マクスウェルの悪魔を、この現実に召喚する為の儀式の方法について
※いきなり、同著者が別に連載している作品物語の途中から始まります。ご注意ください。
※この短編作は、本編作品「―地球転星― 神の創りし新世界より」の中で同日に投稿した内容であるサブタイトル「50.マクスウェルの悪魔」のお話を再度、短編作として転用し、そのままコピペしただけのものを一部の部文だけ省略して、微妙に加筆、修正を加えて再び投稿しただけものです。
ですので、冒頭からいきなり、連載作の途中より始まります。
高い山の空気が、白いテラスが先に見える開いた窓から流れてくる。
肩にかかる髪の揺れで、涼しい午前の風を感じながら、
高く天蓋の備え付けられた、一緒に五人は布団に潜り込むことができるほどの巨大なベッドの上に腰かけて、
咲川章子は、これから始まろうとしている授業の時間をひっそりと沈黙を保ったまま待っていた。
章子の隣には、既に電気子ネコのトラを抱いたオワシマス・オリルが座っている。
地球から章子と共にこの転星という巨大惑星に来た同じ中学二年生の少年、
半野木昇は、その転星にある地球上で二番目に栄えた第二古代世界で七人しかいない絶対権力者の少年クベル・オルカノと、
章子が腰かける巨大ベッドより、少し離れた位置にある赤い大きなソファに、仲がいいのか悪いのかわからない距離と雰囲気をもって座っている。
「さて、
それでは朝食の時間も終わり、
寝起きの、はしたなかった女子たちの身嗜みも整え終わった所で、
別室の殿方たちは集まってくれた。
では、午前の授業を始めましょうか?」
身の丈の四倍はある、午前の明るい景色が滲みだす白いレースの大カーテンが閉じられた光を背後に、
章子の下僕である神秘の少女、キレイなオカッパ頭をした神真理は笑って、予定されていた授業の開始を宣言する。
今、章子たちがいるこの部屋は、
章子たちが現在、利用している古代城をそのまま宿にしたホテル施設の、最高級客室にして大広間でもある大寝室兼リビングルームの空間だった。
「まずは……、
そうですね?
クベル・オルカノ、
あなたが感じた疑問どおり、
現在の絶対零度の最下限、摂氏マイナス273.15℃が、今も現在進行形で下がり続けている原理から説明してみましょうか?
その為には、
あなたがどうして、
絶対零度の下限が今も下がっている仮説に疑問を持ったのか?
というその動機となった根拠を先に聞かせてもらわなければならない。
その原因を答えては頂けますか?
クベル・オルカノ?」
真理が小首を傾げて問うと、
ソファに足を組んで偉く背凭れ、
腰かけていた赤い衣の少年クベル・オルカノが口を開く。
「最初に疑問に思ったのは、凍の言葉だ。
凍。
凍の許約者、ヒマイス・ロトキグフ。
ヤツは零度以下の世界を支配者できる最たる許約者だ。
ヤツは現在ある全ての物の動きを止めて、絶対零度付近にまで、物体の温度を落とすことができるし、可能でもある。
だが、ヤツは現在、
物の温度を、絶対零度よりも更に下に落とすことができないでいる。
ヤツも、それはできない、と言っていた。
という事は、
現在の絶対零度、
摂氏マイナス273.15℃は、それ以下へと、それ以上に下がる変数ではなく、
やはり、そこまでしか下げられない固定値じゃないのか?」
威張るように組んでいた脚を解き、
今度は腰の上に肘をついて、組んだ両手の甲の上で顔を乗せているクベルに真理は頷く。
「……では逆に、
クベル・オルカノ。
あなたは史上最強の許約者であり、
また、それ以前に、
熱のすることなら、その全ての現象を起こすことが許されている熱の許約者でもあるはずだ。
その理論に則るのなら、
私の述べる真理論上では、
あなたは際限なく発生できる熱で温度を上げて、
過去へと時を遡ることができるはず。
……今のあなたは、それが可能ですか?」
試して見る真理に、
章子もオリルも、自然とクベルを見つめてしまう。
その集まった女子たちの視線を受けて、熱の許約者クベル・オルカノは首を振った。
「ムリだ。できない。
ボクも熱で過去へと行くことができない。
ぼくにも、その手段が分からないんだ
決め手は、それだったっ。
他の許約者の〝わからない〟という言葉は信用できなかったが、
いざ、自分のこととなると、イヤでも自覚せざるを得ないッ!
わからないんだッ!
同じ『熱』がしている事のはずなのに、
熱の許約者であるボクには出来なかったッ!
だからこうやってキミに、その原因を訊いているッ!
やはり、
熱や温度では、時間という過去と未来は区切られてはいないのじゃないのかッ?」
疑問を叫ぶクベルを、
真理は瞳を閉じて、言葉を放つ。
「ならば、まず、
あなたのその疑問からお答えましょう。
あなたが、過去に行けないのは、単純に出力が足りていないだけだからです。
真理学の真理論による否数学の否数法では、
時間という中では、未来は重く、過去は軽いのだ、としている。
それを熱や温度の重さによって分けているのだ、と。
そこで、
真理はかつて、こう言ったはずだ。
現在から過去に行くため、あるいは戻るためには、
一秒間につき、ビッグ・バン三百回分の出力が一度に必要であると。
しかし、あなたの最大瞬間出力はどれだけ多く見積もってもマグニチュード12である、
隕石級が出力限界だ。
それだけしか発揮できない出力では、到底、過去へと渡ることは出来ない。
たった一回のビッグバンですら、三百分の一秒ほどしか過去へは戻れないのですからね?」
事もなげにいう真理に、
クベルはまだ噛み潰したままの表情で押し黙っている。
理屈は分かるが、自分の力はまだ過信していたい。
そんな顔だった。
それほどまでに、
彼は史上最強という自分が憎んでいた言葉を、彼の自覚なき誇りとしていたことが分かる。
「凍の許約者の場合は、
絶対零度の下がっている数値が、「物を止める数値」ではないからですね。
真理は言ったはずだ。
絶対零度とは、時間そのものである『隠れた変数』なのだと。
「変数」とは、
物や数の位置を変える数値であるのです。
あるいは、そこを「記録」する数値。
これが「物を止めること」しかできない凍の許約者の力と、
物を変動させる絶対零度の力の、「相」あるいは「界」および「質」の違いです。
だから、
凍の許約者の力では、
絶対零度の下限の数値まで促進させることは、まったく完全に出来ない」
断言する真理をよそに、
傍で聞いていた章子が首を傾げる。
「……?……、
どうしました?
