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アクマでも!  作者: 黒居まめ
Chapter.2 悪魔と輪舞曲
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Section.18  悪魔と肉の街Ⅴ


踏み固められた獣道の先。

森の中に現れたのは人の背丈十倍はありそうなそびえ立つ断崖。

そして、その断崖にぽっかりと開いた洞穴があった。


「ここよね」

「ええ、ミノタウロスが入れるサイズだから間違い無いでしょう」


周囲を見渡して警戒しながら言うシャディに、エドも切れ長の目を細め中を伺うように答える。


「警戒してる風が無いな・・・」


最も鋭敏なリリーが長い耳をピクピクと揺らしながらぼそりと言う。

確かに警戒してる様子も、何か防御措置があるようにも見えない。

全くの無警戒なのだ。

彼らが逆に警戒してしまう程に・・・


「言ってても始まらねぇぜ!飛び込むまでよ!」


何時もの調子の何も考えてなさそうなヴィクトル。

だが、そうする以外には無いのだ、彼らは。

その為に来たのだから。


「明かりは最低限に絞り警戒態勢で入ります」

「ああ、それで十分だ。真の闇でも無い限り私は見えるからな」


エドとしてはこの無警戒に見える様子でも警戒しない理由にはならない。

いや、むしろ中に誘われていてそこで罠にはめるぐらいの想定はしておくべきである。

エドがそう思いながらシャディを見ると、彼女は理解したように頷く。

ここでも彼女の役目はリリーの盾役だ。

エドから見てシャディはこの察しの良さと頭の回転の速さで、既に信頼できる仲間となっている。

確かに経験の薄さを魔法剣と抵抗指輪で補ってる部分もあるが、ここまでパーティーを組んできての戦闘で、彼女が見せる仕事ぶりにむしろ感心する思いがあったのだ。

シャディの個人的戦闘技術で言えばヴィクトルは全く敵わないだけでなく、エドやもしかするとリリーより劣ると思う。

だが、集団戦闘における彼女の立ち振舞いや視野の広さは個人的戦闘技術の劣りを挽回して有り余るぐらいだ。

流石は騎士として訓練を受けてきただけはある。

本人は騎士としても劣等生だと言っていたが、若い彼女だけに磨けば更に光る素養があるとエドは見ていたのだ。

むしろヴィクトルの正反対の素質を持つシャディは、パーティーの前衛の要とさえ思っているし頼りにできる存在になってきていた。


シャディとアイコンタクトで意思の疎通が完了したエドはリリーに頷いて促す。

そしてリリーを先頭にその脇にシャディが付き添うように歩き、彼等は洞窟へと入って行ったのだ。



洞窟は入り口は広かったものの、暫くすると天井が低くなってきていた。

無論低いと言ってもミノタウロスが入るサイズであり、最初にたどり着いた広場までは比較的新しい足跡が残されていた。


「この広場から幾つか小部屋があるらしいですが、ミノタウロスが入れるサイズではないようです」


事前に調べた地図によると、そこはゴブリン達が住居に使っていた区画であった。

当然、ミノタウロスが入れるサイズではない。


「一本だけ奥に続く通路があるようですね」

「じゃあそこだろうな」


地図を見ながら言うエドの言葉にヴィクトルはそう返し、地図に示されたその場所にと躊躇なく歩いていく。

ヴィクトルが向かった方向には、他の開口より大きな入り口・・・

これがその奥に続く通路なのだろう。


「ヴィクトルも無警戒で大概だが・・・ここの奥に居る奴も相当に神経が太いようだな」


一見無警戒に先に進んでしまうヴィクトルに呆れながらもリリーが彼に追い付き目をこらして通路の先を睨む。

彼女の知覚にも罠らしきものは全く感じ取れなかった。

そして、何かが居る気配も無い。

それでもエドは『慎重に』と付け加え、頷いたリリーが先行して奥へと向かったのだ。


 だが、少し進んだ所は行き止まりであった。

脇道や小さな穴も無く、目の前が完全に塞がれた袋小路であった。


「ん・・・どうなってやがる?」

「はて、記録にもありませんね」


だが、ここが行き止まりだとは地図には無い。

以前ここでゴブリン退治をしてのけたパーティーもこの奥に進んで最終決戦を行ったと記録にもあった。

立ち止まり怪訝な顔で切れ長の目を細めて壁を凝視したエドに、ヴィクトルも同じような怪訝な顔となる。

そんな2人に後ろからちょこちょこと付いて来ていたルクレが不思議そうな顔をして言う。


「どうして止まるの?」


 その問いにエドとヴィクトルが顔を見合わせる。

2人共、その問いの意図は気づいたし、それはあり得る事だった。


「この先が続いているのですね、ルクレ」

「うん。向こうが透けて見えるよ」


 間違いない。

魔術による擬態だ。

つまり、ここまで無警戒なのも、この擬態で十分だと判断したからなのだろう。

この先に居る者は。


「それなりのランクの魔術士がこの先に居るって事だな」

「ええ、()()()()()()()()()厄介な相手でしょう・・・」


 そしてヴィクトルが猛禽の如くの笑みで言うように、この擬態魔術ができる魔術士は相当ランクが高いのが予想できる。

だが、その魔道士1人だけなら何とかもなろう。

1人だけならば。

そこまで甘い見立てをする程、エドは隣で不敵に笑う相棒ほど楽観主義ではない。


