オープニング
いつも通りの日々。
いつも通りの日常。
なにも変わらないと思っていた毎日が、ふとした拍子に消え去っていく。
アニメでも、ゲームでも、小説でもない。現実に起こってしまう悪夢のような出来事。目を閉じても、耳を塞いでも、腕をつねっても、頬を叩いても、変わることのない地獄。
いつだってそうだった。
なにをしたところで、変わることはない。一度落ちた人間が這い上がることなどできはしない。地獄のなかに落とされたのであれば、死ぬか苦痛を長く受け続けるかの二択しかないのだ。
「はぁはぁ」
俺の選択は、長く受ける苦痛であった。
おびただしいほどの血を浴び、全身が赤く染まりながら、生きていることだけを実感する。
拾った刀は無茶な使い方をしたせいで半分折れて使い物にならなくなっている。
それでも、生きている事実だけは変わることはない。
世界が赤く染まる絶望の世界で、俺は未だに生きることを諦めていない。腕が勝手に敵を仕留めていく。足が勝手に前へと歩を進める。荒い呼吸を繰り返しながらも、進む以外の選択肢を頭の中から排除していく。
「はぁはぁ」
積みげた死体はすでに百を越えている。
人としての原型を留めていないそれを一瞥しながら、自らの最後を夢想する。
いずれ、自分も……
そう考えることが出来るほどには、頭は冷静さを取り戻している。
しかし、荒れた息はなかなか戻らない。
「がああああああ」
叫びを上げながら襲いかかってくるのは、人にカマキリを無理矢理に混ぜ合わせたかのような生き物だ。口から溢れ出ている叫びは、嘆きにも思える。
着るものはその大部分が無くなっていて、露出していない方を探すのが難しいほど。だが、その肉体も半分以上がカマキリと変わらない。手が鎌のようであり、複眼をぎょろぎょろと動かしている。背中から生える羽を動かしながら飛ぶ姿は異様。
「がああああああああ」
涙を流しながら突撃してくるカマキリ。男とも女とも分からないほどに侵食され、死を望むように叫びを上げる。しかし、振り上げられた鎌は命を簡単に刈り取れるほどに鋭く、折れた刀しか持たない俺では対処のしようがないのが現状。
なのに、体は勝手に正眼に構えを取る。
折れた刀を正面に掲げ、身に覚えのない型で対応する。
「ゆっくり、休め」
自分の声なのに、別人のような感覚が支配するなか、刀が降り下ろされ、カマキリを真っ二つに切り裂いた。
半分になって倒れるカマキリを一瞥しながら、刀についた血を振って落とす。
それでも落ちないほどに血に濡れた刀は、すでになまくらと変わらないはずなのに、そんなそぶりをまるで見せない。
「俺は、先へ行く」
歩みを再開し、どこまでもどこまでも先へと向かう。
その歩みに迷いはなく。その行き先に疑いはない。
赤く染まった世界で、生き続けるために行動する。
何気ない日常を、取り戻すためだけに……