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アクマでも!  作者: 黒居まめ
Chapter.1 アクマでも?
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Section.06  悪魔とエルフの村Ⅲ


カンカンと甲高い鐘の鳴る音にシャディは飛び起きる。

枕元に置いた剣を手に取り、壁際に身体を潜ませながら窓を慎重に少し開ける。

外のエルフ達の慌ただしい雰囲気が感じられる所を見ると襲撃であろう。

養成所、そして冒険者として少なからずやってきたから、一応敵対的では無いと思われるエルフの村とは言え万が一の備えはしていた。

この辺りは養成所でも叩き込まれたし、何より生き残るために必要な事とシャディも心得ている。

件の先輩女冒険者も『一瞬の油断が大惨事に繋がるのはよくある事』と、シャディの皿からソーセージを摘み上げながら言ったのも至極当然の言葉だ。

気楽な格好で寝たい所を我慢して最低限の装備はしていたし、そこから鎧を着込むまでも訓練通り素早く済ませれた。


完全武装のシャディは隣のベッドに目をやると、幸せ可愛い顔でまだ寝ているルクレが見えた。

全くと言うか警戒心の欠片も無い。

いや、上位種たる悪魔が警戒する必要がないんだろうが、余りにも無防備かつ可愛い。

不覚にも萌えて頬をつつきたい衝動に駆られるが我慢してルクレを揺り起こす。


「ルクレ、起きて」

「もぉ、ごはん?」

「残念ながら、素敵な朝食を邪魔する者が現れたみたいね」


良い反応だ。

実に可愛い。

食欲に忠実なルクレにシャディはにやけそうになりながら簡単な状況説明をした。

それと同時に扉の外から『宜しいか?』と声がかかった。


シャディは返事をして扉を開ける。

開ける時に壁の方に身体を寄せ、襲撃に備える態勢を一応は作る。

現れたのは女エルフ。

武装した彼女はあのリリーと言うエルフだった。


「あ、あの野蛮人!」

「誰が野蛮人だっ!」


素直に発せられたルクレの言葉に一々激昂する辺り、精神年齢はやや低め。

若いエルフと言っていたが、エルフ感覚でシャディより若いのかもしれない。


「ごめんなさい。状況が知りたいの」

「あっ、そ、そうだな・・・ゴブリンが村に襲撃をかけてきたが、普通じゃない様子なのだ」


どう普通じゃないかはあえて聞かない。

聞かなくても想像はできる。


「規模は?」

「100匹は下らない。しかもオーガとトロールらしきのも・・・」

「トロール?!」


またこれは危険なものが来た。

オーガは人間よりやや大きな魔物だが、そう知能は高くない。

オーガより知能の高いゴブリンに使役される事が多く、ゴブリンと共に出没する事が一般的である。

だがトロールは違う。

オーガより更に大きく力強い。

知能もゴブリンと変わらない。

何より脅威なのは、一撃で殺されない限りどんどん回復していくと言うとてつもない再生能力だ。

そして強さに対する自負がある故にゴブリンの下に入る事は無い。

危険度で言うと3級下と言った所だ。

恐らくこの村の規模からして、脅威的な戦力と言えよう。


「あの巣の連中ね」

「ああ、間違いないが・・・トロール連れて来るとは想像もできなかった」


リリーと言うエルフは美少女だが口調は男言葉だ。

シャディも人のことを言えた立場でないが、性格からしても相当なお転婆なのだろう。


「シャディ殿とルクレウス殿を村長がお呼びだ」

「了解したわ」


リリーは納得していない顔で言っているが、シャディの方は彼女が来た頃からこの事は予測していた。

養成所ではさして優秀でもなかった自分がこの事態に対応出来ている事に、あの辛い生活に訓練、講義に感謝したい気分だった。


「ボクのごはんんーっ」


そんな中、ルクレが怒っている。

悪魔の怒りはきっと恐ろしいものだろう。

きっととつくのは、ルクレの怒り顔は恐さがない。

いや、正確に言うとひたすら可愛らしい。


「はいはい、やってきたゴブリンに文句言いましょうね」


こう言えるようになったのも慣れか、もしくは自分が図太くなったのか・・・

兎も角、シャディはルクレを促し部屋を出たのだ。



村の広場に当たる場所には多数のエルフが集結していた。

その中の多くが武装しているが、金属製の胸当てや鎖帷子等かなり良い武装・・・

村が貧しくないからこそこれだけの装備ができると言う事であるし、豊かな森故にそれだけ外敵とも戦ってきたと言う事だろう。


シャディとルクレはその広場を通り、村を囲む柵の方まで案内される。

その柵に面した櫓の1つに上がると、そこではシェルステールが待っていた。