咲川章子」
真理が尋ねてくると、疑問を感じていた章子も慌てて居ずまいを正した。
「その……絶対零度が今も下がっている理屈が、
やっぱり私にもわからないかなぁ、と思って……。
クベルくんも……、
あっ……、
ごめん、やっぱりクベル『くん』って呼ばせて。
……それで話を戻すんだけど、
クベルくんも、さっきから、それがわからないって言ってる。
わたしもやっぱりわからないッ。
今も絶対零度が下がってる、ってどういうことなの?
今の私たちには何も感じない。
でも真理は、絶対零度の数値は今も下がってるんだって言う。
本当に下がってるの?
わたしたちには今も、
それが感じることが出来ないからやっぱり信じることができない……っ」
章子の搾りだす声に、
真理もぎこちなく笑いながら言う。
「……では、
この現実では、
絶対零度というものが、いったいどのような基準で決定されているのか……。
知っていますか?」
優しく問いかけてくる真理の視線に、
章子もクベルも互いの視線を合わせると首を振った
「理想気体の……状態方程式……?」
呟かれた声が、視線を集める。
「理想気体の……?」
「状態方程式……?」
中学二年生の章子と、章子と同じ歳のクベルが復唱する言葉に、
呟いた、
太古の地球上で最初に栄えた第一世界リ・クァミスの少女、オワシマス・オリルが頷く。
「たしか、
絶対零度の数値は、理想気体の状態方程式で決まるの。
理想気体っていうのは、実際にある現実の気体のことじゃなくて、
理論上でしか存在しない気体のことよ。
分かりやすく言うと、
この気体は、物体にはならない気体。
どんなことをしても、固体や液体にはならない気体のことを言うのよ。
雨の降らない雲を思い浮かべればいいわ。
そして、この雲は……どれだけ小さくして圧縮しても水や氷にはならない……っ。
絶対にどれだけ小さくしても大きくしても雲のままでいる気体なの」
「雲のまま小さくなる……気体……?」
中学二年生の章子が、まだ上手く理想気体を想像できない声に、
章子と同じ歳でいながら、
日本でいう国立大学の存在に近い、
リ・クァミスの最高学府で常に首席の成績を叩き出し続けてきたオリルは頷く。
「この気体は、どれだけ小さくしても水や氷にはならないわ。
そしてこの気体が小さくなる条件は……ただ一つ、
冷えること……」
「冷えること……?」
「圧力は温度だけ。
つまり与えられる力は温度だけってことね。
その温度の高低差だけで体積が変化する気体のことをいうのよ。
この気体は、圧縮されても熱は出さない。
圧縮してくる力が温度の数字だけだから。
熱を受けたら膨張するし、冷えるんだったら縮むだけよ。
それだけの気体。
この気体の状態変化を方程式上で記述したのが、
『理想気体の状態方程式』という法則式。
でも、この方程式が実地で成り立つには、もう一つの条件があって……、
……あ……っ……」
重大なパズルピースに思い至ったオリルが、目を驚かせて呟く。
「……『比熱容量』の変化……ッ?」
茫然と呟かれた言葉に、
オリルの言ってる言葉がよく呑み込めない章子とクベルは首を傾げる。
その光景を見ると、真理は目を開いてさらりと笑った。
「百二十点満点の解答ですよ。
オワシマス・オリル。
その通りです。
絶対零度の数値は、理想気体の状態方程式から求められる。
理想気体という存在の説明は、オリルの表現で全く間違っていない。
単純に言えば、
温度だけで体積が変化する気体。
そして、
その変動する温度で理想気体の体積が「0」となる位置。
この理想気体の体積が「0」となって、その存在が無くなる時の温度の数値を、
絶対零度と呼ぶのです。
それが、現在では摂氏マイナス273.15℃。
しかし、これを求めるにはやはり条件があります。
それが『熱容量』。
熱容量とは、物質がどれだけその状態で熱を蓄えられるか、という上限値および『下限値』ですね。
この熱容量の幅は、現実にある実際の気体の種類によっても、やはり、まちまちです。
そこで、
この理論上の気体でしかない「理想気体」では、
この「熱容量」だけは、
実際の現実にある気体が持つ「比熱容量」の実測値から測られ用いられる。
その実測値を、
総合値、あるいは代表値にして、理想気体の状態方程式へと組み込むことになる。
つまり、
この比熱容量にあてがわれる数字こそが、
『現実の世界』と『理論上での世界』とを、
数量だけで繋ぐ「へその緒」と呼ぶことができるッ!
そして、この熱容量。
この熱容量は、
理想気体だけに限ってみれば、
その理想気体の熱容量はそのまま「質量」だといっても何も差し支えはなくなるのですッ!」
「えっ?」
真理の言葉に、章子はさらに不可解な顔をして言う。
「熱が……質量になるの?
熱いだけの熱が、あの重い「重さ」である質量に?」
だが、そんな理解できない章子の問いの答えを、真理は肯定する。
「そうです。
理想気体上では「熱量」こそが、その質量となる。
これは、こう言い換えることができる。
オワシマス・オリルはさきほど、
この理想気体が「水」にも「氷」にもならない「完全な気体」であると説明してくれた。
と、いうことはですね?
