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ダーク・ダークウェブ  作者: 琵琶
第1章
3/13

有益な情報を交換する

3.有益な情報を交換する


 次に会う時間を日曜の夜12時に指定されてしまい、「学校のことも考えて欲しい。」と思ったが、考えても仕方がない。問題は、DCに入るための資格が全く無いことを、解決しなければいけないということだ。思考を切り替えてリヨにミス・ボーとのやりとりを説明する。

「不法侵入するの!?」

確かにその通りだ。不法侵入になる。厳重に管理されているDCは監視カメラだらけの空間だ。私も高校生の時に入ったことはない。入るためにはソーシャルハック、つまり現実に見せかけて入ることが必要になる。バレたら即拘束、逮捕、停学、退学のコースだ。腹を据えて取り掛からないと、一生をフイにしてしまう。しかしミス・ボーの最後のメッセージを聞く限り、入る方法は紙に書いてあるらしい。あの白紙の紙に。

 「この紙に書いてあるのかな?」

紙をじっくり見てみるが、やはり白紙だ。ただのA4コピー用紙。3つ折りにされているだけだ。紙の角の部分に何か書いてあると思ったが、何も無し。

「水につけてみようよ。」

「それは最後にしよう。紙がふやけて元のデータが見られなくなったら困る。」

「うーん、でも紙に情報を隠すって、どうするんだろうね。」普通は書くものだが、何故か書かないでいた理由を考えてみる。そうだ、封筒側も紙だ。なにか書いてあるかもと開いてみたが、こちらも何も無し。糊付け部分まで開いてみたが、何の文字も無かった。紙の写真を撮ってPCにコピーして、写真加工ソフトでコントラスト調整をしてみたが、これも収穫がない。本当に、ただの紙にしか見えない。

「仕方がない。紙を水で濡らそう。」思い切って、紙を水で濡らしてみた。しかし、裏も表も、何の文字も浮き上がってこなかった。紙がシワシワになった。紙をドライヤーで乾かしながら、次の手を考える。

 「紙に書いてある、という意味を考えないといけないのかな。」リヨも一緒に悩んでいる。

「見えないが、見えているという意味かも。」根拠もなく返事をしてみる。叔父の話が本当なら、手紙は12年前に作られたはずだ。12年前に存在した技術を検索してみる。しかし手がかりらしきものは見当たらない。この問題だけで日曜を過ぎてしまいそうだ。家庭用ガスで恐る恐る炙っても駄目。丸めるのは意味がない。折り紙は意味が無さすぎる。

「別の視点が必要かも。今日はお開きに・・・・」そう言いかけた途端、リヨは閃いたらしい。

「スマホでQRコード読み取りしてみようよ。」


 スマホでQRコード読み取りモードにして、白紙の紙をロック・・・・認識した!何故!?この紙はどうなっているのだろう。内容はサーフェイスウェブのURLだ。裏面もロック・・・・同じくQRコードだ。こちらは・・・・酷いメッセージだ。見なかったことにしよう。ひとまず、サーフェイスウェブのURLに向かってみる。古いアップロードサイトにZipファイルが保存されていたため、ダウンロード。パスワードがかかっているが、Yubicoに入っていた長いパスワードを使うとあっさり解凍。中身は、とある大手企業の社員証のレイアウトと、そこにいるであろう従業員の名刺のコピー。入室許可証の書式、入出許可証を出すべきメールアドレス、そして名刺には何かの場所を示す番号(16F E-30A フジワラ)が書かれていた。社員証の偽造・・・・犯罪一直線である。


 どう考えても犯罪だ。リヨを連れて行くのは反対だったが、どうしても付いて来るという。

「1人じゃ何かあった時に困るでしょ!」

「でも犯罪だよ。巻き込むわけにはいかない。わかるだろう?」

「やだ!絶対に付いていく!」

「近所の遊園地に行くわけじゃないんだ。」

「わかってるよ。けど、絶っっ対に付いていく。」

諦めさせるためには、どうすれば良いだろう。

「そうだ、対戦ゲームだ。対戦ゲームで勝利したら一緒に行こう。」

私もリヨも疲れはてているが、対戦ゲームを起動。大丈夫だ。このゲームは殆ど負けたことがない。何回も何回も勝利して、リヨは涙目になってきた。でも決して諦めない。何度でも挑戦してくる・・・・。「勝つまで続けるからね。」悔し涙を浮かべながら、ゲームパッドを持つ。

