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アクマでも!  作者: 黒居まめ
Chapter.1 アクマでも?
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Section.09  悪魔と馬鹿もしくは勇者Ⅰ


「でやあぁっ!!」


裂帛の気合と共に大剣が唸りを上げる。

斬るのではなく叩き潰すと言う一撃は、戦士風の男の脇からグシャリと言う音と共にその身体を吹き飛ばした。

大剣の男は若い。

年頃は20歳そこそこ。

戦士らしい良い体格をした精悍な赤毛の青年だ。


「こいつやるぞ!、囲め!!」


戦士風の男達は10人程。

もう既に5人が大剣の青年に吹き飛ばされている。


「大した事ないじゃねーか」


不敵に笑う青年が一歩前に足を踏み出すと、男達は一歩下がる。

個人的な実力差は青年と男達では比べるべくもない。


「滅茶苦茶ですぜ、あいつ・・・型なんてのが無い」

「ああ。あれは実戦剣術だ・・・厄介だな」


男の1人が忌々しげに言い放った通り、青年の剣術に型らしきものがない。

訓練を受けた正規兵ならその所属通りの型を持ってるし、戦場で傭兵やっても然りだ。

だが、青年の剣はそれもない。

言うなれば本能のままに戦う野獣のようであった。

傭兵剣術を基本にしてるらしい囲む男達からしても読み辛くやりにくい。


「複数でかかれ!、息付く暇を与えるな!」


リーダーの声で3人が雄叫びを上げる。

だが、青年もその3人に突っ込み、1人の胴に前蹴り。

軽装とは言え鎧を着込んだ男が身体をくの字に曲げて吹き飛ぶ。

その蹴り足を大地にズトンと突き刺して大剣をスイング。

まさしく己の身体能力のみを使った力業のスイングは、ブウンと重い音を立てて2人目の男の受けた剣をへし折り胴まで薙いで吹き飛ばす。

凄まじいまでの馬鹿力だ。


「隙あり!」

「させません!、閃光(フラッシュ)


大きなスイングで男を吹き飛ばしたばかりの青年の背中から3人目の男が斬りかかろうとしたが、青年の後ろからもう1人の青年がここで初めて動き、手に持つ戦鎚から凄まじい光が発して男に向かう。


「ナイス!、エド!」

「ちょっとは自制しなさい!、ヴィクトル!」


エドと呼ばれた青年は長い黒髪の美青年で、精悍で熱の塊のようなヴィクトルと言う青年とは対象的に冷静で知的な印象が伺えた。

胸甲と鎖帷子、円形盾に戦鎚を持つその姿は、神官戦士(クレリック)の基本的な出で立ちだ。

光属性の魔術を特化し、戦闘技術も備えた神官戦士は騎士と並ぶ万能職である。


そのエドが放った閃光魔術(フラッシュ)は只の目くらましだが、それで十分。

ヴィクトルは、エドに無邪気な笑みを見せてから大剣をぶん回す。

目が眩んだ男にそれを避ける術は無かった。

大剣が男の顔の横っ面からグシャリと顔だったものを吹き飛ばした。


余りにも圧倒的な実力差。

そこに神官戦士と思われるエドと言う青年が加わった事で、その差は絶望的なまでに開いた。


「こんな奴らが居るなんて聞いてねぇ・・・撤退だ!」

「野郎!、覚えてやがれよ!!」


ジリジリと下がった残りの男達が悪党らしき捨て台詞を吐いて逃げていく。

満足そうにそれを見るヴィクトルとため息を大きく吐くエドと言う青年。

対象的な2人だった。


「馬鹿ですか・・・馬鹿ですよね、ヴィクトル。最初は交渉って言ったでしょうがぁっ!!!」

「んあ?」


男達が逃げるとヴィクトルに丁寧な口調でキレるエド。

彼らは生まれて22年来の幼なじみで、性格は良く知る間柄だ。

だが、時折どころか節々で見せるヴィクトル・セギュールの考え無しの暴走はエドことエドワルド・ジェラールの頭をいつも悩ましている。


「悪い奴は倒す。それが俺達の仕事だ」

「それを考えなしにするなって話ですよっ、もうっ!」


彼らの依頼はこうだ。

『野盗に襲われた村の警護』

こう銘打たれているが、依頼したアムレ村の規模的にも傭兵を雇って対抗は難しい。

そこで冒険者ギルドには注釈として『自警団へのアドバイスと野盗との交渉補助』と付けられていた。

つまり、アムレ村は自警団で守るので戦闘指導して欲しいのと、どうしても戦力的に無理なら交渉を含めて野盗に金品を渡してしまうと言う意図を含んでる訳だ。

当然依頼を受けたヴィクトルとエドも、このプランに添って行動すれば問題無い筈なのだ。


「この時期に戦場に行かず村を争うって連中だぜ、交渉なんて無駄無駄」


エドにとって頭は痛いがヴィクトルの言葉はある種の正論である。

レラ=エズート連合王国と戦争中のアマーレア王国では、多くの傭兵が戦場に行っている。

特に国境付近だが戦場から離れた辺境地域でもあるレブニア州は地域的な特性からも、兵士が特定地域に固められる傾向にあるので、彼らが依頼を受けたアムレ村のような空白地帯がどうしてもできてしまう。