この気体は、「液体」にも「固体」にもなれないのですよ!
この気体は「物体」にはならない!
物質ではあるが、物体ではないッ!
これが理想気体という存在の性質。
例えば、
いま、この我々の目の前にある空間にも、様々な気体はもちろんありますね?
その気体を想像してください。
その気体の質量は目に見えますか?ならば温度だったならば?
おそらく、
いまの我々の目の前にある気体は、その質量を手で掴むことは出来なくても、
その温度によって「重さ」が測れるはずだ。
なぜなら、
いまのこの同じ気温でも「重い気体」と「軽い気体」は確実に存在しているのですから。
それが層にもなって、この目の前で現われていると表現することができる。
では、ここで問題です。
この今の気温で、
『気体として熱容量がより高い気体』とは、
その重い気体と軽い気体の一体どちらだと思われますか……?」
笑って問いかけてくる真理に、
悩む章子は、開きかけた口を噤み、
また口を開いて自分の思った答えを言う。
「重い……、
ううん。もしかして……、
軽くて上にある気体の方が熱容量は高いし、
あるってこと……?」
章子の答えに、真理は頷く。
「その通りです。
同じ温度の中で二つの気体がある場合、
より熱容量が高いと表現されてしまうのは、より軽くて上部にある気体の方なのです!
熱は軽いと増える、のですからね?
物体とは概ね、
温度が冷えていくと、
煉体→気体→液体→固体の順で、大きさを収縮させて重くなり冷たくなって相転移していく。
しかし理想気体では、
煉体→気体→0で、相転移が終了するのですよ。
つまり物体上での『四態』の中で、
基本的に熱容量は「煉体」が最上限であり「気体」が次での上限なのですッ!
固体、液体の熱容量はそれよりも下にあるッ!
熱容量の次元、桁、位、相が違うのです!
それの一番上が煉体、次に気体なのです!
その為、
この場に軽い気体と重い鉄の金属の二つの物質があった場合。
より「気体でいられる」熱容量が高いのは、
既に低い常温でも、気体でいられている「軽い気体」の方である……。
ということになるのですね。
重い鉄は、この常温のままでは「気体ではいられない」固体であるのだと!
鉄が、鉄のままで軽く増える気体まで気化させる為には、それよりも高い温度にするしかないのです!
すなわち、
固体の鉄は、気体の鉄よりも常温の状態では「気体でいられる熱容量の体積は低い」、
しかしそれは同時に「固体でいられる熱容量の体積は高い」という表現になる。
そして気体の熱容量は、固体よりも熱容量が遥かに高い次元、位を持つのだから、
軽い気体は、重い鉄よりも「熱容量の幅である体積が高い」と表現される!」
「……あ、ああ……?」
分かるようで分からない表現を聞いて、章子は開いた口を塞げない
「……話を戻しましょう。
これで、
理想気体が帯びる熱とは、
それがそのまま、
その理想気体の質量であると言い換えることができる。
熱容量とは、熱を蓄えられる限度。
ようするに器です。
その器の大きさを、
現実にある実際の気体データからかき集め、決定し、定数化し、
理想気体の状態方程式に当てはめて、絶対零度が割り出される。
熱容量は軽さと大きさを意味するので、
最も軽い気体、原子番号の1番や2番の水素、ヘリウムが、
現実世界ではもっとも熱容量があると見なされる。
そしてそれ以上の軽い気体は現実にはまったく存在しない為、
熱容量だけは実際にある現実数で固定化できる!
それを理想気体の状態方程式に当てはめて冷やしていくと、熱であり体積でもある数値が「0」になる。
その「0」になる数値が現在では、摂氏マイナス273.15℃。
……そして、それが今も下がり続けていると言っているのが、
これからお見せする、この真理の理屈……」
言い落して……、真理の顔が前髪の闇で見えなくなる。
「絶対零度の下限は今も下がっている。
それが『時間』という『隠れた変数理論』でもある。
その理屈の根拠は、
この現実を世界として足らしめている、宇宙空間が膨張をしているという主張から導かれています。
現在の人類がたは、宇宙を説明するときにそう言っていますね?
宇宙は膨張していると。
膨張するということは体積が増えているということ。
これは絶対に間違っていない。
では、
宇宙空間の体積が増えているという事は、空間自体が軽くなっているということ。
軽くなるという事は熱そのものでもあるので、温度も上がっているということになる。
これを、
熱が体積でもある理想気体にも当てはめると熱容量は上がっている。
と表現することができるので、絶対零度もそれに比例して下限を下げ続けている。
理想気体自体は理論上のものですが、熱容量だけは現実値を絶対に必要とする。
よって、
絶対零度は現実方程式上でも、間違いなく下がっているでしょう、
というのが、
この真理の理屈です。
それが現在では、
一秒間につき、マイナス0.00000000000000063℃、下がっている。
つまり、
絶対零度にして、
摂氏マイナス273.15000000000000063℃、という事です」
事も無げに言った真理が、
目の前にいる全員の思考を止めている。
「しかし、
この根拠をここまで言っても、
あなた方はまだ信じる事ができないし、むしろ疑ってかかっていることでしょう。
それは別に、
恐らく私のここまで述べてきた説明にまだ説得力が足りない。
と、いう事ではないと思います。
それ以前にある、〝もう一つの根拠〟がまだ説得力を持っているッ!
説得力をもっているから、今のこの私の根拠は、信用できないッ!
