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アクマでも!  作者: 黒居まめ
Chapter.1 アクマでも?
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Section.02  悪魔と女騎士Ⅱ

シャディ・ガウリーの生まれは、普通の村娘であった。

両親と同じとび色の髪にヘーゼルの瞳。

そして健康的かつ女子にしては大柄と言う恵まれた体躯をしていた。

そのシャディが騎士職(ナイト)を志したのは、200年前の魔王を倒したパーティーリーダー、姫騎士エウリーナの英雄譚を子供心に憧れたのが切っ掛けだが、そう言うものに憧れる少年少女はどこにでもいるからそれはさほど問題ではない。

男勝りの体格に活発な性格、喧嘩をすれば男の子にも負けない彼女がそんな夢を追い求めて騎士養成所の門を叩いたのも、この国ではそこまで珍しい話でもない。

実際王都にある騎士養成所に、そんな英雄譚に心ときめかせた者が入って来ることはよくあるのだ。

しかし、常に現実は非情である。


3年間の養成期間の終わり頃になると、その現実・・・

就職と言う問題が降ってくる。

騎士養成所に通うにはそれなりのお金が必要で、親や身内が快く出してくれる者はいい。

だが、借金なりしていたら返す為に働かねばならない。

つまりそれなりの所に就職せねばならず夢では食っていけないのである。


入る前から就職先が決まってる者もいるが、大概は養成所の成績が全てである。

良い成績の者から王国騎士団や大貴族の騎士団にスカウトされる。

彼ら騎士は剣と魔法が使える戦士であり、需要は決して低くないのでそこでスカウトされなくても、各地方都市の守備隊とかに就職できたりして職業騎士となるが、それでも成績下位は声がかからない。

そう言う連中は自由騎士なんて称せられるが、つまりは無職なのである。

自由騎士とは聞こえがいいが無職であれば食っていけない。

シャディは比較的恵まれた立場で、彼女の才能に故郷の村が持ち寄り(カンパ)で学費を出してくれた。

だからと言って返さなくていいと言う訳ではない。

恩を返すためにはお金が必要だし、稼がないければならない現実がそこにあった。



そう言う自由騎士様の最後の行き着く先が、冒険者なのである。

シャディは確かに村では無敵でも、そんなのがゴロゴロ居る養成所では目立たない存在でしかなく、就職先も困る有様であった。

当然コネもない。

故に卒業して就職先の無いシャディの行き着く先は冒険者ぐらいしか無かった訳だ。

しかし冒険者的な見方をすれば、正規訓練を受けた彼らは即戦力であり、我らがシャディ・ガウリー自由騎士様も冒険者登録して簡単な講習を受け、5級冒険者となったその日にパーティーが決まったぐらいだ。


そのパーティーで冒険する事数度、自由騎士である別パーティーの先輩女冒険者のアドバイスもあったりして、シャディも冒険者として馴染んできていた。

今回の依頼も『近隣の森のゴブリンの巣の調査』と言う駆け出しの5級冒険者にありがちのものを数日前に受けた訳だ。

討伐と違って気楽なものさと仲間たちと楡の木亭で笑い合い、件の先輩女冒険者からは『簡単な依頼ほど気を抜かないのが生き残るコツさ』と串焼き肉を片手に言われたのは既に遥か過去に思えた。


そして、森に入ったのがこの日の朝方。

ゴブリンの行動痕跡を見つけて『ああこの程度の数なら無理なく依頼こなせるな』と仲間と言い合ったのが数時間前。

そして、今はシャディ・ガウリー自由騎士様1人で悪魔(ルクレ)と対峙してる訳だ。


「あの・・・ちょっとだけいい?」

「ん?」


目の前のルクレウス・ロイド・インフリードと言う悪魔が、どんな悪魔かそこまでは分からないが現時点では敵対的ではなさそうではある。

そこでシャディは腰のポーチから回復薬ポーションを取り出して蓋を開け飲み干す。

痛みが消え去っていく・・・

彼女も騎士の端くれであるから回復(ヒール)の魔法は使えるが、魔力に依存しない回復薬(ポーション)は便利な回復手段である。

勿論、金銭的に決して安くはないが、命よりは遥かに安価ではある。


「なにそれ?」


ルクレが子供らしい表情と好奇心で言い、シャディが手に持つ瓶の口に付着した液体を指で拭い口に持っていく。

そして、可愛らしくもこの世に絶望したような顔で言う。


「おいしくないぃっ」


利点あれど、最大の欠点はこれ。

非常に苦いのだ。


「ああ、これ凄く苦いお薬なの・・・だからこれ食べて」


シャディがポーチから取り出したのは、マカロンである。

彼女が所属する冒険者ギルドがある辺境の中心都市レブニア。

アマーレア王国南西部の国境付近、レブニア州の州都。

レラ=エズート連合王国とヘルカトラス山脈を挟んで隣り合わせた国境交通の要衝でもある。

そのギルド前の道路、楡の木通りのブリエおばさんの店でいつも買うマカロンはアーモンドの香りと甘さが絶妙なのだ。

日持ちはあまりしないが、今回はそんな長丁場を予定してないかったし、口直し兼非常食代わりに数個ポーチに入れておいたものだ。


彼女だってこの苦さには耐えられない。

冒険者になって最初の歓迎会のようなもので、この回復薬(ポーション)一気飲みは恒例行事で新人は皆のたうち回るのだが、そのお陰でみんなこうやって口直しを持ち歩く習慣が身につく。

