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アクマでも!  作者: 黒居まめ
Chapter.1 アクマでも?
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Section.07  悪魔とエルフの村Ⅳ


櫓から飛び降りたシャディは、足の裏から衝撃が完全に消去されてることを確認しながら屈んだ身を立ち上げた。

これは先程、シェルステールとエルフ魔道士(ドルイド)達にかけて貰った防護魔術(プロテクション)がしっかり効いているからだろう。

そして、しっかりと愛用のシールドを構え、片手剣を握る。

この片手剣はシェルステールより先程貰ったもの。

村に伝わる魔法武器であり、低位の魔術付与された所謂魔法剣だ。

低位とは言え、シャディの剣より切れ味は比べ物にならないぐらい上だし、このクラスはシャディの財力ではとても買えない。

今からやる事への報酬の意味はあるだろうが、それは剣の価値に見合うぐらい困難な事である。

つまり、シャディが今からやるのは・・・

トロールの足止めである。


5級冒険者のシャディではトロールの相手が務まらないのは分かっている。

保護魔術に包まれ魔法剣を持った所で、それは変わらない。

だが、時間稼ぎと言うなればできない事も無い。

要はシェルステールがルクレに何かいらない事・・・

ではなく強力な魔術を教えてると思われるから、詠唱時間を稼ぐ為に時間を稼げと言う事である。

何故自分がと言いたい気持ちもあるが、ルクレが戦ってる以上そうもいかない。

それに万が一ルクレが倒されたら、もっと不利な状況で戦わなければならない訳だ。

それが分からないシャディではない。


「舐めるんじゃないわよ。あたしだって騎士なんだからっ!」


自分に言い聞かせるように走る。

養成所でさして良い成績でも無いシャディだが、騎士は騎士。

魔法も使えれば剣も使える並の5級冒険者では無い扱いだ。


盾を構えながら走り突っ込む。

トロールも気づき、シャディに棍棒を叩きつける。

ブウンと重い風切り音は恐怖を感じるが、盾ごとぶつかりながら精神を開放する。

自分の体内で何かがグンと開いた感覚と高揚感。

それを感じながらシャディは叫ぶ。


攻盾衝撃(シールド・アタック)!!」


これはもう1つの霊力の使い方。

魔法言語を媒介して霊力を引き出すと魔術となるが、自らの鍛えた肉体を媒介にする方法もある。

これは『戦闘術技コンバット・アーツ』と呼ばれるもので、言わば前衛職の必殺技と呼ぶ者もいる。

ただ魔術との併用は難しく、『右手と左手で同時に字を書くようなもの』と言われる。

併用は必要以上の修練を要し、どちらかを極めたものに言わせれば中途半端になる事が多い。

だが、それでもあえて騎士職は併用してるし、併用できるメリットもある。

魔法戦士はある程度の実力になれば、その生存率は半端無いからだ。

その中で攻盾衝撃(シールド・アタック)はごく初歩の騎士の戦闘術技コンバット・アーツと言われ、盾を構えての突進で相手を突き飛ばすものだ。


シャディは勿論、トロールが棍棒で殴ってくるのは想定済みだ。

指弾だと弾いて懐に潜り込めてもっと良かったが、このトロールが戦闘慣れしてるから想定内である。

棍棒ごと弾いて一瞬態勢を崩す。

シャディはダメージに全身が痺れるが最後まで押し切る。

だが、トロールの方はダメージにはなってない。

一瞬止めただけだ。


「クソガ!」


もう一度トロールがシャディに棍棒を叩きつける。

ゴチンと盾がきしむぐらいの音を立てるが、防護魔術(プロテクション)がダメージを抑える。

とは言え効いた。

全身が痺れるぐらいの衝撃を受けてシャディがずり下がった。


想像していたが、きつい。

もう二発も喰らえば、シャディはぺちゃんこになるだろう。

しかし、希望はある。

それは上空から聞こえてくる詠唱の声だ。


「万物の源にして、万能なる魔の力よ・・・我が身に宿る魔の力よ、その力を凝縮せよ・・・」


ルクレの身体が仄かに光り、身体を中心に淡い靄のようなものが渦巻く。

これは魔力光と魔力渦・・・

増幅された強力すぎる魔力が漏れ出てきたものだ。


「力よ、増幅されし万能なる魔の力よ、我が元にてその魔の力を表わせ・・・」


魔力渦がルクレの足元で輪になり、その環が光り複雑な文様が刻まれていく。

魔法陣の発動だ。


「グゥッ!」

「させないわっ!!」


指弾で迎撃しようとするトロールの手に目掛けて、シャディは魔法剣を打ち下ろそうとする。

だが、それはトロールの棍棒によって阻止された。

