いつか、どこかで、誰かが...
初投稿です。
楽しんで読んで頂ければ幸いです。
笑っている。
誰かが笑っている。
知らない自分が笑っている。
それを「自分」だと思うのは、それが「他人」ではないと知っているからだ。
知らない他人が笑っている。
それを「他人」だと思うのは、それが「自分」ではないと知っているからだ。
知らない自分と一緒に、知らない他人が笑っている。
笑っているだけじゃない。怒ったり、泣いたり、喜んだり、傷ついたり、傷つけたり。
ただ一面、無限に広がり続ける闇の中、そんな光景が、幾つも、幾つも幾つも幾つも...
無数の泡のように浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。
アルバムのページを、一枚一枚丁寧に破り捨てていくように。
小説の文章が、一文字一文字本から零れ落ちていくように。
何かが、大事な何かが、音もなく壊れていく。崩れていく。
大切なはずなのに。
失いたくないはずなのに。
何もできない。何も感じない。何も思わない。
痛みも、苦しみも、悲しみも、なにもない。
伸ばした手は、只々闇を彷徨うばかりで、その手を握り締めても何かを掴むこともなく。
そんな意味のない動作を2度、3度と繰り返している
と、声が聞こえてきた。
「...て」
消え入るような女の人の声だった。
その声を聴いて初めて、自分の中の「感情」というものが動き出す。
「.....とに ...つ.て」
その声は徐々に鮮明になってくる。
だからこそ、その声に宿る痛みや苦しみがにじみ出してきて...
「...げーとに たどりついて」
声に聞き入る。
大切な何かと、もっと大切な何かが胸の中にこみあげてきた。
同時に、さっきまで感じていなきゃいけなかったのに、感じることが出来ていなかった感情、
痛み、苦しみ、悲しみの全てが胸の中に一気押し寄せてきて、
どうしようもなく苦しくて、愛おしくて、泣きそうになって、抑えられなくなって、
感情が溢れ出しそうになったとき...
「あくまに... だまされないで...」
今までで最も鮮明に、透き通った声で、はっきりと、胸の中に直接投げかけられたように、言葉が紡ぎ出された。
その言葉を最後に、声も、先ほどまで見えていた光景も、無限だと錯覚するような闇さえも、
プツン
と
きえて
おわった