28 全員集合
その後すぐに駆け付けた咲の一喝で弘人の勢いは沈み、放課後に合流することになった。
二人には近くの喫茶店で待っていてもらったが、下校時刻になって再び会った時には、事態に駆け付けた薫も一緒だった。
久々の対面に興奮する弘人に修司はもはや諦めモードで、不愛想な表情のままさっさと咲の車に乗り込む。
「じゃ、うちの店でね」
咲の車には修司と芙美が乗り、弘人と薫は各々の車で移動した。
「いやぁ、本当に類なのかい? 確かに不愛想な雰囲気は変わんないね」
赤信号ごとに目を輝かせて後部座席を振り返る咲。ルームミラー越しにチラチラと向けられる視線に修司は最初黙っていたが、店に近付いてようやくぼそりと口を開いた。
「お前は髪が伸びたんだな」
突然自分のことを言われて、咲が面食らった表情を見せる。
「そっ、そうだね。あとは年取ったくらいかな」
恥ずかしそうに視線を正面に返し、その後店に着くまで会話が途切れた。
先に着いた二人に「どうぞ」と店の扉を開け、咲はまずポットに火をかけ、サイフォンの準備をする。
入口の看板にはCLOSEの看板が下がったままだ。
弘人は修司と芙美を中へ招き入れ、戸を閉めると「揃ったね」と笑顔を絶やさない。
むっつりとしたまま、弘人から目を反らしたままの修司を見かねて、芙美は、
「熊谷修司くん。私のクラスメイトになってた、類です」
みんなに向かって説明して、何か言ってよと人差し指で修司の腕をちょんと突いた。
修司はきまり悪そうに「久しぶり」とだけ呟いて、テーブルについた。
「あぁ、久しぶり」
弘人の社交的な表情は、修司と見事に対照的だ。弘人は迷いなく修司の向かいの席に座ると、その横にそっと薫、芙美は残った修司の隣についた。程よくしてエプロン姿の咲が出来上がったコーヒーを皆の前に並べ、他の席から自分の椅子を引き寄せて座る。
「ありがとう、咲ちゃん」
芙美の前に置かれたのは、甘いマシュマロ入りのカフェオレ。各々の趣向に合わせられていて、カップの中身が少しずつ違っていた。まだ熱いカフェオレが身体に馴染んでいく。
落ち着いたタイミングを見計らって、弘人が「なぁ、類」と切り出した。
「いきなりだけど、お前は大魔女に会ったのか?」
一瞬、店の空気が張り詰めた。普段穏やかな咲でさえ険しい表情を見せる。
「会ってないよ。会えなかったからな。どうしてそんなこと聞く?」
「俺は大魔女に会って、倒したいと思ってる。あの人を殺せばこの力を捨てられるんだろう? もうこんな歳だしな。昔とは違う。ハッピーエンドで終わらせたいんだよ」
「俺たち、って括らないでほしいね、そんな物騒な話」
咲がテーブルに肩肘をついて弘人を睨むが、本人は気にもしない様子で続ける。
「二人が記憶を持ったまま生き返ったことで、死んでも魔法使いから解放されないってわかったから、やっぱり大魔女を見つけるのが一番だと思ってる」
大魔女を倒せば力がなくなるということは、力をもらった時に大魔女自信が教えてくれたことだ。けれどそれを実行しようなんてことは思ったことがなくて、芙美はとうに忘れてしまっていた。
それ以上に、大魔女の死は災いを引き起こすという話を聞いた時に覚えた、恐怖心の方がずっと残っている。
「弘人もみんなも。力を放棄したいって思ってるの?」
「もう、折角の再会だっていうのに変な話になっちゃったね。私は力のあるなしに執着しないけど、実行するにしても二十年近く会ってない大魔女を探し出せるとは思わないよ」
芙美は力を求めていた。また昔のように仲間とみんなで戦えたらと思っていた。
その為に名古屋に行こうとしている。それなのに、弘人は力を捨てたいという。
それぞれの描くハッピーエンドの違いに芙美にはショックを受けた。
「きっと結局このままなのよね、私たち。でも記憶を持ったまま転生できるって知って、死への恐怖は減ったわ」
困惑する芙美を一瞥して、薫がカップを片手に艶のある声で「ね?」と微笑んだ。
「まぁ、そうだよね。だから死んでいいってわけじゃないんだけどさ?」
「……わかったわよ」と苦笑する薫の横で、弘人が額に手を押し当てて深く息を吐き出し、顔を上げる。修司はうつむいたままだ。
「それに、大魔女が死んだら災いが起きるんだよ? 今のままが一番」
咲と薫のポジティブさに救われる。「ホラ、元気出そうよ」と咲が奥からアップルパイを出してきて、目の前で切り分けてくれた。
優しいアップルパイの味に緊張が緩み、芙美はみんなの顔色を確認してから都子の話を切り出した。
とりあえず話してから名古屋へ行きたかった。