「うむ、確かに風の流れがあるな・・・しかし、悪魔の目は凄いな」

「そうよね。私達には壁にしか見えないもの」


 感心したようなリリーとシャディの言葉に、ルクレはエヘヘとご機嫌。

戦闘以外で役に立つ事が皆無なルクレだが、やはり悪魔の特性が飛び抜けて優れているのだろう。

擬態した相手も来るのが悪魔とはまず予測してないに違いない。


「でもこれはアレだな」

「恐らくそうでしょうね」


 ヴィクトルとエドが短いやり取り。

冒険生活が長い彼らは当然理解した上でのやり取りだ。

その短いやり取りではリリーやルクレは理解できず不思議そうな顔をしていたが、経験は薄くとも冒険者家業をしてきたシャディは意味をすぐに理解した。


「そうね。じゃあ私が調べてみるわ・・・万物の根源たる魔力よ。我らにかの物の、その心なる姿を見せよ。探査(サーチ)


 シャディの魔術に壁全体が仄かに光を発する。

これはシャディが使える数少ない魔術の1つである探査魔術(サーチ)である。

罠や擬態を調べる魔術であり、言うなれば便利系の魔術だ。

ただ、何かがある程度の簡単な情報しか分からないと言う精度ではあったが、密偵役(スカウト)のいないパーティーではこの魔術は必須と行っていいぐらい重宝するものであった。


「紫と黄・・・罠は無いけど通過すれば警報系(アラート)ね」

「そんな所でしょうね」


光る壁を見ながらシャディとエドが頷き合う。

探査魔術(サーチ)は詳細が分かる程の精度はないが、このように光る色でどんな作用があるかを示してくれる。

紫は魔力があると言う事で、黄色はその効果が通過した事を知らせる効果があると言うもの。

情報は少ないが、それだけ分かるだけでも随分違う訳だ。


「て、事はな・・・ここを通ったら歓迎パーティーが待ってるってこった!」

「いいですね。それなら精一杯もてなして貰わないと!」


 解除して進むかどうかは微妙な所だ。

この手の擬態は解除魔術を使った所で、相手の魔力差があれば解除したことが察知される。

解除となればエドしかこのメンバーの中ではできないのだが、専門魔術職に比べてそこまで高い魔力がある訳では無い。

目下の所、最も高い魔力のあるルクレの解除方法は『物理的』なものだから、どの道バレるのは一緒だ。

ならば解除に使う労力が無駄と言う事である。

どこまでも楽しそうな太い笑みのヴィクトルに、エドも肩を竦めていつも通り爽やかな笑みを見せたのもそんな所だ。


「と、言う事で・・・このまま進みます」

「だから俺達が来るってのを感知した奴さんが歓迎する暇を与えるって事だ」


 奇襲が最良だが、できないなら仕方ない。

現状最良の手段は、強行突破と言う脳筋の極みしか無い。

小細工ができる程器用なパーティー構成では無いし、ある程度最初から予測できていた事だ。

ややシャディやリリーに緊張は見られるが、彼女達とてこれを予測は出来ていた。


「では、そのまま進みましょう」

「おう!」


 と言っても4人に見えるのは壁だ。

通り抜けできるとは言え何となく手を伸ばして歩いてしまい自分でも苦笑気味のシャディ。

その辺はエドやリリーも同じで、ヴィクトルのようにそのまま突っ込んでいくのは少数派だろう。


「ああ、それから・・・」


 壁を抜ける寸前でエドが立ち止まり後ろを振り返る。

完全に無表情で口を開く。


「そうやって歩いても無駄ですから」


 エドの視線の先には、抜き足差し足で壁を越えようとするルクレの姿。

一体何をやってるんだ的な視線を送るシャディとリリーが顔を見合わせた。


「だめ?」

「ええ、無駄です」


 どうやらバレないようにこっそり歩いてるつもりらしい。

努力は認めるが、言うなれば無駄な努力の類だ。


「私達を萌え死にさす気なのかあれは・・・」

「うん、かわいいよね」


 女子2人はもう笑うしかない。

お陰で緊張はほぐれた。

エドが無表情なのも多分同じ感想だからだろう。

あえての無表情なのだ。


「ガハハ、まああれだ・・・堂々と歓迎してもらおうぜ!」

「うん!」


 こう言う時はあれこれ考えないヴィクトルが一番だろう。

ルクレの背中を大きな手でポンと叩き、大股で壁の方に歩いていくと、ルクレも元気一杯にちょこちょこと歩いてその後を追う。

『流石馬鹿兄弟』とリリーが言いながらその後を追うが、口元はニンマリとしていたのだ。


 人間の目には本当に壁にしか見えないので、通過できると分かっていても躊躇がある。

先に手を伸ばしてめり込む事を確認して、それからシャディは入る。

感触も何も無い。

通り抜ける一瞬視界が揺らぐ程度で、問題なく通過できた。


 そしてパーティー全員が通り抜け、奥へと進んでいく。

この先はやや長いが、地図通りなら奥に広場がある構造だ。

そこが終点であり、彼等を待ち受ける()()()そこにいるのだろう。


 だが、暫く進んでいるとヴィクトルの横でちょこちょこと歩いていたルクレの足が止まる。

そして鼻をムズムズとさせながらむーっと唸って眉を寄せた。


「血の・・・臭いがするよ・・・」


 ルクレの鼻。

食べ物しか反応しないと言われていたが、悪魔の鋭敏な嗅覚が何かを感じ取ったようであったのだ。





今回はここまで

引っ張ってすいません。。。

次回はまた来週になるかと思います

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