彼女も杖らしきものを持ち、衣装も動きやすいが様々なアクセサリーの付けられたものとなっている。

これは恐らくエルフ魔道士(ドルイド)の戦闘衣装だろうし、アクセサリーは魔法道具だろう。


「状況はどうですか?」

「あの通り大群ですね・・・向こうも本気なのは伝わってきますわ」


シェルステールの言うとおり、少し離れた茂みの辺りに多数の影が動く。

その中にはゴブリンの背丈の2倍以上のものも多く含まれている。

村は防衛上の理由からか、柵から100歩程の距離までは木々を伐採し、下草も刈り込んでいる。

これは木々から直接柵の内側まで飛び込んでこられるのを阻止する造りなのだろう。

しかもこの100歩と言うのが絶妙な距離で、エルフの弓手ならほぼ当てれる距離だ。

この様子なら多少の大群でも戦えるだけの防御力があると見ていい。

エルフの警戒網が比較的早くに捉えたからか、シャディがここに来たばかりとは言え向こうも集結したばかりのようだ。


「約束やぶったんだ」


ぶすりとしたルクレが言う。

確かにルクレは『ボクに向かってこないならどうでもいいよ』とは言った。

それを約束と捉えるかは何とも微妙な話だ。


「奴らに約束と言う概念は無い。奴らにあるのは強いか弱いかだけだ」


リリーの言葉が全てである。

援軍さえ呼べばきっと勝てると思ったからゴブリン・ロードは攻めてきたのだろう。

彼らの動機は至極単純である。


「じゃあ、強いって分からせばいいんだ」


ルクレの思考も至極単純。

しかしその単純さが相手に通用するのも事実だ。

そして、朝御飯を阻止されたルクレの怒りは、見た目の可愛さが阻害してるが凄まじい。

ふわりと柵の外に1人降り立ったルクレは、茂みから隊列を覗かせたゴブリン達を睨む。

勿論、睨んでも迫力は一切無い。


ルクレの出現にゴブリン・ロードが咆哮を上げる。

かつて彼らが住んでいた巣を乗っ取った憎きトロール。

そのトロールに服従とエルフの村の全てを差し出す約束でオーガ10体と共に引っ張り出してきたのだ。

あの悪魔さえ倒せばなんとかなるとゴブリン・ロードは咆哮する。

その声と共に地響きのような咆哮と共にオーガ10体を先頭にゴブリン達の先陣がルクレに殺到した。

ルクレさえ倒せばエルフの村の障害は消える。

しかもオーガ10体の突進は強力だ。


連弾火球マルティプル・ファイアーボール!」


ルクレの頭上に火球が10個現れるとオーガに向かって飛ぶ。

そして一瞬でオーガが火に包まれる。


「ちょ?!、拡張魔術エクスパンション・スペル!!」


拡張魔術エクスパンション・スペルは、基礎魔術エレメンタリー・スペルの更に上、中位魔術インター・スペルにあたるものだ。

低位の魔術に拡張性を持たせる魔術で、その使い方次第で低位魔術ですら高位魔術に負けない利便性を持つが霊気消費の大きさと詠唱の複雑化と言うデメリットもある。

その拡張魔術エクスパンション・スペルの中でも比較的一般的な複数化マルティプルだが、個数と言い威力と言い規格外だった。

しかもそれを単純詠唱ネームスペリングのみでやってしまうのだから、悪魔の力恐るべしである。


そして更に残りのゴブリンに対しては・・・


爆裂火球イクスプロージョン・ファイアーボール!」


ゴブリンの先陣に飛来した火球が爆発した。

吹き飛ばされるゴブリン。

いや、只の肉塊と化して吹き飛んでいったのは、つい先程までゴブリンだったものだ。

圧倒的、圧倒的だった。

ただ2つの魔術でオーガ10体とゴブリン20匹が消し飛んだのだ。

圧倒的と言わずなんと呼べと言うのだろうか。


「凄いですわね、ちょっと教えただけでこうもすんなりと使えるとは」

「そ、村長?!、何考えてるんですかっっ!!」


リリーが騒ぐのも無理は無い。

と言うか当然だ。

悪魔をこれ以上強大化させてどーすると怒るのは当然の反応だろう。


「いずれ知る事なら教えて感謝された方が村の利益に繋がるでしょう?」

「村の利益に繋がっても世界が滅んだら一緒ですっ!!」

「そうかしら?」


シェルステールの言葉は大人の判断と言うやつだ。

現にルクレ1人で村の危機をこうやって救ってくれている訳であるし、彼女は善悪だけで物事を判断していない。

言うならば長く生きてきた知恵と村を守るための冷静な判断なのだろう。

ただ、シャディは『だって可愛いから』と言うシェルステールの呟きは聞き逃さなかったが。


「さて、本命の登場ですね」


話題を変えたシェルステール。

森の茂みから現れたのは、オーガの巨体の2倍はあるかと言う巨人。

醜くも筋骨隆々の巨体はトロールと呼ばれる怪物だった。