あれは確かにクソッタレな儀式だが、意味は凄く大きいのはシャディもやられた上でも認めざるを得ない。


そのマカロンをルクレに差し出したのだが、今度はちょっと涙目で恐る恐る小さな手を伸ばすのが強大な悪魔だとしても可愛らしい。

不覚にも萌える。

それでもアーモンドの食欲を刺激する香りに誘われ、一口齧って見たルクレの表情が・・・

つぶらになった瞳が次第にうっとりと閉じられ、紅潮した頬が緩む。

そしてこの世で最も幸せだと言うような笑みと、満足げな吐息が漏れる。

まさしく天使の笑みだ。

悪魔なのだが。


「おいしいぃっ!」

「そうでしょ!、うん、これは美味しいと思うわ」


ルクレの表情に萌えながらも、なんだか緊張がほぐれてきた気がしてきた。

恐らくだが、命は助かった気がしなくもない。

もしそうならマカロン様々だ。

ブリエおばさんに剣を捧げてもいいかもしれないと思うぐらいであった。


ぱくりぱくりと全部食べて、幸せそうな吐息を漏らすルクレは、見ている方も幸せになれる笑顔だった。

しかし、目の前にいるのは悪魔なのである。

多分悪魔の筈だ。


とりあえず打ち解けた所で、情報交換を始める。

親密になるにはまずは互いを知らねばと言う事であるし、この悪魔の不興を買って殺される事態を防ぐ為にも情報収集は必須だろう。

まずシャディはルクレウス・ロイド・インフリードと言う悪魔が何者かが分からない。

見た目は愛らしくも悪魔らしい角や翼や尻尾を備えているので悪魔なのだろう。

そして、どう見ても低位の悪魔には見えない。

しかし、そもそも悪魔の出現数は極めて少なく、養成所で受けた魔物生態講義でもドラゴンと共に高位の悪魔は伝説の存在扱いだった。

つまり、情報が少ない訳だ。


比較的出現すると言う低位の悪魔、つまり小悪魔(インプ)低位悪魔(レッサー・デーモン)の見た目や言動はルクレとは全く違う。

ならば歴史上数度現れた魔王が引き連れた高位の悪魔か・・・

それに関しても名前が記録に残っているみたいだが、ルクレの名前や子供みたいな悪魔はシャディの知る範囲ではいなかった気がする。


ルクレ自身に聞いてみるのが一番だが、『あなたはどれぐらいの悪魔なんですかね?』なんて不興を買いかねない事は流石に聞けやしない。

まずは当たり障りの無い所から聞こうとルクレを見たが、ふとそこで思う。

ルクレは男の子なのか、女の子なのか・・・

高位の天使や悪魔には性別があるのか・・・

分からないままどう呼ぶべきか迷うシャディ。

『ルクレウス』なのか『インフリード』なのかはたまた『ロイド』と呼ぶのか・・・

そこで素直に『どう呼べばいい?』と聞いてみると『ルクレでいい』と言う言葉が返ってきたので、『私はシャディと呼んで』と返して、とりあえず第一段階はクリアできた。

ただ流石に性別までは聞けなかった。

次に聞くべきは、『何故ここにいるのか』と言うごく当たり前の疑問だ。


「所で何故ここに?」

「しらない」


会話はできる、悪魔的な強大な力も持っていると思う。

だが、意思疎通が幼児としてるようだ。

互いにシャディ、ルクレと呼んでいいと確認する所から始まって、何故ルクレがここにいるのかを聞いたが、詳しい話を引き出すとシャディにも色々見えてくるものがあった。


まずルクレは、知識と言うものがすっぽりと抜け落ちてるのだ。

この世界に対する知識や自分自身に対する知識まですっぽりと抜け落ちているのだ。

つまり、自分の名前以外は知らないらしい。

知っているのはルクレが目覚めてからの出来事しか無いのだそうだ。

そして、そのルクレが目覚めた状況もアバウトなものだった。


シャディが意味を要約すると、目覚めた時は赤い棺のようなものに入っていたらしい。

それ以前の記憶はルクレには無く、目覚めた瞬間がそれ。

周囲は石造りの部屋のようであったと言う。

そして目覚めたルクレを待っていたのは、完全武装した者たち・・・

口々に『悪魔が目覚めた!』と言いながら切りかかってきたらしい。


ルクレもその剣の嫌な感じ(シャディが考えるに魔法の剣)に近くにあったものを引っ掴んで避けようとしたらしいが、その引っ掴んだものが目もくらむような光を発して気づけば森にいたと言う顛末だったらしい。

