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アクマでも!  作者: 黒居まめ
Chapter.1 アクマでも?
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Section.10  悪魔と馬鹿もしくは勇者Ⅱ


一応冒険慣れはしてそうな女騎士はいるが、どう見ても世間知らずのエルフの若い娘と子供の魔術士と言う組み合わせは、当然ながらエドが不信感を抱いてもおかしくはない組み合わせだ。

それでもパーティー結成に至った理由は、戦力不足とシャディが冒険ギルドに所属する5級冒険者だと言う同業者の信用とも言えるものだ。


簡単なお互いの自己紹介の後、シャディは驚く。

エドとヴィクトルが3級冒険者だと言う事実にかなり驚かされたのだ。

3級冒険者と言えば、古代の遺跡の奥深くを探求できる本格的な冒険者と言われるランクだ。


まぁエドに関しては理解できる。

物腰や雰囲気、神官としての地位は高くないようだが、明らかに冒険慣れしていて、3級と言われても納得できる。

見た目は長身の美形。

この国にはさほど多くない長い黒髪が美形だけによく似合う。

知的でやや冷たい印象を感じるが、言葉遣いは丁寧。

やや冷たく感じるのはまだ警戒されてるからだと思われるから特に気にはならない。

と言うか、美形なら何でも許される的な雰囲気で、冷たい表情すら様になってしまう。

鉄甲と鎖帷子を組み合わせた鎧の上から羽織る白い法衣と円形の盾は、この国でもよく信仰されている至光神教の神官戦士の正式な出で立ちだ。

隣国であるレラ=エズート連合王国でも同じ至光神が信仰されているのだが、こちらは正教会と名乗り人間以外の人種は滅ぶべきと言う主義主張だ。

それと比べるとアマーレア王国ほか多くの国で信仰されている神殿派と呼ばれる方は弱者救済を謳っているだけにそこまで排他的ではない。

ルクレの正体がバレても恐らく悪即斬(もんどうむよう)とはならない筈である。


だが、問題はこの馬鹿・・・もといヴィクトルだ。

美形のエドとは見た目は比べるべくもないが、人懐こい笑顔で好感は持てる。

がっちりとした体格で、よく鍛えられた身体はひと目で戦士と分かる。

使い込まれた鉄の鎧は傷は多いものの手入れは行き届いているし、衣服も丈夫かつ上質。

武器である大剣は魔法こそかかっていないものの、名工の手による業物であるように思えた。

見た目だけなら3級冒険者と信じられる。

だが問題は頭の中身だ。


よくギルドでは5級から4級に昇級できるのは全体の2割程だと言われたりしている。

これはどこのギルドでも統計的にも概ね同じだ。

軽い気持ちや憧れ程度でなった冒険者が、現実に直面して辞めていく、もしくは病めていく。

それなら良い方で、シャディの前の仲間たちのように死ぬ事もある。

故に昇級できる者は2割程に絞られ、その殆どが現実に直面して夢や憧れを捨て去っていくことが多い。

特にヴィクトルのようなタイプは、まず死んでる。

よほどの運がなければ、この手の馬鹿はまず真っ先に死ぬ。

4級にそんなのが昇級する事ですら奇跡と言えるのに3級とか・・・

審査官は何をしていたのだと言えるレベルだ。

そう、引退した冒険者からなる複数の審査官によりランクの昇級は審査されている。

それは腕だけでなく人格も査定要素となってる筈だ。

ヴィクトルに恨みは無いシャディだが、この性格で3級までなってる事自体、何だか間違ってる気さえしていた。


「本当に気持ちはよく分かります。申し訳無い」

「いえ、謝って貰う事じゃないので」


驚くシャディに謝るエドだが、これはエドが悪い訳でない。

エドの苦労と気持ちも分かるが故に、シャディも苦笑で応えてしまう。

どこにでも規格外と言うのはいると言う事だ。

ルクレと言う規格外の悪魔と少しの間だが関わってきたシャディだから、仕方ないと何となく順応はしてしまってる自分にやや驚く。

自分の常識もどこか壊れ始めてるのかもしれないと、少しショックを感じてしまうシャディだった。


一行は簡単な自己紹介を終えると早速村から出立。

村から川沿いに歩き、目的地は野盗が潜んでいると言われる渓谷だ。

おおよその位置は村の狩人が確認したらしく、信用しても良い情報らしい。

距離にして半日もかからない。

夕暮れ時には到着できる。

だが野盗の動きは緩慢に感じたとは言え、彼らの方はゆっくりしてられない。

大剣を背負ったヴィクトルが大股でどんどん歩く。

他のメンバーの歩幅を気にしない辺り性格が良く出ていた。


その横を歩くのは意外な事にルクレだった。

歩幅の違いで走るペースに近いのだが、割と楽しげにヴィクトルに追従。

空に浮かないように言い含めていたからシャディも疲労とかを気にしていたが、森からの道中も疲れた様子も無いし、今も時折ぴょんぴょんと軽快にスキップを混ぜつつご機嫌だった。