「わかった。じゃあ別のゲームにしようか。」

「駄目よ。このゲームで勝つまで続けるって言ったんだから、絶対勝つまで、このゲームはやめない。徹夜してでも1勝する!」

こうなったら駄目だ。何も聞いてくれない。2人で潜入する方法を考えよう。


その夜、リヨは母に「今日は泊まるね。」と言って、布団を私の部屋に運び込んだ。リヨの学校のカバンにはいつものごとく、パジャマが入っていた。母には何度も「年頃の子と一緒の部屋に寝るのは駄目じゃないか。」と言っているのだが、母は、そうなったらそうなった時と思っているようで、特にリヨを邪魔したりしなかった。だいたいこうなる。夜にひとつの部屋で二人きり。

「小さい頃から何度も一緒に寝てるじゃない。」

「いや、その、年頃の子とは、違うだろう。」

「なに、テル君テレてるの?なんだか嬉しい。」

駄目だ、話にならない。誰も止めないのだから、こうなるのはわかっていることだ。だから夜までリヨを引っ張り回すことはあまりしていなかった。

「わかった。寝る。おやすみ。」

「おやすみテル君。良い夢を。」

しかし眠れない。VRゲームで疲れたので、早く寝るはずなのだが、横にリヨが居ると思うと、意識してしまって寝られないのだ。

「ねえ、テル君。今日は助けてくれて、ありがとう。」

「VRゲームのことか。そういう設定だったろ。」

「でも嬉しかったよ。テル君が鎖を投げて来た時、王子様が来てくれたと思っちゃった。」

「寝てなかったっけ?」

「途中から起きてたよ。」少しの静寂が2人を包む。

「ねえテル君。将来とか考えてるの?」

「数学の成績が良いから、大学に行って、情報処理を勉強するかな。できるだけ専門的なところが良いな。」

「ふーん。10年後とか考えてるの?」

「10年後は・・・・どうなってるんだろう。セキュリティの専門家になって、各地に出張してコンサルしてるか、ネットワークやIT機器のセキュリティ機器の内部解析やセキュリティ分析をやっているかな。リヨは?」

「私は何も考えてないな。今の女子高生を満喫することくらい。結婚して、家族を持って、家族と一緒に楽しい時間を過ごせたら良いな。」

「働くとかは考えてないの?」

「看護婦に慣れたら良いなと思ってたけど、学校の授業料が高いから、もういいかなっと。」

「最近の生涯給与だと、2人で働かないと、家は買えないらしいよ。」

「賃貸のマンションで良いよ。でもハッカーって高給なんでしょ。大丈夫だよ。」いつの間にか2人の人生設計の流れになっている。

「子供は2人欲しいな。男の子と女の子。仲良くしてくれると嬉しい。」

「リヨの子なら、可愛いし、仲良くするでしょ。」

「お父さんも優しいしね。」流れが怖くなってきた。

「どんなお父さんなんだろうね。」と流れを変えてみようとしたが、駄目だった。

「いつも側にいて、いつも私を助けてくれる。いつも私はその人のことを考えて、いつも・・・・いつも私を助けてくれるの。私、今幸せだよ。」

ごめん。私はリヨの思いに答えられる人間じゃない。そう思いながら、就寝した。


 社員証の偽造に2日かかっているうちに買わないと行けないものがある。スーツだ。私は既に買っているので良いが、リヨの分は無い。

「なんでテル君はスーツ持ってるの?」

「2着セットで安かったんだよ。」

「大学の入学式の時に着るとか?」

「まあそんなところ。」さて、リヨと一緒にスーツ専門店に行って、女性用スーツを買えば、準備は完了だ。


 スーツ専門店は、男子用スーツ専門店だった。女性用はほんとうに隅にしか置いていなかった。そういうものらしい。就活シーズンではあるので、まだこれでも多い方らしい。ここでリヨが予想外の反応を示した。

「可愛いのが無い。」

「そりゃそうだ。普通のリクルートスーツにしようよ。」

「やだ。こんなスーツ着るなんて私の人生設計に無いもん。」どういう人生設計をしているのかツッコミを入れたかったが、まずは買わないと進めない。

「ブランドものじゃなければ、スーツ代は出すから、好きなのを買って良いよ。」

「ホント!?本当に買ってくれるの!?」

「ああ。」

「じゃあ選ぶ。」

「わかった。早くしてくれよ。」店員がサイズを測りに来たところで、

「この店から出てって!」

「何故?どんな感じか見てみた・・・・ぐあぁ。」ローキックとミドルキックを太ももに決められた。スポンサーなのに出ていかないといけないのは納得できないが、とにかく猛烈に嫌がるので、店の外に出た。外は晴れていて気持ちが良い。