『襲われる意味が分からない!』と憤慨するルクレだが、悪魔だしそうなるかなと思いつつもシャディも『何故だろうね』と相槌打つ以外どうもできない。

察するに、どこかに封印されていたルクレが封印を破った者に襲われるものの、すんでの所で魔法の道具か何かで転移されたと言う訳のようだ。

もしかしたらルクレが封印された魔王だったらどうしようと思いつつも、今のシャディにどうする事もできないのが現状。

もう可愛いんだしいいかと思い始めてる辺り、シャディの感覚もいい感じに麻痺している。



そして、分からないなりにルクレの事を聞いたシャディも自分たちのここに来た目的を語り、彼女は後処理を始める事とした。

それは死んだ仲間の亡骸から冒険者プレートを抜き、埋葬する事だ。


冒険者が死亡した場合、遺体の回収が困難である場合はその付近に埋葬する事が通例だ。

その際、冒険者プレートを持って帰ると、可能なら回収班が遺体の回収に向かう事もあるが、そのままにさせる事も少なくない。

可能ならば遺品を持って帰る選択肢もあるが、今回はそれも難しいだろう。

シャディがそれをルクレに説明して穴を掘り始めると、ルクレはそれを興味深げに観察してくる。

もう危害を加えてくる様子は無さそうだが、シャディから離れて行く気も無いらしい。

ならば気にせずシャディはすることをするしかないし、ここにルクレが居た方が安全に作業はできるだろう。


「ふぅ・・・」

「穴掘るの大変?」


一人分の穴でも四苦八苦してため息混じりのシャディを覗き込むように、ルクレが問いかけてくる。

反応が一々、近所の子供のようであったが、話すと言う行為は陰鬱な作業の気が紛れていい。


「手伝ってくれる?、あのマカロンあげるわよ」

「うん、ならやる!」


冗談交じりに食べ物で釣ってみたら、本当に釣れて逆にびっくりする。

あのマカロンがよほど気に入ったのか、凄まじい勢いで穴を掘り始めたルクレは、瞬く間に5人が入るぐらいの穴を作ってしまったのだ。

見た目は子供であれ、やはり悪魔だ。

仲間の背嚢に取り付けられていたシャベルをルクレに渡したが、開始して早々に悪魔の規格外のパワーで折ってしまい、シャディも慌てて別の一本を渡したのだった。

折って力加減を覚えたのか、そこからはスムーズに・・・

人間的に言うと凄まじい勢いで大穴ができた訳だ。

しかし恐らく、マカロン1つで悪魔を使役した人間は自分が初めてかもしれないと、呆れつつもシャディはルクレとの出会いを少しだけ神に感謝してしまった。


仲間たちを穴に横たえ、土を盛る。

「神よ、その御下に召された者に、永遠の安らぎを与えたまへ・・・」

「・・・たまえぇ」


祈りを捧げると、ルクレも割と神妙に真似してきたのがなんとも可笑しい。

悪魔だったらやすらぎを与えない側だろうと思うが、この全く邪気の無い悪魔なら違うのかもしれない。


そして近くの木にサインを刻む。

これは冒険者サインと呼ばれる冒険者達の目印で、進んできた方向や何があったかを簡単に記して後から来た者に知らせるものだ。

シャディにとっても初めて・・・

それも仲間がここで眠ってると言う刻みたくないサインを刻んで埋葬作業は終わった。

短い間だったが、仲間たちとの日々が思い出されて心に刺さるが、感傷には浸ってられない。

いつ魔物が現れるか分からないここに長居は危険だ。


「依頼も駄目になっちゃったし・・・どうしようかなぁ」


あと1つの懸念はルクレだ。

街に連れ帰っていい訳が無い。

絶対にパニックになる。


「依頼?・・・巣をみつけるやつ?」

「うん、人が沢山攫われてるかもしれない巣だから発見して報告したいけど・・・流石に無理だわ」


あのゴブリン・シャーマンを迎撃に出すぐらいの規模だから、もうシャディの手には負えない。

帰って報告すれば、4級冒険者数パーティー組んでの討伐戦となるだろう。


「じゃあ、巣を見つけて返して貰えばいいんだよね!」

「ほへっ?!」


子供らしい無邪気で可愛らしい笑顔。

不覚にも萌えたが、言ってる事はちょっと待てだ。

ふわふわと浮くルクレが、ゴブリンが逃げた方に行くのを混乱しながら見ていたシャディは反応が一瞬遅れてしまったのだ。


「待って!」


恐らく巣ではシャディにどうにもできない相手が待っているのだが、少なくともルクレの側にいた方がこの森の中では安全だ。

状況によっては行動してから考えればいいと件の先輩女冒険者がブリタおばさんの店の前で財布に手を突っ込みながら言っていたのを思い出しつつ、シャディはルクレの後を慌てて追ったのだった。


2話目が思った以上に早く推敲できたので投稿

次も週末までには頑張りたい・・・頑張りたい

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