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19 くじ引きの行方

 教室に戻ると、まだ少しだけ次の授業まで時間があった。

 自責の念に駆られて落ち込む芙美に、メグが勘違いの好奇心を向けてくる。


「佐倉先生のイケメンっぷりを確認してきたんでしょ? 凄い行動力。尊敬しちゃうよぉ」


 芙美はハッとして、「ち、違うよ!」と机に突っ伏した顔を起こした。

 会いに行った事実がある以上、はっきりと否定する事ができない。

 「で、どうだった?」と、メグは目を輝かせるが、期待に叶う答えが見つからず、


「か、かっこ良かったかな」


 とりあえず、これは感想だ。嘘はついていない。

 「でしょう?」と喜ぶ笑顔にノッてしまったら、それが恋心だと彼女の中で変換されてしまいそうな気がして、芙美は「でもね」と素早く言葉を挟んだ。


「好みのタイプではなかったよ」


 たとえ血縁でなくなったからと言っても、夏樹への恋心は起きそうになかった。


   ☆

 その後、夏樹とは学校で顔を合わす事が何度かあったが、お互い言葉を交わすこともなく、特に進展はなかった。

 祖母への思いと日増しに強くなる肝試しへの恐怖に比例して、町子の噂は学校中に広まっていった。面白がる者も怖がる者もいたが、皆がその「イベント」を心待ちにしている。


 『肝試し』と称して、一年生十八名に身体を張って真相の裏付けをせよということだ。


「僕たちはゴールで待ってるから、楽しんできて下さい」


 理想のメガネ男子とメグが賞賛する三年の寮長が、朝食の時にそんなことを言っていた。

 主催の先輩たちは、亡霊などどうせいないと思いつつも、出たら面白いと思っている。

 本来なら途中で脅かすくらいの仕掛けがあったほうが盛り上るのかもしれないが、今回は「出る」可能性が少なくない。そこをわざわざリスクを負ってまで、途中の闇で待機する意味はない――だから、「ただ歩くだけ」なのだ。

 開催を否定する教師も居たが、閉門前だと先輩たちが押し切って、結局予定通りの決行となってしまった。


 寮で早めの夕食を済ませ、制服姿のままメグと校舎へ戻る。

 集合場所になっている一階図書室脇のホールには、既に七割方の寮生が集まっていた。

 一階の廊下には明かりが点いているが、すぐ側の階段の奥は既に真っ暗で陰湿な空気を漂わせている。


 今日が早く終わりますようにと朝から祈り、いよいよそれは佳境を迎えようとしていた。


「二人とも、これ引いて寮長のトコ行ってね」


 上が丸くくり貫かれた立方体の箱を差し出してきたのは生徒会の書記を勤める二年だ。箱の正面に『女子』と大きく書かれている。


「くじ引きですか?」

「そうだよ。男女が同数だから、同じ数字同士のペアで行ってもらうよ」


 そんなの聞いていない。一人でないのは心強いが、まだあまり面識のない男子と歩くのは緊張するし、ましてや魔翔や亡霊と対面してしまったらどう対処していいのかさっぱり見当がつかない。

 だったらせめて、


「メグと一緒がいいよぉ」


 彼女となら融通が利くし、暗闇も得意だと言っていた。

 けれど、そんな望みも本人にきっぱりと否定される。


「芙美ちゃん! こんな時に女同士で行動してどうするのよ!」


 やる気満々である。もはや『肝試し』より『男子と二人きりイベント』に闘志を燃やしている。メグは力強く穴に手を突っ込んで「お願いします」と祈りを込め、小さく折りたたんである紙を引き抜いた。

 中には数字の『6』と書かれていて、続いて引いた芙美のくじには『3』と書かれていた。このイベントを受け入れなければ、と腹を括って結果を確認する。


 寮長の前に置かれたホワイトボードには、続々ペアが書き込まれていき、『6』の欄にある男子の名前を確認すると、メグはついさっきまでの勢いを床にばら撒くかのように愕然と肩を落とした。

 彼女にとってそれはハズレくじだったようだ。

 『3』はまだ埋まっておらず、『男子』くじの箱を持つ先輩を探すと、今まさにクラスメイトの修司と祐が手を入れたところだった。攻撃をかけるようなメグの鋭い視線がその手元を狙い――「あああ」と小さい悲鳴を上げた。

 「メグ?」と、遅れて芙美はその声の意味を知る。


「芙美ちゃんって、祐くん狙いじゃないよね?」


 こっそりと尋ねられ、「まぁ、そうだね」と返す。野村祐の手にする紙に『3』が書かれているのだ。

 対になる芙美の『3』は、メグにとって一等ハワイ旅行的な当たりくじに見えるのだろう。


「交換する?」


 先輩たちの目を盗んで、芙美はそう提案する。メグの祐への気持ちは何となく知っているし、彼女にとっては当たりくじでも芙美にとっては他の数字と大差ないと思ったからだ。


 メグは、ぱっと目を輝かせるが「でも、駄目っ」と戒めるように呟き、「ちょっと待ってて」と言い残すと、向こうできゃあきゃあ騒ぐ女子の間へ飛び込んで行った。

 何やら熱弁を振るい、皆を納得させて戻ってくる。抽選結果を見た直後とは一変して、満面の笑みだ。


「ありがとう、芙美ちゃん」


 芙美の手からくじを抜いて、持っていた方の紙と入れ替える。良く見ると、それはハズレの『6』ではなく、『8』と書かれたものだった。


「これって――?」


 書き足されていくホワイトボードの男子『8』に、名前が記入される。


「頑張ってね、芙美ちゃん」


 何を頑張れば良いのかさっぱり分からない。

 くじ引きとはいえ、結局出来レースみたいなものなのだろうか。

 目当ての男子を狙って、女子たちの中で巧妙に操られた結果、芙美に回ってきたのは、二等電子レンジ位の価値がある、熊谷修司とのペアだった。



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