 リヨが買ったスーツは。金曜日には受け取れるらしい。

「ついでだし、何か食べて行こうよ。」

「そうだな、ちょっと最近PCに張り付きすぎた。」近所のスイーツショップに行って、スイーツを一緒に食べる。脚もちょっと痛いし、椅子に座りたい。

「何か言った?」

「何も言ってますん。」リヨはこちらの挙動には敏感に反応する。しかし、同い年の従兄弟は幼馴染を超えていて親密になっているな。他の家庭の従兄弟の関係はどんな感じなのだろう。妙齢になったら結婚しろとか言われるんだろうか。親戚の感情から抜け出せないから無理だな。仮に従兄弟がグラビア美人でも、無理な気がする。そんなことを考えていると、リヨがもじもじし始めた。

「何ジロジロ見てるのよ。」

「いやーグラビア美人だったらなーと・・・ぐはぁ。」思いっきり足を踏まれた。

「もう、せっかくのデート何だから、もっと女性を持ち上げなさいよ。持ち下げてどうするのよ!」

「食事なんて何度もしてるだろ。」

「外で2人でスイーツ食べるのは初めてなのよ!」

「そうだっけ?」リヨは顔を赤くしている。

「もう!」実は意識されているのは気付いている。だが、親戚だからその意識からは遠ざかろうと思っていた。

「テル君、デートしたこと無いんだね。少しだけ安心したよ。」

「デートしたことはあるよ。」

「えっ!?嘘!?誰と!?どんな人なの?」スイーツを手にしたままにじり寄ってくる。

「映画に行ったり、下校中に一緒に話したり、カラオケに行ったり。」全部ソーシャルゲームの中の話なのだが。

「なーんだ、ゲームの中の話じゃない。」

「・・・・なぜすぐにわかった。」

「テル君のことは大体わかるからね。」

生まれた頃から最近遊んでいるゲームまで、全てを知られている女性と、恋愛感情は生まれるのだろうか。


 金曜日にリヨはスーツを受け取り、日曜夜、スーツを着る。PC、社員証、カード入れ、さぎょう用PCとケーブル、指し棒。事前に提出する入出許可証は、メールでDCの担当者フジワラさんに送っておいた。2人は電車を降りてタクシーでDCに向かう。地下にあるDCの受付に入る。

 さすがに本名はまずいので、社員証の名前は「田中一郎」、リヨは「大戸島 さんご」にしておいた。会社名、氏名、そして行き先欄に「16F E-30A」と記載する。社員証を見せながら

「あの、今日初めて来るんですが。」と言うと、親切に対応してくれた。

「ああ、それで入室許可証が古かったんですね。わかりました。では指紋認証しますね。」受付の人に従うまま、指紋認証を行う。本来であれば入れないが、正規の手順なら最初から丁寧に説明してくれる。

「PC類はこの透明な袋に入れてください。他のものはロッカーに入れておいてください。」全てを指示通りに行い、セキュリティゲートを通るためのゲートカードとラックを開けるための「E-30A」物理鍵を預かる。やった、成功だ。ここで写真を撮影されるDCもあると聞いたが、このDCは写真撮影が無かった。ラッキーだ。これなら不正侵入を証明するためには指紋認証データと監視カメラしかない。リヨはできるだけ挙動不審にならないよぅに、ずっと側を離れなかった。そして受付の人に追加でお願いした。

「あの見せているものも使うので、貸してくれませんか。そこの吸盤状の取っ手みたいな工具です。」


 駅の自動改札のような場所にゲートカードをかざすと、ゲートを通れる。直後に「ピピピピ!」と通報音がするのでギョッとして受付の人を見返したら「そのまま言ってください」と手を上げてくれた。通報音は、金属探知機のようだった。ホッとして通路の奥のエレベーターホールに向かう。リヨはホッとした表情を浮かべる。

