゆかりは英治が失敗するのが面白いのか、にこにこと笑っている。


 英治はついに諦めて、ゆかりに謝ると、

「なんで謝るんですか」

 と彼女はかえって嬉しそうに言い返した。英治は、ゆかりが何故こんなにも嬉しそうにしているのかよく分からなかった。

 ふたりは、先ほどの宇宙空間のような、チープなSFの舞台のような場所に戻ってきた。そこで、英治は天井から吊り下げられている光る球体を目にした。最初は何だか分からなかった。しかし、すぐに、

「ああ、なんだ月か……」

 と英治は呟いた。


 隣のゆかりの顔を見ると、彼女はじっと何かを見つめている。何を見ているのだろうと英治が目線を追うと、そこにあったのは『宇宙空間コーナー』と書かれている壁だった。そして、そこには小さな文字で「長谷川東亜・監修」と記されていた。ゆかりはその文字をじっと見つめている。英治は、そのゆかりの悲しげな、それでいて何かを思い返しているような表情を見て、奇妙に思った。

(一体、どうしたのだろう……)

 そして、あることを思い出した。その瞬間、英治は、ゆかりの秘密が分かってしまったのだった。

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