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51 現れた助っ人は

 散り散りになる魔翔を見届けて、芙美は修司か咲の登場を予測して振り返り、絶句した。


『もう大丈夫よ。さぁ』


 相手が弘人や薫のほうがまだ良かったのにと思ってしまう。

 杖を持った手で血のにじむ左腕を強く抑えると、視界がふわりと霞み、芙美はその場に崩れるようにぺたりと座り込んだ。


 魔翔から芙美を救ったのは、町子の姿をした黒い身体の魔翔だった。

 取引はしないと決めた筈なのに、自分の弱さを受け入れてしまいそうになる。


『強さをあげるわ。今の貴女には一番必要なものでしょう?』


 その通りだ。強くなれば皆と一緒に戦うことができる。魔翔が大魔女の死を望んでいても、自分に力があればその望みを阻止できるかもしれない。

 弘人や類のように戦いから逃れたいわけではないのだから。今の弱くて負傷した状況よりはましな気がする。


「貴女は大魔女の死の為に、私と取引したいの?」


 『そうよ』と即答する。可愛げのない女だ。


「じゃあ取引した後、私が大魔女を殺すことを嫌だって言ったら?」


『私が貴女を殺してあげる』


 嬉しそうに笑んで、魔翔はゆっくり芙美に近付いてきた。

 「貴女は強くなるんでしょう?」と目の前に屈んで手を差し出してくる。


『誰にも負けない強い力をあげる。私を殺したいなら、その後に倒せばいいでしょう?』


 心が揺らいだ。

 気分が悪くなってきて、肩で何度も呼吸を繰り返す。


 遠くで戦闘の音がした。

 皆が全力で戦っている。弘人もそこにいる。

 自分も取引すれば、その中に入ることができるだろうか。


 芙美は負傷た腕から手を放した。赤く血で染まった掌が、彼女の手を取れば楽になるよと語りかけてくる気がして。


「私は……戦いたいの……」


 恐る恐る腕を伸ばして、町子を受け入れようとした。

 指先が触れ合うその寸前に――


「駄目よ!」


 突然響いたその声に、芙美はハッとして伸ばした手を引き戻した。


「……なんで」


 隠れていて欲しいと伝えた筈なのに。大魔女ミナがそこに立っていた。

 いつも通りの半袖ショートパンツ姿。大魔女らしからぬ風貌だが、辺りの空気がざわめきだした。


 『大魔女か!』と町子の姿をした魔翔は叫んだ。素早く身体をミナへ回して、スタートを切るように飛び掛かる。

 ミナは大魔女だが、五人に力を与えたことでもう戦えないと言っていた。


 「駄目」と芙美が慌てて立ち上がる。杖を回すが、足を踏ん張らせると視界がぐらりと揺れて、魔法陣も消えてしまう。

 魔翔もまた杖を出して、かつての町子や芙美と同じように赤い文字列を空間に放ち、深紅の炎を立ち上らせた。ミナはショートパンツの後ろポケットに刺さった杖を抜く。


「ミナさん!」


 芙美が叫ぶと同時にミナは杖を回した。

 ブンと低い音を出しながら白い魔法陣が回転し、ミナの手の動きに合わせて上昇した。彼女より高い位置から魔法陣そのものが魔翔に向けて叩きつけられる。

 動物を捕らえる網のように光の文字列が魔翔の身体に絡みつくと、痛みがあるのか『ぎゃあ』と悲痛な声が響いた。床に転がった黒い身体には白い文字列が刻まれ、シュウと全身から煙を立ち上らせて消えて行く。


「すごい。ミナさん」


 静まり返った廊下で芙美が視線を返すと、ミナは「はぁ」と疲労の表情を浮かべて側の壁に身体を預け、右手の甲で額を覆った。


「戦えないって言ったけど、全然使えないわけじゃないのよ。ただ、この間記憶を戻した時も熱が出たでしょ? 一回使っただけで体力の消耗が酷いから、現実的に戦闘は無理なのよ。だから、いつもはそうならないように身を潜めているの」


 青ざめた顔で息を吐き、ミナは手を下ろした。


「今のは倒せたけど、油断したらまた取引しろって出てくるわよ? 魔翔の言いなりになんてなっちゃ駄目。芙美、貴女は自分を弱いと思ってるかもしれないけど、そんなことないわ。すぐ他の仲間に追いつけるから、自信を持って」

「でも、今が一番戦わなきゃいけない時なのに」

「そのことだけど……もし貴女が本当に強くなりたいなら、方法がないわけじゃないの」


 ゆっくりと壁から身体を起こし、ミナは芙美の前に立った。

 芙美はごくりと息をのむ。彼女の真面目な表情を少しだけ怖いと思ってしまうが、自分の気持ちに変わりはない。


「今より少しでもいい。強くなれる方法があるなら、私は何でもやりたいです」


 お願いしますと頭を下げる芙美に、ミナは「そう」と表情を緩めた。


「良かった。貴女が――」

「芙美!」


 カツカツと足音が近付いてきて、薫の声がミナの言葉を遮った。それを追って幾つも足音が増え、弘人や修司、咲も加わる。

 芙美はミナを背にして前に出るが、隠しきれるわけはない。バタバタと咲と修司が芙美を挟むように横に立ち、薫たちと対峙した。


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