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49/55

48 嘘

「ちょっ、何これ。頭が割れそう……」


 芙美は両耳を手で塞ぐが、緩和するどころかそれはだんだんと強まっていく。

 部屋の中に魔翔はいない。

 咲は「まさか」と飛び付くように窓辺に走り、外へ向けて窓を開け、絶句した。


「なんだい、これは……」


 芙美も咲を追い掛けて後ろから覗き込み、目に飛び込んだ光景に低い悲鳴を上げた。


「なんで、こんなことになってるの? 何が起きて……」


 窓の外。

 寮の周りや学校までの道や空き地に、無数の魔翔の姿があった。

 目視しただけでも十はいる。空気の音に混じって聞こえるキィキィという奴等の声に、芙美はごくりと息をのんだ。

 離れていて詳細は分からないが、学校にまで広がっているように見える。

 バタバタバタと騒がしい足音がして、ドアノブをガチャガチャと回す音が響いた。


「おい、開けろ!」


 修司の声に鍵を掛けていたことを思い出し、芙美は慌てて施錠を外した。バンと開いた扉から、修司とミナが雪崩込むように入ってくる。


「その格好……」


 フリフリのワンピース姿の芙美に一瞬目を奪われて足を止める修司に、芙美は咲の告白を思い出して思わず視線を反らしてしまうが、咲の声がしてすぐに窓辺へ戻った。


「本気だね、弘人も薫も」

「弘人と取引してる魔翔が引き寄せたんだと思う」


 修司が言うと、ミナは「そうね」と答え、窓の外を見回して「うん」と頷いた。

 次第に耳鳴りが止んでくる。耳鳴りは魔翔が出る合図だ。


「出揃ったってとこかしら。だいぶ遠くまで沸いてるわよ。学校の中もこんな感じのはず。三人とも、覚悟はできてる?」

「覚悟なんて、とっくの昔にできてるぜ」

「そうだね――行くしかないしね。それより、ミナは隠れて絶対に出てこないでね」

「そう言って貰えると心強いわ。あの二人も魔翔も、私のことが狙いなんだものね。今沸いてるのは、修司や咲なら十分戦えるレベルよ。芙美に気を付けてあげて」


 修司は杖を取り出して「任せとけ」と勇んだ。ミナは三人に向かって頭を下げる。


「貴方たち五人を選んだのは、誰でも良かったわけじゃない。ちゃんと適合してないと杖を持っても魔法使いにはなれないのよ。だから、自信を持って」


 芙美になって初めて咲の店に行った時、咲の杖を振っても反応がなかった。


「わかってます。じゃあ、行ってきます」


 修司と芙美に目で合図を送り、咲が先陣を切って部屋を出た。すぐ後に修司が続く。

 「行ってきます」と芙美がその後ろに駆け出そうとするのを、ミナが突然腕を掴んで阻む。


「魔翔の声を聞いたの?」


 気付いていたのか。芙美はミナに身体を向けるが、彼女と目が合わせられずに唇の辺りに目を泳がせる。真っすぐな視線で返事を返すことができない。


「聞いていません」


 そして嘘をついた。ミナが「駄目よ」と咎めるが、芙美は横に首を振った。


「そんな魔翔になんて会ってないし、たとえ会ったとしても取引なんてしませんから」


 そう言って顔を上げると、ミナは心配そうな顔を向けてくる。


「戦ってきます。ミナさんは隠れていて下さいね」


 返事を聞く前に、芙美は急いで部屋を出た。

 食堂へ移動する寮生たちがワンピース姿で駆けていく芙美を見てざわめいた。彼等に魔翔は見えないし、耳鳴りも声も感じ取ることはできない。

 途中に居たメグに「ちょっと行ってくる」とだけ伝え、芙美は全速力で玄関を出た。



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