トロールは大きな口で牙を剥く。

一見威嚇にも見えるが、笑っているようであった。

のっしのっしとルクレにすら無警戒で歩いて茂みを抜け、散らばる肉塊すら踏み潰していく。

彼らの上下関係がこれだけで分かる・・・

言うなればこの群のボスはゴブリン・ロードではなく、このトロールなのだろう。


「オマエ、ヤルナ」


ルクレに向かって牙を剥くが、笑っているのだろう。

己の力に自信を持った強者の笑みだ。

彼にとってゴブリンは何の価値も無いからすり潰されても困らないが、暫くはオーガの代わりに使ってもよいとは思っていた。

それに自分がこの悪魔とやらを叩き潰してしまえば良い訳だ。

少々の魔術ごときで負けない理由もあるし、何より自分の再生力には自信を持っている。


「ダガ、オレガカツ。オマエ、クウ」


トロールは基本肉食であり、人間も食料と見なしている。

だが、悪魔を食うのかと言うのは誰も知らない。


「何でもいいけどさ・・・どっかんしてやる!」


ビシィッ!と指を指して睨んだルクレだが、当然トロールと較べても迫力なんてまるで無い。

『あら、可愛い』なんてシェルステールの呟きは、こんな時で無ければシャディも同意している。


火球ファイアーボール!」


火球がルクレから発せられトロールに向かって一直線に飛ぶ。

ドンと衝撃音と共に当たるが、全身を包むような炎は上がらない。


「抵抗された?!」

「ええ、これは魔法道具を装備しているのかもしれませんね」


シェルステールの言葉は、ほぼ正解だろう。

それでも多少のダメージは抜けたみたいでトロールの身体に火傷ができていたが、それもすぐに修復されていく。


「キカンゾ」


トロールは牙を剥いて笑い、のっしのっしとルクレに近づいていく。


「ならっ!、連弾火球マルティプル・ファイアーボール!」

「キカン!、キカン!、キカンゾォォォッッッ!!!」


火球の連射も治るスピードを上回れない。

そしてルクレを射程に捉えたトロールが、巨大な棍棒をスイングする。

ブウンと重い風切り音と共に横薙ぎ。

ルクレは飛んで交わす。

ルクレの身体より遥かに大きな棍棒の一撃なんて、防護膜があったとしても喰らいたいとは思わないだろう。

それに魔法道具を持っている可能性のあるトロールだけに、この棍棒が魔術付与されてないとも限らない訳だ。


「てえいっ!」


飛んでトロールの頬辺りに蹴り。

ゴキンとトロールの首が回るが、トロールは自分の手でゴキリと首を元の位置に戻して終わり。

要はトロールの再生力を抜く程のダメージにならないと言う事だ。

そしてトロールは今度は下からのかち上げ。

砂煙が巻き上がる程の一撃を、ルクレは距離を取って交わした。


だが、トロールは止まらない。

今度は地面ごと棍棒を叩き振る。

叩く叩く叩く・・・

地面ごとルクレを押しつぶそうと、高速で何度も振り下ろした。


流石にこれはルクレもたまらず高く飛ぶと、かち上げの追撃。

更に離れた高さに行くと、トロールは逆手の指をバチンと弾いた。

ビュンと飛んだそれは空中のルクレに当ってバチンと弾けた。


「ふひぃっ?!」


それは石だった。

石を指で弾く指弾と言うものだが、トロールサイズが使うと最早凶悪な破壊兵器となる。

ルクレにダメージは無いだろうが、かなり面食らっている。

これでは流石に魔法詠唱する間が全く無いだろう。

そしてその魔法も、現状トロールの再生力を抜けないのだから持久戦になりかねない。

これは余りいいとは言えない・・・

ルクレよりこのトロールの方が相当実戦を経験しているのは間違いない。

つまり経験値で押される可能性もある。

しかも、魔術付与されてる可能性もある棍棒を喰らえばルクレとて無事とは限らないし、射程外ではあの指弾だ。

トロールの横にはゴブリン達がせっせと石を積み上げている辺り、離れて戦わせない気なのだろう。

冷静に考えれば指弾無視して射程外から魔術詠唱なのだが、それはルクレに思いつきそうもできそうもない。

つまり、ルクレ単体では打つ手が無いと言う事なのだ。


「さて、シャディ殿」


ほら来た・・・

シェルステールの言葉はシャディは予測はしていた。


「1つお願いしたい事があるのですよ」


その先は聞かずとも分かる。

そしてそれはこの村にとっては良い判断なのだろう。

シャディにとっては別であろうが。



かなり早くこの部分だけ書き上がったので投稿

今回と次回とで戦闘回になろうかと思います

5000字ぐらいの文章が手軽に投稿しやすいのですが読む人はどうなんでしょうねぇ

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