そこを襲うような傭兵崩れの野盗だから、その程度が知れる。

ヴィクトルは考え無しであるとも言えるが、直線的に正解を導き出す事をしてしまうとエドも分かってはいた。


「野盗とは言え規模も大きいのですよ・・・下手をすれば村に甚大な被害が出るんですよっ!!」

「あー。規模も分かってる。奴らのネグラもおおよそ分かってる。ならそこを襲って親玉倒せば後は雑魚だぜ」


馬鹿ですかと言う言葉を飲み込んだのはそれがある種の解決方法と分かってるからだ。

ただし、実行可能とは言えない。

ただこの馬鹿野郎はできると信じて疑っていない。

こんな性格だから実力がありながらも幾度も固定パーティーから追い出されるのだ。

何度もそれで頭を下げたエドとしても腹立たしいのだが、腐れ縁と言うかどうしてもヴィクトルとの関係は切っても切れないのだった。


ただ実際、こうなってしまった以上、ヴィクトルの言う通りが一番良いのは理不尽だが正解だ。

あの逃げた野盗は一度、アムレ村に示威行動に現れ、村は冒険ギルドに依頼。

ヴィクトルとエドが依頼を受けて村に到着した頃に、野盗の交渉役が来た。

村の自警団の規模と練度から対抗できないと判断していたエドが交渉すべきと言ってる間に、ヴィクトルが半数を倒してしまった訳だ。

これで交渉は無くなった。

つまり、次は本気で襲ってくる。

だからこそ機先を制して先に襲撃は理に適ってはいる。

いきなり襲って奪って行かないのは紳士的と言うより、なるべく野盗も損害出したくないと言う事情だろうと思われる。

なので動きはそう早くないだろう。

ヴィクトルの言う相手が大した事がないと言うのも、彼は知識では無く本能で理解してる気がする。

高い戦闘能力もさることながら、この本能的な勘の良さが彼をここまで生かしているのもあった。


しかし有効であれそれを2人だけでやれと言うのは、はっきり言って無謀以外の何物でも無い。

ヴィクトルが言うとおり、野盗の頭を潰せばそれで終わりだと言うのも正論だが・・・

ヴィクトルが勝てる保証があるのか?