子供とは言え、体力は悪魔なのだろう。


その少し後ろをリリーが歩くが、これはややハイペースだろう。

早足で歩く表情はかなりムキになっているのか、纏めた後ろ髪の跳ね方も乱雑だった。

折角の綺麗な顔が、かなり険しくしかめられている。

これはどこかで緩めてやらねば持たないだろうとその後ろを歩くシャディは考えながら歩を進めた。


ちょっと前までは自分がパーティーで考えるポジションになるなんて想像もできなかった。

しかし、体験と言うのは偉大なのか、死にかけると色々考えれるもんだと改めて思うシャディだった。

そのシャディの隣のエドは、このペースに慣れているのか涼しい顔。

立派な体格のヴィクトルに迫るぐらいの長身だし、優男にも見えるが神官戦士として相当に鍛えた身体をしているのだろう。

シャディも女にしては長身とは言え、ヴィクトルやエドと並ぶと少し低い。

そのエドは周囲を警戒する素振りを見せながら黙々と歩いていたが、暫く川沿いを歩いた所でヴィクトルに声をかけた。


「渓谷までは近くなってきました。少し警戒しましょう」

「ああ・・・そーだな、休憩すっか!」


意外な事にエドの言葉でヴィクトルが歩みを止めた。

エドの考えを理解したと言うより、本能的にそろそろ危ない所と察知したのもあるだろう。

馬鹿なのだが生き残ってるのはそんな察知力もあるのだ。

休憩の言葉にリリーが大きく息を吐く。

彼女の事だから『ペース早かった?』と聞けばムキになるだろうからとシャディは聞かないでおく。

それが気遣いと言うものだ。


「お、ペース早かったか?」

「も、んだいっないっ!!」


やはり馬鹿は馬鹿だった。

その言葉は気遣いでは無い。

リリーはヴィクトルを睨みつけて食ってかかるが、やはり息が上がったか『も』の部分に力が入り過ぎている。

しかし馬鹿だけにその当たりの機微を理解してる様子は無い。

純粋に善意のつもりなのだろう。

エドの方は『それを言うか』と頭を抱えている辺り、この少しの間で人間関係を読み取れるだけの配慮はできるようだ。

だが、こう言うやり取りもパーティーらしくていいし、シャディは意外と悪い組み合わせでは無い気もしている。

そしてパーティーして慣れていくにはこう言うやり取りがあった方が打ち解けやすい。

まぁ実際、綺麗な顔をふくれっ面にしたリリーの様子を見ても丁度いい頃合いだろうし、エドもその辺りを見ての休憩だろう。

シャディとしてもまだ余裕はあるものの一息つきたいぐらいの疲労もある。


「おやつだ、おやつぅー!」

「お、いいね。小腹が空いてきた所だ」

「貴様の小腹は知らんが手持ちはあるぞ」


ルクレは元気だ。

森から村までの道中で、休憩=おやつタイムと言う図式が刷り込まれたらしい。

それは特に間違っていないし、体力回復と栄養補給は冒険者にとっても重要だ。

食える時に食っておけと件の先輩冒険者もゾンビ退治の依頼後すぐに厚切りのステーキをがっついていたのをシャディは思い起こす。


そのルクレとヴィクトルと道中で既に意気投合。

ヴィクトルは幼い子供に好かれるタイプらしいから、何となく理解できた。

意外なのはヴィクトルの悪気の無い言葉に怒ったりムキになったりするリリーがその輪に加わってる事だ。


いや、意外でもない。

そもそもリリーは割と直情的で短絡な方だ。

ヴィクトル程で無いにしろ、そっちに近い。

シャディの見た所、普段村で子供扱いされているから背伸びしすぎてる部分が見えるが、本質的には村で子供扱いされるぐらいには子供っぽいのだ。

今回のこの一行に加わろうと言い出したのも、要は活躍して認められたいと言う魂胆があっての事だろう。

だが、彼女は魔術も少しながら使える上に、弓の腕は抜群。

戦力としては申し分無い。

ただ、自分の腕に自信を持っているタイプの方がえてしてポカをやらかしかねないのはよくある話でもあった。

シャディもその辺りは気をつけないとと思って、更に厄介なヴィクトルの面倒を見ているエドに同情してしまうのだった。


「所で・・・」


おやつタイムに意気投合する三人を見ながらエドがシャディにそう切り出す。


「彼は何者なんですか」


当然聞かれる質問だろう。