では、これから、その根拠を破ってみましょうか。
その根拠とは、
熱力学の第二法則です。
今回、私がここまで述べてきた、
絶対零度が下がり続けている説明は、
熱力学中にある四つの法則の内の「第三法則」の破れを予言し説明している。
熱力学の第三法則とは、絶対零度は、数値の動かない定数であることを証明とする法則です。
すなわち、
・完全結晶のエントロピーは絶対零度では、周囲と同化し「0」となる。
と表現している。
このときの「完全結晶」とは宇宙空間のことです。
現在の宇宙空間は実際の絶対零度よりも一、二度、高いわけなのですが、それは宇宙空間が完全結晶ではない不純物を持つからだ、
と言っている訳です。
その法則を、
私はいま、ここまでの説明で破ったつもりになっています。
ですが、
他に存在する、
熱力学の第二法則が、まだ無傷です。
だから、あなた方は私の絶対零度は変数であるという根拠が鵜呑みに出来ない。
ここで、ついでに言っておくと、
熱力学にある残り二つの法則である、
第0法則と、第一法則は既に、この虚構は破っています。
熱力学の第0法則は、こんな感じです。
AとB、BとCが同じであるとき、AとCもまた同じである」
「……う、うん」
頷く中学二年生の章子を見て、真理も頷く。
「これを、この虚構はこう言って破りました。
自転する0と公転する0、静止する0と公転する0が同じであるとき、
自転する0と静止する0もまた同じで……」
「……は、……ッッッないッっっ???!?」
皆が驚く視線になって、真理を見る。
「そうですよね?
自転する0と公転する0、静止する0と公転する0が同じであっても、
自転する0と静止する0は同じではないッッッ!!!
これで第0法則は破られた」
そう言って、真理はあなたに向く。
「第一法則は簡単です。
第一法則は「あらゆる保存則」です。
全ての物は、最後は熱で保存されているという保存法則。
この法則を、この虚構は、
0と0が同化することによって「1つになった0」という新たな「1」が生まれている。
という表現で、無理矢理に蹴り破った。
「1」というエネルギーは、何も無い「0」という状態からでも生み出せるのだと。
そして、最後に残ったのが、
この熱力学第二法則。
第二法則は、熱の『背景化』の法則です。
これは、
ある有名な「三つの言い回し」によって、この法則が主張したい事を説明している。
曰く、
一つ。熱は、熱い場所から冷たい場所へと移動する性質で支配されている。
一つ。電気エネルギーは熱エネルギーに変換が容易だが、熱エネルギーを電気エネルギーに変えるのは手間である。
一つ、紅茶と乳をまぜたミルクティーを、そこからまた紅茶と乳に分けて戻すことは難しい」
どこかで聞いたような、その文脈を聞いて、
章子は、
大広間の隅にあるティーセットの置かれている卓に近づいて行く真理を視線で追っていく。
「どこかで聞いた事のある言葉でしょう?
これが熱力学の第二法則の内容。
これら三つ言葉は、どうやら全て、
『同じ事』を言っているらしい。
・熱は、そこからより熱い場所に向けることが難しい。
・熱から電力を生み出すことは、電力を熱に変えることよりも遥かに効率が悪い。
例えば対流とかね?
そして、
・紅茶にミルクを垂れ流したあとのミルクティーは、元の紅茶とミルクには戻せない、……のだとか……?」
言って、
不可解にしながら六つある空のティーカップに紅茶を注いでいき、
その次に白いミルクを注ぎ込んでいく。
「どうぞ」
そう言って歩いてきた真理は、盆にのせたミルクティーの満たされたカップを章子たちに配る。
そして、
自分は右手にはミルクティーの入ったカップを、
左手には空のティーカップを持っておもむろに、高く上げた右手のティーカップを傾けて、カップに入っていた中身を空のティーカップに注いで移し始めた。
「え?」
「うそ」
「本当かっ?」
「ぉ、うぉー……」
「わ、スゴーい」
五人が五人ともに歓声を上げる
真理は手品を見せていた。
高く掲げた右手から注がれるミルクティーが、白いミルクだけをカップの中に残して紅い紅茶だけを左手の空だったティーカップの中に注がせている。
「ほら、
ちゃんとミルクティーから紅茶とミルクを分けることはできました。
……みなさん……、
何か驚かれてますが……、
別段、これはやろうと思えばやれない事ではない。
これは別に不可能な事ではないッ!
ただ、普通では困難である事なのですッ!
この現象は、エネルギーを使えば、それなりに出来ますッ!
章子、
あなたの体の中でも、これをやっている臓器があるんですよ?
気付いてますかッ?」
「えっ?
わたしの体でもっ?」
章子が驚くと、真理も頷く。
「ええ。
あなたの体でも、これをやってくれている臓器があります。
それが「腎臓」です。
あと「肝臓」も少しやってますかね?
「濾過」。
だから、エネルギーがあれば、これは可能なことなのですよ。
別に、絶対に不可能な現象ではないッ!
ただ、これをエネルギーもなしでやるとなると……、話は違ってくるッ!」
真理がどこかを睨んで、視線を強くした。
まるでそこに「何か」がいるように……。
「先ほどの、あの三つの文。
熱力学の第二法則の、あの三つの文。
あれはやはり同じことを言っています。
つまり、
一度、発生させたことは、元に戻すことができない、という事を言っている。
要は、
『不可逆性』ですね。
これを熱力学第二法則では言っているのです。
この世界では、
特に章子の現代世界では、これを「エントロピー増大則」と名付けて呼んでいる」
「エントロピー増大則……?」
「おや、
エントロピーという言葉を聞いた事がありませんでしたか?
アニメやマンガであれば、それなりに耳にする単語のはずですが……、
まあ、それはいいでしょう。
このエントロピーという単語の意味を、
あなた方は「乱雑さ」と表現していますが、
わたしたち、真理の側ではこれを「背景化」と呼んでいます。
「点の背景化」と。
最初に描いた点が小さくなり背景と同化する。
想像すれば、簡単に理解できる現象でしょう?
