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蟲人~インセクター~  作者: 風瑠璃
第一章
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6 愛と霧

外での睨み合いは、すぐに終わった。

嫌々だったが、愛が紫耀さんを家に招き入れたのだ。

二人は椅子に座り、テーブルを挟んで睨みあっている。

会話はない。沈黙が、どこまでも重かった。


俺はと言えば……


「痛い……」


床に正座させられていた。

愛の隣に座ろうとしたが、無言で床を示され、あぐらをかこうとしたが、力強く床を踏み叩かれたので、正座で見上げる状況。

三十分ほど何もせずに正座してるので、足が痺れて痛い。立ち上がることも出来ないように感じる。足の感覚がおかしい。


「痛い……」


小さな呟きも、沈黙の中では異様に響く。


「兄さん?」

「愛……」

「正座だけでは、反省が無いようですね」

「えっ?」


顔を上げれば、何故か台所へと向かう愛の後ろ姿。ジャーっと水を流す音に、顔が青ざめた。


「ちょっ、待て。それは、まずい!!」


叫び、正座を崩して立ち上がろうとし……ピキっと足に電流が走る。

ビリビリと全身を襲う痺れに、こてんと横になった。


「………………!!」


声にならない絶叫を上げながら、痺れた足を動かそうと必死に行動する。


「兄さん。誰が止めていいと言いましたか?」

「まっ愛……」


般若のような形相で、水のたっぷり入った鍋を持ってくる。揺れるたびに溢れる水が、床と俺を濡らした。


「さあ。早く」

「いや、足が……な?」

「早くしてください。水を火にかけますよ?」

「はい!!」


お湯にされたら両足が火傷するので、痺れに耐えて正座。

ビリビリと響く足に、大量の水入り鍋が置かれた。


「溢したら、許しません」

「はい」


つまり、足を崩しても駄目と言うことか。

何の反省なの、これ?

紫耀さんを連れてきた結果がこれって……辛い。連れてこなければよかった。


「さすがに、これは可哀想。では?」

「いえ、兄さんには教育が必要だと常々感じてましたので、これくらいでちょうどいいんです。全く。誰のだと思っているのでしょうかね?」

「翔樹さんのもの、だと……」

「違います。兄さんは、愛のです。霧葉。奪うなら、命をかけてもらいますよ?」


何か、物凄く怖いことを言っている。

今すぐこの場を離れたいけど……鍋あるし、足痺れてるしで動けない。


誰か助けて!!


「奪うなんて……仲睦まじい兄妹を引き裂くつもり。ありません」

「その言葉。信用に値しません」

「そう、言われましても……」


全く受け付けない愛の態度に困惑の表情を浮かべる紫耀さん。早く話を終わらせて解放してほしい気持ちで一杯なのだが、下手に話に割り込んでも危険度が増えるだけなので何も出来ない。

ううっ。なんで、こんなことに……


「そもそも、何しに来たのですか?」

「確認。ですよ。あなたの愛と翔樹さんの状況の」

「必要、ないはずです」

「そんなこと……ありません。必要なの、ですよ」

「どうして、ですか?」

「どうして、ですかね?」


二人の会話を聞いても、まるで意図が分からない。

愛が怒り、紫耀さんがなにかをしに来たことだけは分かるけど、それ以外は全くだ。

二人は、知り合い……違うか。もっと近い間柄なんだろう。ライバル。みたいなのがしっくりくる。

ただ、なんで対立したのかが不明。対立した理由も……まさか、俺が関係してるわけもないし。


「帰ってください。兄さんの記憶は戻ってません」

「そのよう、ですね。出来損ないと会っても、予定の反応をしません。でした」

「会わせたのですか!!」

「はい。そうですよ?」

「霧葉!!」


バンっと力強く机を叩く。

怒りのゲージが見えたならば、きっと振り切れていることだろう。

あの化け物に会ったことに、怒りを覚えて……あれ?


「あの……」

「兄さんは、口を出さないでください!!」

「すいません」


いや、おかしい。だってそうだろ?

なのに、聞けない。


「会わせて、どうするつもりだったんですか?」

「そうですね……倒せれば、良かったかと」

「ふざけないでください!」

「ふざけては……いません。私は、本気ですよ?」

「記憶を、戻すつもり……なんですか?」

「そうです」


はっ!? えっ!?


声には出さなかった。

だが、困惑で鍋が揺れて水が少し溢れた。


「霧葉……あなたは!!」


椅子を蹴り、テーブルの上を飛び上げる。そのままの勢いで殴るのだと感じ、止めようと体を動かす。


「うぐっ」


しかし、足に乗っている鍋をどうすることもできず、立ち上がれない。

すでにことは済んでいるはず。

そう感じ、視線を向ける。


「えっ?」

「霧葉……」


愛は、飛び上がってはいなかった。

椅子にちょこんと座ったまま。紫耀さんを睨んでいる。

まるで、夢を見ていたかのような状況に、目を白黒させる。


「あれ?」

「どう、しました?」


困惑を込めた瞳を向けられ、何を言えばいいのかが分からなくなる。

少なくとも、愛が突撃することはなかったと言うことだけは分かった。だが、なんでと疑問が深まる。


「はぁもういいです。出ていってください」

「愛。そんな言い方……」

「害悪とこれ以上一緒に居られません。事情は愛が理解しましたので、もう十分です」


ぷりぷりと怒りながら、席から降りて紫耀さんの腕を取って歩き出す。

俺を、放置したまま……

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