彼が誰を指すのかも勿論分かっているが、全てを応えてしまうほどまだエドを信用できていない。


「異国から来たとしか・・・私も全てを知ってる訳でないし」


全て真実でないにしろ嘘でも無い。

エドは嘘であれば恐らく見抜くタイプだろう。


「ただ、信用はしてあげて欲しいの。いい子だから」

「いい子、ですか・・・」


シャディの言葉にエドが考え込む。

物事を理論的に考えるタチで、よくヴィクトルから頭でっかちなんて揶揄されたりもする。

そのエドでも、少なくとも敵ではないだろうと理解はできるが、何となくルクレに違和感は感じていた。

だが、シャディが嘘をついている訳でない事も察していただけに、この件は今考えても仕方ないぐらいには割り切れる。

と言うか、危険なら本能的に察知してしまうヴィクトルが意気投合する時点で危険は少ないと、理不尽ながらその本能を信じてる部分もあった。

なんだかんだと言いながらこの相棒は信頼できるのである。


「ルクレ、これを食べるか?」

「うんっ、食べる!」


リリーが出してきたのはエルフのお菓子ハロングロットル。

恐らくルクレを『食べ物で釣る』と言う目的で持ってきたのだろう。

無論、冒険者は暇があれば栄養補給しておくのは正しい事なので、特に咎め立てする事でもない。


「こりゃなんだ?、おっ!、意外と旨めぇな!」

「ちゃんとやるからつまみ食いするな。だが人間にしては味が分かるな!」


横からつまみ食いするヴィクトルに素直に賞賛されて鼻高々と言ったリリー。

どちらも裏表の無い性格だから合うと言う事だろう。


平和な様子に頬が緩むシャディだが、エドを見ると彼は表情を崩していない。

真面目な性格もさることながら、野盗達が警戒網を張っていてもおかしくない場所なのだ。

こんなタイプだから気苦労が絶えないのだろうと少し思ってしまうシャディだった。


「飲み物もあるぞ」

「わーい」

「おっ、酒も持ってるのか!」

「果実酒だが、今は駄目だぞ。それにルクレに渡したのはジュースだ」


冒険で酒を持ち込むのは珍しく無い。

消毒や気付けに使用するからだ。

勿論本来の目的である『酒盛り』にも使用するが、飲み過ぎは当然厳禁だ。


シャディもエルフの村で貰った水筒に口を付ける。

中身はリンゴのジュースだろうか。

エルフの村の周りはよく手入れされた果樹林だったし、そこで採れたものだろう。


「このまま行けば夕暮れ時には到着できそうですし、奇襲にはもってこいかと」

「そうね・・・頭を叩いて大人しくなってくれればいいのだけれど」


戦力としては3級の戦士と神官戦士、それに5級ながら魔法剣持ちの騎士もいる。

弓手の実力も確かだし、最終的には悪魔(ルクレ)がいると言う安心感でシャディはそこまで危機感は無い。

それをエドがどう取るかは分からないが、一応シャディとリリーは戦力として計算してる節がある。


「彼の魔術は使えますか?」

「攻撃なら中位魔術インター・スペル級よ。戦力として計算して貰っていいわ」


嘘ではない。

拡張魔術エクスパンション・スペルと言う中位魔術インター・スペルは使えるのだ。

但し現状、火球魔術(ファイアーボール)の拡張しかできないのだが・・・


「驚きですね・・・年端もいかない子が」

「ええ、本当に驚きよね」


相当な修練を積んだ者が到達すると言う中位魔術インター・スペル

3級のエドは使えるのだが、あくまでも光属性に特化したもののみであるし、修練には相当な時間を要した。

年端もいかない子供がそれを使えると言うのだから、魔術を知るものなら驚かない方がおかしいだろう。


「世の中には規格外っているものよねぇ」

「そうですね・・・全くその通りですね」


シャディの言わんとする事にエドも苦笑するしか無い。

彼の相棒ヴィクトルもある意味規格外だ。

馬鹿だけど・・・

だが、この一連の会話でエドの表情が和らいだ気はした。

そうなるとやはり美形、ちょっと見惚れる。

シャディに関してはしっかりはっきりした顔立ちで美形と言うタイプでないのは自分も理解しているので、むしろエドの側にいるよりヴィクトルの側にいた方がしっくり来るタイプだと思ってしまう。

