22 交換条件
結局町子の亡霊騒ぎは解決しないまま、「いつも大人しい熊谷くんが、意中の彼女を闇で襲った」という勘違い騒動で、肝試しは幕を閉じた。
はやしたてる周囲の声も修司はは全く気にして居ない様子で、芙美ばかりが俯いたまま頭を上げることができなかった。
「桜が満開だよ。見て、芙美ちゃん」
最後の組のゴールを見届けて、寮生たちは校庭に繰り出した。
先輩たちが用意した、ブルーシートとイベント用の大きな照明。光が照らし出すのは、プール横に並ぶ満開の桜だ。
肝試しの開催には怒り心頭だったが、そんな怖さや周りの冷やかしも全て打ち消してしまう程咲き誇る薄紅色の桜に、芙美はぱあっと破顔した。
寮母のミナが用意してくれたジュースとお菓子でささやかに行われた夜桜見物に、自分の思い描いた『歓迎パーティ』の図を合致させて、芙美は「これだよ!」とはしゃいだ。
配られたジュースを手に桜を見上げていると、「こんばんは」とミナが横に並んで花を仰ぎ見る。メグは「祐くんを連れてくる」と勇んで彼の元へ向かったが、当の本人は修司の騒動で先輩たちから一緒になって冷やかされていて、難航しているようだ。
「ごちそうさまです」
「ジュースくらい気にしないで。こっちは大人なんだから。それより肝試しどうだった? 修司くんと大変だったみたいだね。何か出た?」
「で、出てないですよ、お化けなんて!」
ぎこちなく否定して、気を逸らすように桜へと視線を返すと、ミナは少しだけ残念そうに「そうか」と呟いた。
「でも修司くん強そうだから、何かあったら守ってもらうのよ?」
からかっているのだろうか。もう誰もが『二人はデキている』という先入観で盛り上がっている。
修司と話をしたいと思うが、二人きりになるのは難しそうだ。メグが祐と共に修司も引っ張ってきてくれればいいが、それでもメグたちがいては過去の話ができない。
「ミナさぁん」
三年の男子がサイダーを片手にハイテンションでミナを手招きした。流石、寮の女神様だ。
ミナも「はぁい」と笑顔で手をヒラヒラと振り、満更でもない様子で「またね」と彼らの元へ行ってしまった。
芙美はもう一度桜を見上げて、ほのかに香る甘い臭いを吸い込み、いまだ先輩達に取り囲まれている修司を振り返る。
彼が類だという突然起きた再会は、芙美をどんと雪の日の記憶へ引き戻す。あの日、彼へ向けた炎の記憶に、悲鳴を上げたくなるのを堪えた。
「芙美ちゃん、祐くんに声掛けれないよぉ」
芙美の気持ちを知る由もなく、メグが珍しく泣き言を言いながら戻ってきた。
「そりゃあ残念」と宥めて、横に立った人影に顔を起こす。
修司だった。どうやってあの輪から抜け出すことができたのだろう。芙美は驚いて彼のいた場所へ視線を返すと、何故か先輩達に問い詰められているのは祐だった。
「あそこの先輩が、森田さん狙いだっていうから。嫉妬だよ、嫉妬」
「私?」とメグは困った顔をして、それでも祐へ熱い恋の眼差しを送る。
「でさ、森田さん。コイツ借りてもいい?」
突然の修司の要望。彼と二人になれると思うと、あれこれ悩んでいた頭がスッキリと覚悟を決める。しかしメグはキッと修司を睨んで、「駄目」とはっきり拒否した。
「いくら熊谷くんでも、芙美ちゃんは渡さないよ」
ぎゅっと芙美の腕に絡み付いて、修司の顔に向かい条件を提示する。
「祐くんを連れて来てくれたら、二人きりにさせてあげる」
「あぁ――そういうこと」
納得して、修司は「いいよ」と戻って行った。ここで駆け引きするとは流石だとメグに感心する。そして、修司もあっさり先輩達のところから祐を連れ出してきた。
「お前何だよ、いきなり」
理由もなく引っ張り出され、祐は掴まれた腕を振り払うが、メグに気付くと妙に大人しくなってしまう。
修司はそんな祐を「どうぞ」とメグに差し出し、ほらと芙美を促した。