「私、心臓が爆発するかと思ったよ。」

「だから来ないほうがいいって言ったのに。」

「・・・・駄目、絶対について行く。」覚悟を決めたのか、表情は引き締まっている。しかし、この後が問題だ。16F E-30Aには何があるのか。


 《ポーン》エレベータが16Fに到着する。到着すると真っ暗だが、通りすぎようとするタイミングで蛍光灯が点く。省電力のため、電灯は自動点灯となるようだ。行き止まりの扉に立つ。その前にリヨに忠告する。

「リヨ、トイレなら今のうちに行ったほうが良いぞ。ここから先は出るのに時間がかかる。」

「その発言セクハラよ。」

「事実を言っている。長くなるかもしれない。」

「大丈夫よ。行きましょう。」横のカード読み取り機にゲートキーをかざして、ドアの中に入る。


 中は、空調の音が鳴り響く大きな部屋だった。手元は明るいが、透明の円柱の向こう側は暗い。透明の円柱は自動ドアになっている。指紋認証を行うと、片側のドアが開く。円柱の中でもう一度指紋認証すると、反対側のドアが開くしくみだ。誰が入退室したかを確実に把握するためのドアだ。まずは私が入り、円柱の向こう側に行く。さて、次はリヨが・・・って居ない!さっきまで居たのに何故。数分後入ってきて円柱に入った。

「こんなしくみだと知らなかったから化粧室に行きました。」気持ちはわかる。さて、ここからは電灯は手動で付ける。そして、E-30Aに向かう。


 E-30Aラックがあった。出入り口からは遠いが、消火設備には近い。サーバラックを物理鍵で解錠する。中に入っていたのは、ケーブルが沢山つながった大きな箱だった。そして、テプラの表示を見て、私はヘナヘナと力を落としてその場に崩れた。

「どうしたの?化粧室?」リヨが心配そうに覗き込む。私はテプラを指さした。

「・・・・Torルータって書いてあるね。」前述したが、Torルータを利用すれば完全に匿名化されるため、ハッカーや犯罪者が利用している。

「えっこれが実物のTorルータってこと?ここからハッカーや犯罪者がアクセスしてるの?」

「それだけじゃない。」話を続ける。しかし、いつまで続けられるか。


 「Torルータを経由すると、送信元は匿名化される。このため、ハッカーや犯罪者が利用している。」

「うん。それは聞いたよ。」

「2013年、パソコン遠隔操作事件が起きた。」

「話が飛びすぎじゃない?」

「まあ聞いてくれ。2013年のパソコン遠隔操作事件では、遠隔操作された送信元のIPアドレスを警察が辿ってしまい、犯人の誤認逮捕が起きた。そして真犯人はTorネットワークを利用していたんだ。」

「警察は犯行を立証できなかった。実際、犯人のTorネットワークの利用経路は特定できず、犯人の自供により事件は解決した。」

「Torネットワークがすごいのか、警察が駄目なのかわからない。」

「当時の警察はどうしようもなかった。そして、この事件を重く見た警察は、密かに、自前でTorルータを構築した。」

「えっ!?警察がTorルータを使って犯罪を助長してるの?」

「Torルータの構築が即、犯罪の助長にはあたらないし、監視出来るぶん好都合だと考えたんだろう。Torルータは東京と大阪に設置され、東京は警視庁、大阪は京都府警がTorルータの入り口を監視している。過去の誤認逮捕を再び起こさないように、そして今後の犯罪防止のために。」

「なるほど。警察も頑張ってるんだ。」

「で、ここはどこだっけ?」

「横浜。」

「そう、横浜。このTorルータは警察が管理していない、恐らく日本で3台目の大型Torルータだ。本当の意味でのダークウェブに接続できる入り口だ。」

「ええっ!トンデモない機械じゃない。」

「それだけじゃない。テプラに「Torルータ」と丁寧に書いてある。」

「もう訳がわからない。」

「ここに来た理由は、まずひとつはこのテプラを剥がせってことだ。」そう言って、テプラを剥がした時に、複数の人が入ってくる音がした。


 工事用搬入口から、複数の人が入ってきた。先頭には叔父さんが見える。

「そこまでだ。」叔父さんは諭すように言った。

「叔父さん、いえ、警察の方、芝居がかったタイミングですが、何か用ですか?」

「警察だ。」叔父さんはこちらに警察手帳を見せてくる。

「任意で事情を聞かせてもらう。手に持っているものを全て床に置きなさい。」全ての荷物を床に置く。Torルータと書いているテプラは、丸めて床の排気口に捨てた。

「何を捨てたんだ。」

「ゴミです。」

「わかった。そのゴミも確認する。サーバラックから離れなさい。」気付くと、サーバラックの両側に刑事が立って、挟み撃ちにされている。両手を上げて、消火設備のほうに近づく。刑事が身体を触って、ボディチェックを行う。