だが、エドとリリーの美形コンビだと互いに会話に困るだろうし、これが現状妥当な組み合わせなのだろう。



そうして少し休憩を入れた一行は再び歩きだす。

先程よりゆっくりとしたペースは警戒故だ。

先頭はリリーに変わり、ヴィクトルとシャディがその次、その後ろにルクレで最後尾はエドと言う並びになる。

本来は弓手は後衛だが、感覚の鋭いエルフは斥候役もこなせる。


渓谷に入ってからは、川を少し離れ断崖の上の道を通る。

ここまで来ると道に新しい無数の足跡が見られ、目的地は近いことが窺い知れた。


「食べ物の匂いがする」


道を進んでいると、小さな鼻をヒクヒクとさせたルクレの言葉に一同は立ち止まる。

真っ先に反応したのはリリーだった。

長い耳に手を当てて耳を澄ます。


「近いな・・・かなりの人数がいる」

「ああ、この先は野盗が野営してる場所だ」


リリーの言葉にヴィクトルが不敵な笑みを見せる。

戦闘を待ちわびているような笑みだ。


「食事中なら奇襲したいですね」

「ああなら静寂魔術(サイレンス)をかける」


まだ結成したばかりのパーティーだが、どことなく息は合いつつある。

エドの言葉にリリーが応え、彼女は魔術を発動させる。


「万物の源にして、万能なる魔の力よ・・・その魔の力を持って我らを閑寂に誘え 静寂(サイレンス)


静寂魔術(サイレンス)、つまり対象から発する音を奪う魔術だ。

音が無いから魔術の詠唱はできないし会話も出来ない。

だが、隠密行動をするにはもってこいの魔術でもある。


ヴィクトルが何かを言っているが音は伝わらない。

恐らく『すげぇ!、声が聞こえないぜ!』とか言ってるだけだろうから特に気にする事でも無い。

シャディは一応魔術発動前に抵抗指輪を外している。

詠唱を必要とし、発動までそれなりの時間を要するリリーの魔術だと指輪で弾く可能性もある。

勿論、うまくかかる可能性の方が高いが、念を入れておくほうが無難だ。


そしてルクレ。

無音でパクパクと口を動かしながら楽しげにはしゃいでいる。

魔術が効いているようだ。

悪魔の高い魔術防護も本人が受け入れる気なら弾かれないようだ。

内容は・・・

特に聞くほどでも無いだろう。


シャディは準備ができたとばかりにエドに頷いて見せる。

エドも頷いて応え、道の外れの茂みを指差す。

念には念を入れての隠密行動と言う訳だ。

その動作に心得たとばかりにリリーが茂みに掻き入る。

その動作すら音を発していなかった。

直情的なリリーだが幸い馬鹿ではない。

そして馬鹿の方は、一応本能的に理解しているようでひとまず安心である。

そしてリリーに一行が続く。


暫く進むと誰にでも分かるぐらいの匂いが漂ってくる。

そして、茂みが開けた向こう側には多くの天幕。

野盗達の野営場だった。


渓谷のやや広がってる所に作られた野営場。

エドどころかヴィクトルまでもが慎重に目を凝らしていた。

茂みから野営場までの間に大岩があり、それが邪魔でどこに頭目の天幕があるのかは確認できずにいた。

最低限大岩の影までは出なければならないと言う事だろう。

静寂魔術(サイレンス)の効果時間を考えても、悠長に構えてはいられない。

エドが一同に手で合図を送り、慎重に岩陰まで歩いて行く。

丁度岩陰まで到着したその時、静寂魔術(サイレンス)が切れたのだ。


とうとう10話目!

少しアドバイスを貰ったので その辺りを意識しつつ推敲や加筆

結果 いつもよりややボリュームあるかなと


11話もそう言う事を意識しつつ書いて行きたいかなと

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