横薙ぎした棍棒がシャディの横っ面に襲いかかる。

盾ごと吹き飛ばし、シャディは盛大に吹き飛んだ。

吹き飛び地面に叩きつけられ転がる。

防護魔術すら突き抜ける一撃は、身体がバラバラになるような痛み。

流石にこれ以上は動くこともできない。

だが、幸か不幸かトロールは吹き飛んだシャディに目もくれずルクレを見上げて指弾を撃とうとする。


だが、一本の矢が正確にトロールの手を射抜き、それを止めた。

矢を放った主は、櫓の上のリリーだった。

彼女の渾身の矢もダメージにはならないものの、トロールの指弾を止めるに十分だった。


「頼んだぞ!、悪魔殿」


ぶっきらぼうにそう言うリリーだが、流石に自分が何をせねばならないか理解している。

そして上空では、魔法陣の中に五芒星が浮かび上がる。

魔法陣の完成だ。


「万物を焼き尽くす始原の炎よ、我が魔の力で発現し敵を焼き尽くせ、火球(ファイアーボール)!!」


それは正式な火球(ファイアーボール)の詠唱。

魔術は、只の火球(ファイアーボール)である。

だが、増幅魔術の上に正規の詠唱・・・

つまり魔術強度は限界値まで跳ね上がった上位魔術級の火球(ファイアーボール)だ。

ルクレの頭上に現れた火の球は、その身より遥かに大きかった。


トロールも目を見開き、火球が飛んでくるのと同時に指弾を飛ばす。

しかし、ルクレ目掛けて飛ぶ石は、火球に当たり、飲み込まれ、蒸発した。

そして直撃・・・


「グモオォォォォッッッ!!!」


ドォンと云う直撃音と共に一気に全身を炎に包まれるトロール。

巨大な身体が火達磨になり、トロールが絶叫する。

再生を遥かに超える紅蓮の炎に包まれ、もがき暴れる。

その叫びはまさに断末魔であった。

もがき暴れ腕を振り回し、そして真っ黒に焼けただれたトロールが地響きと共にドスンと倒れる。

再生すら起こらない・・・

それは、トロールの死を意味していた。


「やった・・・」


顔だけ上げて見届けていたシャディは、安心して地面に身体を横たえる。

どのみちもう動けやしない。

だが、まだゴブリンの群は大半が残っている。

戦えるかどうかは別だが。



その通り、ゴブリン・ロードは己の選択が誤っていた事を察していた。

こう言う時のゴブリンの行動は早い。

即ち逃げるのだ。

誰よりも早く逃げようと踵を返したゴブリン・ロード。

それを見て雪崩のようにゴブリンの群が蠢く。

我先に逃げようと茂みの奥へと走ったゴブリン達に、鋭い風切り音と共に無数の矢が降り注いだ。


「逃げれると思うか?・・・いや、逃がすと思うか?」


茂みの奥から現れたのは、完全武装のエルフ戦士長。

短く刈り込んだ金髪に色白だが精悍な身体。

むき出しの腕に刻まれた幾筋もの傷が歴戦の戦士を思わせる。

そして武装したエルフ戦士と弓手達。

先程の攻勢でも、エルフ村からの反撃は無かったがそれもその筈。

ルクレやシャディを囮にしたエルフの戦闘員達は、この騒ぎに乗じて茂みを迂回し包囲網を完成させていたのだ。

あの櫓の上で居た者はエルフ魔道士(ドルイド)と子供達。

弓の精度があるのはリリーぐらいのもので、全軍一斉突撃なんてされた日にはどうなるか分かったものではない程度の戦力しか村に残していなかったのだ。


「さて・・・貴様らの逃げ込み先は地獄だ!、まとめて送ってやるぞっ、抜剣!!」


エルフ弓手が確実に仕留めて行く中、戦士達が剣を抜き気合の声とともに突っ込んで行ったのだった。


矢で貫かれ倒れ伏すゴブリン。

剣で斬り伏せられ血しぶきを上げながら逃げ惑うゴブリン。

ゴブリンにとって、もうここは地獄へと化していた。

その中で1匹、ゴブリン・ロードは矢を他のゴブリンを盾にして交わし、その場を転がるように逃げる。

生に対する執念と、他のゴブリンより優れた身体能力で逃走を図ろうとする・・・

しかし、そのゴブリン・ロードの眼前には悪魔。

少し中に浮き、見下ろすルクレがいた。


「約束・・・破ったよね」


約束に拘るのは性格か、それとも契約を重要視する悪魔の性か・・・

可愛げな顔で迫力は無くとも、ゴブリン・ロードにも眼前の悪魔が怒っているぐらいは理解できる。

ならばやるべき事は1つ。

ゴブリンの鉄則。

即ち、弱いものは襲い、強いものには媚びる。

命乞いだ。


地に跪き、頭を地面に擦り付ける。

その服従のポーズは、どの種族でも似たようなものである。

人間界ではこれを土下座と呼ぶ。


「オ助ケヲ・・・オ助ケヲ・・・」


だが、ルクレはゴブリンの命乞いに興味なさげであった。

地面に頭をゴンゴンと叩かせながら、ひたすらに命乞いをするゴブリン・ロード。

エルフ戦士長もゴブリン・ロードの命乞いに気づき近づく。