それをエントロピーと我々は表現している。
そして、このエントロピー。
あなた方、
章子たち現代人類は、このエントロピーを『熱容量』とも表現している時があるッ!」
「えっ?」
「……そうです。
あなた方は、
あの「熱容量」を、「エントロピー」としても、同一の単位として表現してもいるのですよ。
絶対零度の基準値にもなる、あの「熱容量」をね?
すなわち、
この熱力学の第二法則を破れば、
熱力学の第三法則も破られるのです。
エントロピーの増大則とは、絶対零度の増大則でもある、と証明することでねッ!
しかし、それを破る為には……、
この混ざり合ってしまったミルクティーから、元の紅茶とミルクにまた分け直すことを、
エネルギーも使わずに達成しなければならない。
それをするのが……『マクスウェルの悪魔』……」
その言葉が発せられた途端、部屋全体の照度が一段と暗くなる。
そして、
真理の顔がまた前髪の闇で隠れた。
「……最初に警告しておきます。
ここから先は気を付けた方がいい。
ここからは契約だ!
悪魔と私たちとの契約をすることになりますッ!
これから真理は、悪魔を喚び出す儀式を始める。
ある悪魔を召喚する儀式を始めるとね!
その儀式を見てしまうと、
そして読んでしまうとっ!
理解してしまうとッ!
あなた方は、問答無用で悪魔と契約したことになる……ッ!」
言って、真理は、
現実で、この文を読んでいるあなたに警告する。
「その悪魔と契約してしまったことによる、
最大の報酬は、熱力学の第二法則を破ったという名誉、ただ一つだけ……。
逆にその報酬を得たことによる最悪の対価は……『呪い』です。
その永遠に強大で最悪な呪いを、
あなたたちは報酬を得た対価として代償を払い、受けることになります。
警告します!
この呪いを解くのは大変ですよ?
いまある熱力学の第二法則を破るよりも、より遥かに難しい呪いです。
もしも、そんな呪いにかかるのが本当におイヤだとおっしゃるのなら、
悪いことは言わない。
ここで止めておくことだ。
この読みにくい意味不明な虚構の物語の先を読むのを、ここで止めておくべきだ、と。
いますぐ!
ここで、この虚構を読むのは止めてしまうことを、
この真理が、あなた方に強力にオススメするッ!
いいですか?
警告はしましたよ?
読まない方がいいですよ、とね?
ここから先を読んだらもう、あなたは以前の世界には戻れない。
では、私たちは話を先に進めていきます。
『マクスウェルの悪魔』。
この存在は、今ここではあえて説明はしません。
それはネットなどで調べて貰えれば、すぐにでもわかる。
では、これからこの『マクスウェルの悪魔』に、
やってもらいましょう。
この紅茶とミルクが完全に混ざったミルクティーから、
エネルギーも使わずに紅茶とミルクを取りだすという現象をね?
これは別にそれほど難しいことではない。
この現在の現象の材料に使用している、
紅茶とミルクを、
水と氷に置き換えればいいだけです」
「水と……氷に……?」
「そうです。
水と氷に。
やってみましょう?
ちょうど、
あそこのテーブルにある透明のコップに水と氷を入れてみる……。
ああ、容器に使うコップ等は、ガラス製は止めた方がいい。
この時に使う容器は、絶対に割れない物を使ってください。
いいですね?」
そう言って厳重な注意を促して真理は歩き、
離れたテーブルに置いてあったタンブラーコップに、そばに置いてあったボトルを掴んで水を注ぎ、アイスボックスに入っていたカチ割り氷を二個ほど放り込んで手に持つと、
章子たちの前に戻って来て見せる。
「そして、
この氷と水が入った状態で……、容器を冷凍庫に入れるんです」
「冷凍庫に……あっ……!」
気付いた章子に、真理は試して笑う。
「そうですよね。
おそらく、
冷凍庫に入れた、
氷と水が一緒に入った容器の中では、
ある程度、水に溶けてしまっていく氷を一部だけ残して、水と氷は互いの境界線を付けたまま、一緒になって凍っていく……。
つまり氷と水の『熱容量』は、
エントロピーが増えるはずの、熱よりも冷低に冷えている状態であるにもかかわらず、ある一定の段階で、混ざらずに止まったままでいる……っ!
エントロピーが増えるはずの零度以下のはずなのに、
水と氷のエントロピーは止まったままになるのですよ。
では今度は、このコップを冷凍庫から取り出して見ます」
手に持っていたコップの中に入っていた水と氷を、
今度は魔法で空中に浮き上がらせて取り出し、
空中で浮かせたまま水と氷を丸い球状にして瞬時に凍り付かせる。
そして凍った水と氷の境界が、
中でくっきりと残る氷球を披露してみせて、
それを瞬時に溶かして見せる。
「ほら、これで常温で溶けた氷と水は、
液体として混ざって、水のエントロピーが増えている。
おや、おかしいですねぇ?
たしか熱力学の第二法則であるエントロピー増大則では、
・熱が、温かい方から冷たい方向に向かうことを、エントロピーの増大と言うのに?
・水と氷では……温かい常温の液体の時の方がエントロピーは増えていますよっ?」
あなたは真っ先に、自分の自宅にある冷蔵庫のあるキッチンに駆け込んでいくッッッッ!!!!!
「……ちょっと、……待ったほうがいいですよッ?」
キッチンに駆け込んでいく、聞こえないあなたの背中を見て。
画面の中の虚構側で、
空中に浮かせていた水球を余熱で蒸発させた真理が、ウンザリと呟く。
「……やれやれ。
気が早いと、おちおち落ち着いて、お話をすることもできませんね?
まあ、短刀直入にいうと、
これが『マクスウェルの悪魔』です。
熱力学の第二法則……きちんと破られているでしょう?
ちゃんと間違いなくね?