「何するのよ!」リヨはローキックするが、刑事はひるまない。

「大人しくしなさい。大人しくすれば、全ては上手くいく。大丈夫だ。お父さんを信じなさい。」

「娘の後を付けてたの!?お父さんなんて嫌い!」叔父さんからダメージが入った音がする。「とにかく、そこをどきなさい。」言われたとおり道を譲る。叔父さんはサーバラックをまじまじと見て意外そうな顔をしている。

「これは、ネットワーク機器じゃないか。サーバじゃないのか。」叔父はサーバだと思っていたようだ。携帯ではなく、警察無線で外部に状況を伝える。

「何だこれは。一体何が起きてる。」

「やっぱり、途中までは暗号を解いていたんですね。」

「そうだ。だが2つ目は解けなかった。だから君たちを監視、尾行していた。」消火設備がある壁まで下がると、リヨと少しアイコンタクトができた。

「あのボタンを押すふりをしろ。」と消火ボタンを押す素振りをアイコンタクトで伝えたが、どう考えても全部伝わるには無理がある。しかし必死に目で伝えると、リヨは理解したようで、親指をグッと立ててきた。そして横の刑事が一瞬の隙を作った刹那、リヨにはその刹那で十分だった。素早く消火設備のボタンに手をかける。

「お父さん!」叔父はギョッとして動けない。その間にリヨと刑事の間に入ることができた。これでリヨは安全だ。リヨに一言。

「待ってるからな!」と告げると、吸盤状の取っ手があるところまで滑り込んだ。

リヨは「わかった!」

そしてすぐ「お父さん死なないで!」と発した瞬間、リヨは消火ボタンを押した。


 消火ボタンを押しても、すぐ消火は始まらない。《消火ガスが放出されます。屋外に出てください。》警報音とともに、警告の自動メッセージが放送される。

「何してる!すぐに消火をやめさせるんだ!」

「叔父さん、3分後です。1秒でも遅れたら、ガスでやばいですよ。」叔父さんに警告を話し、少しひるんだ隙を見て、即座に吸盤状の取っ手を使い、床下を開けた。荷物ごと床下に忍び込む。即座にリヨが床下に入り、すぐに床下を閉める。こうなると、工具がなければ開けられない。

「くそっ、床を開けなさい。事情聴取すれば離してあげるから。」

「もう2人で死にます。」

「何を言ってる。前々から2人は・・・・いや、そんなことより床を開けるんだ。」

叔父さんは警察無線の連絡に切り替える。

「3分だ、3分以内に受付に連絡して消火を止めろ!」しかし警察無線は、外部と連絡していたため、受付には人は張り付いていない。床下から更に追い打ちをかける。

「ガスはヤバイですよ。」と更に忠告すると、刑事たちは慌て始めた。

「いつでも捕まえられます。今は退避しましょう。」

「いや、止められるはずだ。」現場が混乱してきた。ここで、床下の換気口から監視カメラに向けて、指し棒用の赤色レーザーを浴びせる。監視カメラを見る側の受付は、火が出ていると誤認。現場は更に混乱する。

「火事です。DC内に居る人は全て退避してください。」とうとう、機械音声ではなく、受付が退避勧告を行った。消火ガスが出るのは時間の問題だ。

「リヨ!無事でいろよ!テル君、あとできつく絞め上げてやる!」捨て台詞を吐いて叔父さんは工事用搬入口から退避した。


 人が居なくなった頃に、床下からTorルータにLANケーブルを挿して、更にルータのUSBポートにYubicoを挿した。

「ここに居て大丈夫なの?」床下でリヨは怯えている。

「大丈夫。昔の消化ガスを使っていたら、二酸化炭素ガスで人にも有害だけど、ここはイナージェンスガスだ。ガスが出ても死なないよ。」

「じゃあ、やっとダークウェブのユーザに会えるんだね。」

「そうだ。警察の監視下ではないので、ダークウェブのユーザは顔を出してくれる確率が高い。」私は床下でPCのセットアップに取り掛かっていた。


ここからが本当のダークウェブだ。


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