この命乞いは不味い・・・

ゴブリンに約束と言う概念は無い。

故にこれは時間稼ぎに過ぎない。

ただこの局面さえ切り抜ければいいと言う打算であり、ゴブリンは恥も外聞も無くこれができる連中だ。


しかし、ルクレの答えは単純明快だった。


「どっかんしちゃえ」


掌に現れる火球。

それが今だ土下座し続けるゴブリン・ロードに降り注ぎ・・・

断末魔と共に一瞬で燃え上がる。

ゴブリンの特性を知ってるから故の行為ではない。

どこか得意げに『どっかん!』なんて言いながら無邪気に笑う様は、言うなれば子供の残酷さだった。

一切の邪気も無く殺してしまうことに、さしものエルフの戦士長も背筋が寒くなる気がした。


だが、結果として村は救われている。

ゴブリン・ロードが死んだ今、もうあの洞窟の群は残存のみで維持もできないだろう。

残りの処理を終えれば、エルフの村も穏やかな日常が帰ってくるのだ。


「我らの勝利だ!」


複雑な心境を抱きながらも、エルフ戦士長は村の戦士達と勝鬨を上げたのだった。



「終わりましたね」


そして、突っ伏したまま勝鬨を聞いて安心しきったシャディに声をかけたのはシェルステール。

シャディに近寄り身を屈めると回復魔術(ヒール)をかける。

痛みが和らいで行き、身体が軽くなるのを感じる。

流石エルフの魔道士だけあって、神官達と変わらぬぐらい強力な魔術だった。


「これで我々も安心して生活できますわ、感謝します」


こちらを利用するだけ利用した結果であるが、これは彼女の立場からすれば当たり前だろう。

シャディは怒りはしない。

利用して貰ってこその冒険者とも言えるし、これが商売のタネだ。


そして、起き上がったシャディの所にふわりと降りてきたルクレ。

褒めてくれよとばかりの無邪気で得意げな顔を見せた。


「流石よね」

「えへへ」


頭を撫でてやるとそれだけで喜ぶ。

本当に子供の反応だ。

こんなものでご褒美になるのだから安くつく。

つまりはシャディも悪魔(ルクレ)の使い方を覚えてきたと言う事らしい。


「さあ、ルクレ殿、片付きましたしご飯にしましょう」

「えっ!、やったぁーっ!!」


こちらも悪魔(ルクレ)の使い方を心得ているようなシェルステール。

どれだけ安かろうと無報酬で使う訳でないので、その魂胆がどうであれまぁいいだろう。


「そうだ、これも渡しておきましょう」


残党を片付けてやってきたエルフ戦士長が、シャディに指輪を渡した。

それはトロールが付けていた指輪のようだ。


抵抗指輪(レジストリング)のようですね」


トロールの魔術抵抗はこれが作用したのだろう。

シェルステールが何も言わない所を見ると、これは報酬と言った所か。

シャディだけで考えるなら報酬として魔法剣と抵抗指輪は実に良い実入りと言える。

ルクレに関してはまぁ、本人が納得してるならいいのだろう。

それに魔術講義料金を請求されてもいない。

そしてエルフの村の懐はさほど痛んでないと言う、誰も損してない優しい世界だ。

上手く使われた気もするが、それは村長が一枚上手だったと笑って済ませてもいいだろう。


「ありがたく頂いておきます」


報酬は断らないし、断る理由もない。

シャディが大きな指輪を指に通すと、指輪の方がサイズを変えてしっくりとはまる。

これぞ魔法の武具ならではの機能だ。


指輪を渡し終え、戦士長達はゴブリンの残骸の方へと向かう。

エルフ語で色んな指示が飛び交うが、言葉は分からずとも内容はある程度理解できる。

彼らは今から、うんざりするような死体処理と言う仕事がある。

死体を放置しておくと、そこから病原菌の発生に繋がる事は知られているし、何より血の匂いは他の魔物を引き寄せ兼ねない。

それに村の側に死体が転がる状況はあまり嬉しいものではない。

むしろこう言う事はそこらじゅうで戦争を繰り返す人間の方がよくしている事だ。

遺体を集め、燃やし、穴に埋める・・・

気持ちのよい作業では無い。


そしてこの後はあの洞窟にエルフ戦士団が襲撃に行き壊滅させるのだろう。

交渉の余地のないゴブリン相手には当然の行為だが、老若男女問わず何も残さず殺し破壊する行為だけに気持ちの良いものではない。

一応お客であるシャディは、多分そこまでは参加しなくて済むだろう。

むしろ、これだけやったのだからお役御免だ。

それに感謝しながらシャディはルクレを伴い村の中へと戻ったのだった。



これで戦闘シーンは終わり

ちょっと書き直しもしてみたりと なかなかまとまらずこんな感じに

次回は週明けを目標にしたいかなと

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