これで、
・熱は、熱い所から冷たい所へ移動する現象こそがエントロピーの増大であるのに、
・氷と水が混ざった状態では、
温度が高い融点以上の方が、温度が低い融点以下よりもエントロピーが増大している。
つまり、
あなた方の言う、
熱力学第二法則の中で、
エントロピーの増大の仕方が「可逆」しているのですッ!
これがあなた方の言う、
『マクスウェルの悪魔』ッ!
……いやぁ、
しかし、
場違いな嫌味を言わせて貰えば、
そちらの現代の現実世界では、
大天才といわれる世界最高頭脳のIQ200やIQ180の逸材、人材がわんさかといらっしゃるようですが?
その様な人たちが大勢いても、なお?
いままで、こんな単純なことにも気がつかなかったのですかねぇ?
それとも逆に……、
この虚構を書いている著者が、
それほどの「知能指数」を持った人物たちと同等か、もしや「超えている」とでも思われますか?
こんな稚拙な文章表現しかできない愚かな著者がッ?
いえいえ、
……普通であれば……、
こんなことは、こんな著者が書いてしまう以前に、
とっくにあなた方が気付いていなければいけなかった事象ですよ?
こんなものはね?
だのに、
いまさら、こんなことを私たちから指摘されてしまっているとはっ!
世界中の最高頭脳をかき集めていたであろう世界中のッ!
果ては!
歴史上の大賢人たちの結集しただろう、叡智という知恵が聞いてあきれるッ!
……それとも……?
ワザと気づかなかったのですか?
ワザと?
故意に?
いつまでも気付かないように、知らない素振りをしていたとか?
ワザと気づかれない様に、隠していたと?
自分たちがなぜ存在しているのかという謎を究明したいとか、ほざいておきながら?
こんな簡単な現実の事実にさえも辿り着くことを、あなた方はワザと避けていたのかッ?
残念ですが、
真理には、そうとしか考えられないッ!
それほど都合よく、あなた方が主張する法則理論には肝要な所で「虫食い穴」が出来ていたッ!
で?
それを暴いてしまった、
この虚構たちに向かって、あなた方はこの感想欄にこう書き込むわけですかねぇ?
〝オマエたちは知り過ぎた〟と……ッッッ?
かはっ、
……笑わせるなッ!
ならば、
真理の方が逆に、あなた方に問いたいッ!
『おまえたちは何を知っているのだ?』とっ!
こんなもので……知り過ぎた?
アハハ、
あははっははっはあっ!
いやぁっ!
本当に嗤わせてくれるッ!!!
真理からすれば、
こんなものは単なる『雑学』の領域ですよッ?
そんな、
こんな、ただの雑学を!
「知り過ぎた」などとは、割腹絶倒に笑わせてくれますッ!
その言葉を放つ瞬間こそが、あなた方の智識の浅さを露呈している時なのだとッ!
まあ、よいですよ。
ここまで、
こんなくだらない虚構に付き合って下さった「あなた」方には、
とっておきの『種明かし』をして差し上げます。
実は、
この熱力学の第二法則の「破れ」のようなモノはですね?
絶対零度が「変数」であった場合には……まだ「破られてはいない」のですよ……?」
「……え?」
驚く章子を、真理は流し見る。
「そうなのです。
このいま、私が述べあげた熱力学第二法則の「破れ」のようなものは、
絶対零度の数値が、変動しない「定数」であった場合に、まず「破られてしまう」のです!
絶対零度の最下限が、数値の変動する「変数」であった場合、
これはこう説明されるッ!
『一つの容器に入った水と氷が、氷点以下では、混ざることが出来ないまま凍り、エントロピーを止め。
逆に氷点下以上の温かい場所では溶けて、一つの水となってエントロピーを増大させる現象とは、
融点以上で溶けた時点で、世界全ての絶対零度の最下限が、
世界同時的に「隠れた変数」として下がり続けている為である』
……と、説明される。
つまり、絶対零度が摂氏マイナス273.15℃から、まだ下がり続けている「隠れた変数」で成り立っているのであれば、
このエントロピー増大則はまだ「破られていない」のです!
逆に絶対零度が「定数」であった場合には、こうなる。
『熱が温かい場所から冷たい場所に進む動きと、
液体と液体が一つに混ざる動きは同じ「ではない」』とね。
そして、
さらに付け加えるなら。
この時にもまだ、
『マクスウェルの悪魔』は、仕事はしていない」
「……え……」
章子たちが茫然と見るのを、
真理は笑って答える。
「この時でも、まだ『マクスウェルの悪魔』は、仕事をしていません。
絶対零度が「変数」でも「定数」でも、そのどちらであったとしてもね?
まだ、この状態は「マクスウェルの悪魔」を召喚しただけです。
これはただ!
「マクスウェルの悪魔」という存在を、この現実世界に召喚させることに成功した。
と言っているだけなのですよ。
この言葉の意味が出す結論とは、
ちょっと考えてみれば、すぐにわかることです。
さきほどの熱力学第二法則を破る時の説明に、道具として「冷凍庫」を使ったでしょう?
冷凍庫を動かすには「エネルギー」が必要ですよね?
ほら、この説明は、
エネルギーを使って、熱力学の第二法則を破っている。
しかし、これは同時に、
ならば、
もしエネルギーを使わなければ、
この熱力学の第二法則の破れは、どう説明されるのか?という事も指し示している!
これは、エネルギーを使わない状態でも、
その水と氷が存在している場所の「温度の位置だけは分かる!」という事を言っているのです!
水と氷の変化だけで、空間にある「高い温度と低い温度」の位置が分かる。
これは結構、驚異的な事でしてね?
普通は分からないんですよ?
見ただけでは、
どちらが「より重い場所」で、どちらが「より軽い場所」かは、普通は分からないものなのです。
それを見ただけで、温度差が分かる存在というモノが、
『マクスウェルの悪魔』。
『マクスウェルの悪魔』は、その視線だけで重い場所と軽い場所が瞬時にわかる。
あとは、その状態で「仕事」をこなしてもらえばいいだけなのです……、
……が。
実はこの悪魔、なかなか不器用な残念悪魔さんでしてね?
