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TwilightGate ~罪と女神と終焉の怪物~  作者: SuikaVoid
第2章 魔法の世界
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3話「紅蓮の少女」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

断章1 名もなき罪



もしも、許されざる"罪"があるとしたら。


償うことも、贖うことも叶ない程にその罪は重く、


その罪を裁かぬことも人の"怠惰"であり、


その罪を裁くことさえも人の"傲慢"であるとしたら...


名も無き"罪"は虚を彷徨う。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





それは、一瞬のことだった。



扉と光に飲み込まれたと思った瞬間、そこはもう白の世界ではなかった。

異なる世界への移動、それが成功したようだ。


キーは言っていた。俺に微かな記憶が残っていると。

その記憶を辿って世界を移動すると。


だが、目の前に広がる光景にはやはり見覚えはなかった。




あたりに広がる光景は森だった。

見渡すと、無造作に生えた草や木々が続くばかりだ。


上を見上げると生い茂る木々の隙間から僅かに見える晴れた青空が、

今が昼であることを告げている。



ヒュォォ...



優しい風が吹き付ける。

草木を揺らし、心地の良いさざめきを奏でる。



先程までいた空間とは違い、色も音も植物もある。

それだけでも心が穏やかな気分になるようだった。



しかし、生物の気配はない。人の気配はともかく、

虫の鳴き声や獣が生息しているような痕跡は見当たらな...い..?




俺は、ハッとした。


右を向き、左を向き、後ろを向き、前を向き。

上を向き、下を向き、草をかき分け、木の裏を覗き。


居るべきはずの、いや、居てもらわなければ困る存在を探した。



「何処にいるんだ?キー!」


俺は声を上げて探した。




木々のさざめく音が聞こえるばかりで、返事は返ってこなかった...



俺は、しばらく途方に暮れていたが、黙って待っていることもできなかった。

キーを探すため、周囲の探索をする。


またこの展開か...


奇しくも、白い世界での出来事と同じ展開を繰り返している。

そう感じた俺は、胸の内で自嘲する。



道なき道を慎重に進む。如何せん俺は裸足なので、そこらに落ちている木の枝を

踏んでしまうだけで、歩るくのに致命的な怪我を負いかねない。


そんな具合に進んでいると、少し開けた場所に出た。


一度立ち止まって深呼吸する。ゆっくり進んでいるとはいえ、結構険しい道もあり

それなりに息が上がっていた。そう考えると、やはり白の世界で全く疲れを感じなかった

ことが再び不思議に思えてきた。




息を整え、再びあるき始めようとした時だった。



「カサッ」



足音が聞こえた。


方向は、俺が向いている方向。つまり、今来たのとは反対の方角から。


キーか?とも一瞬思ったがあいつなら飛んで移動するんじゃないかと思い、考え直す。



「カサッカサッ」



その音が人間のものか、あるいは獣によるものかは分からない。

しかし、その足音は一歩一歩確実にこちら近づいていた。



先程まで吹いていた風が凪ぎ、静寂が訪れる。



緊張感が高まる。



獣だった場合対抗する手段を持っていないし、

人間だっとしても、俺は素性をまともに話せない。



身を隠すべきだろう。

が、決断するよりも早く、足音の主が姿を現した。




それは少女だった。

背丈は俺より少し低く、真紅の瞳に朱色のショートヘア。

赤いローブの下にはベルトのようなものがいくつもついた複雑そうな出で立ち。



そんな赤い少女は緑に覆われた森の中で際立って見えた。




少女と目が合う。

その赤い瞳はとても澄んでいて、吸い込まれそうだった。



少女はこちらの存在に気がつくと、足早にこちらへと近づきながら話しかけてきた。



「あなた、こんな場所で何をしているのよ?」



少し険のある言い方だったが、何かを咎められているようではなかった。

単純に、こんな場所で一人で彷徨っている俺を不審に思っているのだろうか。



「すまない、探しものをしていて...」



俺は、少し言葉を濁しつつもそう告げた。


本当は"もの"ではないが、「喋る小動物を探してる」と言うのは気が引けた。



「そう」


少女は足を止める。



「なら私と一緒ね」


少女は、そう言って微笑んだ。


でも、何故だかその笑顔は悲しかった。

哀しみを押し殺したような、不安を隠すような。

とても悲しい笑顔のように見えた。



が、それよりも気になるものが目に留まる。


その少女の少し後ろ。


地表の隆起した部分が徐々に徐々に高さを増している。

岩と岩が音もなく集まり、成形されていく。

それは既に、手と足を持つ人形のような形が出来上がっていた。


その瞬間、その土人形から計り知れない"殺意"を感じた。


土人形の拳が振り上げられ、目の前の少女に今にも襲いかからんとしていた。




「「危ない!!」」



俺と少女は同時に叫んでいた。

少女の視線は俺よりやや後ろを見ていた気がする。



しかし、俺が後ろを振り向くことはなかった。




俺は"前"へと跳んでいたからだ。

自分でも何が起こっているか分からなかった。

体が勝手に反応しそう動いていた。


地を蹴って、体を屈めて加速する。

一歩目で跳んだ先の地面で、落ちている枝の中でも太く頑丈なものを手に取り、

すかさず一足飛びで土人形に向かうと、俺は渾身の力で上から下へ枝を振り抜いた。


目の前の土人形は枝ごと粉砕された。同時に、



「ファイア!!」



後方からは少女の叫び声と、



刹那、爆音が轟く。



振り返ると、激しい閃光のその奥では

同じような土人形が、木っ端微塵に爆発していた。




再びの静寂が訪れる。



先に沈黙を破ったのは少女の方だった。



「あなた、今何をしたの...?」

少女の声は、困惑に満ちていた。




「俺にも...分からない。ただ、体が勝手に動いて...」

俺の声は少女よりも頼りないもので、震えが混じっていた。


「今のは、一体何だったんだ...?壊してしまって良かったのか?」

今度は俺が聞く番だった。



すると少女は、今度は呆れたような顔で、


「あなた、ゴーレムも知らないでこの森に入ったの!?」


そう驚かれた。


「まぁ、いいわ...今のはゴーレム。魔物の中でも結構強力な部類で、

高い防御力と攻撃力を併せ持つ厄介なやつよ...

倒して問題が出るどころか、

村に戻って報告すれば謝礼の一つでも出してくれるわよ」



そんなに凄い奴だったのか...あまり実感がわかない。


「もう一つ、さっきの爆発は君がやったのか?」


少女の表情がまたも変化する。

"呆れ"を通り越した"呆れ"のような眼差しで彼女はこう言った。


「あなた"魔法"も知らないって...

確か定義上では...『魔法は使用する人間の魔力(マナ)を消費して、

呪文をトリガーとすることで、イメージを現象として引き起こす力』だったかしら」



魔法。言葉は知っている。

だが、俺の知識にあるそれは空想上のものであって、

現実にそれを使える人間が居るという知識はない。



ふと思い出す。


ここは"異なる世界"。


魔法が使えない世界も存在すれば、使える世界も存在するということか...



「それにしても、あなたって本当に一体何者な...」

少女の言葉を、最後まで聞き届ける事は叶わなかった。



ドサリ。



俺の意識は途絶え、地面に倒れ込んでいた。




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