負けたらアムレ村は下手すれば壊滅、冒険者ギルドの面目は潰れると楽しくない未来しかない。

そもそもヴィクトルとエドには未来すら無い。

つまり・・・

馬鹿の暴走で危機的状況と言うのが今現在なのであった。


この馬鹿を死なない程度に四、五発戦鎚で殴ってもいいかなとエドが考えてしまったその時、驚く女の声がした。


「どうなってるのよ、これっ!!」




シャディ・ガウリーがゴブリンに拐われた人間の娘をエルフの村から交易団と共に護衛して1昼夜。

ようやく森を出て辿り着いた村の前で行われてる惨事に声を上げたのも無理は無い。


「うむ、襲われていたようだな」


至極冷静にそう言うリリー。

彼女はエルフ交易団の護衛を兼ねてエルフの村から同行していた。


その後ろからとてとてと歩いてくるのは黒いローブに頭にターバンを巻いた生き物。

ルクレである。

背中の羽と尻尾もローブの中に隠し、角をターバンで巻いてしまうとどこをどう見ても子供にしか見えない。

つまりは、人里に出るのでその対策と言う訳だ。


エルフ達はルクレの正体について村の利益にならないから話さないし、拐われた娘達もシェルステールからよく『言い含め』られたらしい。

シャディは内容については聞いていないが、あの現実主義的かつルクレにやや甘い彼女の事だから内容は想像はできた。

これで余程の事が無い限り正体を隠せるだろうし、当のルクレは余り理解してない様子ながらも隠す事に特に文句も無かった。

素直ないい子で良かったと思うシャディだが、良い子であってもルクレは悪魔なのである。

そしてまだルクレに人間の『常識』とやらは備わっていない。

そこが不安ではある。


そんな一行の出現に、エドの方はどうやら勘付いたようであった。

丁寧な口調でエドが先に切り出す。


「残念ながら取り込み中です。できる事なら退避された方がいいのですが」

「ご忠告は有り難い。だが、少し村と話させて貰えないかな」


交易団長のエルフがそう切り出すと、エドもやや疲れた笑顔で応ずるしかなかった。

そもそも厄介事を起こしたのは自分たちなのだから。


シャディは交易団と関係がある訳でもないので、団長に拐われていた女達の事を頼みその場に残る。

意外だったのはリリーが残った事であるが、とりあえずエドに話を聞く。


「なにがあったのですか?」

「ええ、見ての通り襲撃なのですが・・・」


美青年のエドがこめかみに青筋を立てながら笑顔で話す内容に、シャディは『うわぁ』としか言えなかった。

リリーの方はと言うと『馬鹿だ』と一言。

エドにとってもそれは当然の反応だった。


それでどうすると聞きかけた時、死体を積んで片付けていた当の馬鹿。

ヴィクトルがニンマリと笑って言う。


「今から逆に俺達が奴らを襲う!」


全く反省も悔悟も無いヴィクトルにエドは頭を抱えている。

美形だけにそれも様になるが、苦労が窺い知れてシャディも同情を禁じ得ない。

リリーは『馬鹿だ』と再び呟き、思い切り軽蔑の籠った目でヴィクトルを見ていた。


「すごい!」


違う反応を見せたのはルクレだった。

キラキラと目を輝かせてヴィクトルを見ていた。


「おうっ、凄いだろ!。今から悪いヤツを倒してやるんだぜ!」

「うん!、凄いね!」


見事に子供心を刺激されたようなルクレを見て、シャディは『あー』と目を点にしながら思わず呟く。

少し自分の黒歴史を垣間見るような気持ち。

子供って、こう言う勇者的な何かに憧れるよねと、己の黒歴史を思い出すと共に気付かされてしまった。

確かにこの手の単純馬鹿かつ正義感の塊なんてものに憧れた時期はあった。

無論、養成所で現実を見せられてそんな甘い夢はどこかに吹き飛んだが。


確かにここまで相棒が単純馬鹿ならエドも苦労する訳だと、心の底から同情してしまうシャディだった。


「馬鹿の言う事だが一理はあるな」


意外な事にリリーがそう呟いたのをシャディは驚いて彼女を見る。


「シャディ、彼らに協力しよう」

「な、なっ、何を言ってるのっ!!」


リリーの意外過ぎる言葉に慌てるしかないシャディ。

エドも苦笑気味に答える。


「私たちはギルドの正式な依頼を受けていますので責任はありますが・・・正直巻き込むのは心苦しいですよ」

「なら、こうしよう。エルフとしてもこの村との交易は重要だから、交易路の安全確保としてシャディに依頼したい」


基本冒険者はギルドを通して依頼を受ける。

そして報酬を得ると言う契約で成り立っている商売でもある。

その原則を崩すことは商売の信用にも関わるので、ギルドを通さない契約や無報酬での仕事は禁じていた。

言わば冒険者の掟とも言えるが何でも例外はある。

それは、危急存亡の状況なら事後報告でいいと言う例外条項だ。

リリーがそれを知ってる訳ではないが、エドやシャディは理解はしている。

ただ、リリーがエルフの村を代表する存在かと言うと疑問が残る。


「何かあればシャディやルクレの協力を仰げと村長から正式な依頼書を貰ってきている」

「少し拝見・・・おお、大陸共用語で書かれた正規の契約書ですね、これは」

「いつそんな物を作ったのよ・・・」


シェルステールのあの優しくも意味深な笑顔を思い出してシャディは頭を抱えたい気分になる。

彼女が生きた長い時間の間に冒険者の依頼を出した事もあったのだろう・・・

故に何かの為に書面を作っておいたと思われるが、それにしても用意が良すぎる。

だがこれでギルドに事後報告できるし、難易度の高い依頼をこなした事でシャディのランク上昇のポイントにも繋がる。

つまり、シェルステールの厚意は凄く有り難いのだが、使われたタイミングは最悪な部類と言う訳だ。


「村長はシャディが厄介事に巻き込まれるタイプだと言ってたからな」

「うん、ありがとう。とっても嬉しくない評価だわ」


厄介事に巻き込まれるのは彼女がと言うよりルクレの存在だろうとは思っている。

しかし悲しいかな、リリーの言う事を否定できない自分もいた。


「それに切り札もあるしな!」


リリーの言う切り札が何かは分かっている。

そしてもう一つ。

リリーが厄介事に巻き込まれたがっているのも何となく勘付いたシャディであった。


9話目投稿です

リアルな都合でやはり週末までかかってしまい。。。

物語は新たな登場人物と馬鹿が登場と言う事で今後にご期待(なのか

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