液体の中で混ざった他の液体を取り出そうとした時に、
力の加減が、まったく出来ずに、
今ある世界ごと、
混ざった部分を根こそぎ、ごっそりと引っこ抜いてしまうのですッ!
力ずくで……ッ!」
今までの表情を、急激に増大させて、
真理は、恐い表情で我々に言う。
「そして、
その時に使われる仕事の手段というのが……、
かつて、
あなた方が、
『マクスウェルの悪魔』を葬った時に使用した処刑方法の説明と、まったく同じです。
その説明文とは……、
『マクスウェルの悪魔が、
仕事を行い続ける為には、
悪魔が、前に実行した仕事の記憶情報を消す必要がある。
その情報を消すのに、エネルギーが必要である……』
……
というもの。
つまり、
悪魔が、
エネルギーも使わずに、自分が記憶した情報を消すことができれば……、
それは可能となる……。
それが……これです……」
真理が、
天高く掲げた手を、一筆書きに下へ振り下ろす。
「……『これ』が、その手段……」
茫然と、
焦点も合わせずに、
もう一度、腕を振り下ろした動作をする真理の姿を、
この部屋にいる誰もが唖然と見て、時間を止めていた。
「また……これ、なのですよ?
消えているでしょう?
これ?
振れば振るだけ、
動かしたあとの、この手の「動き」は、
現在から「過去」となって軽くなって消えていく。
もう分かるでしょう?
エントロピーは増えていませんよ?
絶対零度が「定数」だとおっしゃるのであれば、もうエントロピーは増えていません。
宇宙のエントロピーは既に止まっている。
宇宙のエントロピーが止まっている状態で、「今」という情報は過去となって消えていく。
ほら?
この情報の消去は、エネルギーを消費していないッ!
『マクスウェルの悪魔』が、現在という情報を、過去として消しているのですッ!
我々は既に!
『マクスウェルの悪魔』の子宮の中にいるッ!
しかし……、
絶対零度が「変数」であったのならば、
まだ!
現実というこの世界が、
過去として消えていくこの現象は、変数である絶対零度のエントロピーが増大しているからだッ!
という理屈で成り立つ!
ですが……それも時間の問題です」
真理の言葉に、周囲は唾も呑み込めない。
「エントロピーは、いつかは止まりますよ?
絶対零度が「変数」であっても、
エントロピーは、いつかは必ず止まります。
水と氷の混ざった状況が……、氷点下でエントロピーを止めてしまうのであればねッ!
水と氷が混ざった物が、氷点下ではエントロピーを止めてしまうということは……、
この現実でも、絶対零度の変数は「いつかは必ず止まる」ということです。
水と氷の動きは、我々にそう言っている……。
いつかは、この宇宙で増えているエントロピーも確実に止まる、とねッ!
これは予言ですッ!
そして、呪いでもある!
これを打ち破ることは簡単です。
氷点下の中で、
温度も使わず!
時間という「絶対零度の変数」も使わず!
用いずに!
氷の中にある、水と氷のエントロピーを増やすことですッ!
それが現実で、実現できれば……、
この「予言」も、簡単に打ち破ることができますよ?
きっとねッ!」
言って、
笑って真理が、この現実を穢す!
「頑張ってくださいね?
どうやって、
氷の中で固まってしまった水と氷のエントロピーを、
「温度」も「時間」も使わずに増やすことができるのか?
真理には、それが全然わかりませんけれどねェッ?
まあ、頑張ってやってください?
できなかったら……、
『悪魔』が仕事をしちゃいますよ?
この宇宙空間という絶対零度の「変数」が、
増えている筈のエントロピーを止めてしまった瞬間に……、
今まで記録してあったモノを、
全てのエネルギーに変えてねェッェェェッェェェッッ!!!!!」
真理は、
悪魔の大声で、我々に叫ぶ。
「真理は、かつて!
言ったはずだッ!
〝我々は記録されている〟と!
……過去が……、
ちゃんと記録されているでしょう?
この宇宙空間に……?
きちんと光の姿で記録されているでしょうッ?
その宇宙空間に記録されている、かつての全ての「過去」という出来事がね?
それが、
〝その時〟に、
質量を持つんですよ?
今まで消えていった過去が質量をもって!
エネルギーとなって!
現在の我々を押し潰すッ!
なぜなら、
かつてッ!
現実のあなた方は、
この『マクスウェルの悪魔』を処刑した時に、その最後をこう締めくくったはずだッ!
〝情報はエネルギーを持つ〟
そして、
マクスウェルの悪魔は、
その何処かに記録してある情報の全ての状態を知っている限り、無限のエネルギーを生み出すことができるのだとッ!」
そして、
また再び、
真理は天井の遥か彼方の、天元を指差すッ!
「それがッ、あれだッ!
あの夜空で輝いている星々の光こそが、我々に届くッ!
あの太古の星々の淡い光が、我々を灼きつくす時が、きっと来るッ!
質量で、時間が繋がるッ!
エネルギーで、重い時間と軽い時間が繋がるのですッ!
宇宙の年齢、138億年の距離が!
「光」と「熱」でッ!
それが……ッッッッ!!!」
「……ビッグ……、バン……」
章子の呟いた言葉で、
全員の目が覚める。
「絶対零度は下がっています。
そして、どこかで止まる。
確実に。
それを、
虚構側は、摂氏マイナス299.97℃だと見積もっている。
その到達予想時刻が、ここから約13億4000万年後。
その時に次のビッグバンは起こります。
203回目のビッグバンが、
118個の陽子と180個の中性子を持った新たな「元素の同位体」の出現によってね。
そこからまた一つ、元素の減った117種の元素で占められた次の新しい「世界」が始まる。
それを証明するのが「宇宙背景放射」、
宇宙の全方位から届く宇宙背景放射は、ビッグバンという現象が超伝導現象であることの証し。
我々は『マクスウェルの悪魔』の子宮の中にいて。
同時に202回目の「超電導物質」が一瞬で燃え上がり、冷えていく過程の空間の中にもいる。
それが……現在……。
この『予言』を解くのは、いとも容易い。
氷点下より下の温度で凍った「氷」と「水」を、その場で一つに混ぜ合わせればいいだけなのだから。
温度も時間も使わずにね?
『0の中のコビト』
我々は、そういう存在だった。
「0」というマクスウェルのアクマの子宮の中で、我々は息づいて暮らしているッ!
……さて、これで、
『マクスウェルの悪魔』についての、お話は終わりました。
……ああ。
そうそう。
ちょっと、
虚構を読まれている、
現実のあなた方には、忠告をしておきましょうか?
水と氷を一度に凍らせる、その実験、
それは『真理学の実験』ですよ?
決して「理科の実験」などではありません。
それを、
実際の、そちらの現実の世界でも、
興味本位でも「本当に再現できるのか」を試してみるのは構いませんが……。
あとのことは一切……保証しない……。
保証はしませんよ?
それは「悪魔」を召喚する儀式だ。
そして、契約する儀式……!
その悪魔の召喚に、少しでも成功してしまうと……、
あなたはもう、あと戻りはできない!
現実を信じられなくなるッ!
それは「呪い」の契約です。
決して解けない「虚構」の呪い……ッ!
まあ、せいぜい、
その実験が……成功しないことを祈っていますよ?
もし、……仮にでも成功してしまったら……、
ポイントをいただきましょうか?
この「虚構」の「短編」の側の方にポイントの評価を頂きたい。
本編の方にはいりません。
ポイントは短編の方のみに入れてください。
よろしくお願いしますよ?
逆に、
もし私の言った実験が、現実では成功できずに「エントロピーの停止」も再現できなかった暁には、
本編と短編のどちらでもいいですよ?
その事を、
実験の批判として感想欄に書き込めばいい。
……実験すること自体は、断じて決してオススメはしませんがね?
……では、そろそろ「次」の話題に移りましょうか。
次のお話は、
水の吸熱反応による「副産物」についての、詳しいお話。
……しかし、このお話。
どうやら、この「虚構」を何とか書き続けている著者は挫折をしてしまったようだ。
あなた方と約束した「〆切り」も守れずに、先延ばしにしてしまった。
まったく悪いクセを持った、情けない「著者」だッ!
我が母も、怒り心騰でいることだろうッ!
読者の方たちの、尊い信頼を裏切ったこの罪は重いッ!
そんな無様な大罪は、
代わりに登場人物である、私からあなた方に、
深く、
お詫びを申し上げましょう。
誠に、申し訳ありませんでした……。
ですが、
これは「あなた」方にとっても、いいチャンスでしょう?
これで時間は稼げる。
もう一度よく「予習」してくることだ……。
前回のあとがきで……
この「著者」はあなた方になんと伝えていましたか?
「マクスウェルの悪魔」以外に、
他の「何か」を予習しておく事を強くお薦めする、とかなんとか、
意味不明な供述をたれていませんでしたか?
では、私もそれを強くお薦めしておきましょうか?
よく「学習」しておくことだ。
真理にこれ以上、言わせないでいただきたい。
この現実の世界の、
〝おまえは何を知っているのか?〟とね?
では、私は何を知っているのか?
それは当然……、
『あなた』方の、その「生命の仕組み」について、ですよ?
この、
〝水は、吸収した熱をその水の内部で「オマエ」に変換し、その変換した「オマエ」によって発生した熱をさらにまた再回収している〟
……という『真理学』の中身について……。
まあ、よくよく考えておくことだ。
なんなら、この感想欄に「先に」書いてもいい。
挑発をしておきましょうか?
おそらく今の著者も、現時点では、この次の話などまったく「白紙」の状態だ。
ほぅら、スタート地点は、皆「同じ」ですよ?
次の内容のヒントは、
その変更された次の更新日の数字の意味にも、また、あるのかもしれないのだから……。
なぜ?
その数字の日が「次の更新日」に選ばれたのか?
ま、そこは適当に、
頭の片隅にでも考えておけばいいでしょう。
大した意味は恐らく、
ない。
そして、
その白紙の状態で、また出来もしない約束をしてしまった「次の更新日」までに、
いった、どこまで、
残された日数で、この先の物語を「描き切る」ことが出来るのか?
その時がくれば、
今度こそ、
また、この話の続きを披露することにもなる……。
この「マクスウェルの悪魔」が存在する微かな根拠を、いみじくも辛く書ききった、
この「著者」が挫折をしなければ、ね……?」
そう言った、
真理の姿は「あなた」から遠くなる。
この「現実」の……。
……あなたは、何を知っているのだろうか?
《警告!!》
この実験手法で出てくるだろう実験結果は、全て『現実』です。
いかなる結果であろうとも、
過去にあった自然現象となんら一切合切、全く変わる物ではありません!!
また、
この実験以外の、
・この科学はフィクションです。
そして、
この物語もフィクションです。
この物語中に出てくる氷と水の実験以外の全ての法則、現象、事柄、存在などは全て完全にフィクションであり、
完全な無知である私、著作者の個人的偏見にもとずく、完全に都合のいい「こじ付け」でしかありませんので、
現実世界に実在する全ての法則、全ての現象、全ての事実、全ての存在とは完全に一切、関係はございません。
さらに、
あらすじにもあります通り、再度、申し上げますが、
この短編作品は、同著者のとある本編作品の中で過去に投稿した話の内容の一部を短編作として再び抜粋し、一部に加筆、微修正した短編用の、完全な『虚構』作品です。