08
薫の集合場所は、2つ横の1年D組の教室だった。リボンの色を見る限り1年と2年がいるようで、既に7割程の席が埋まっていた。窓側の空いている席に座ると、外の方に視線を向けた。まもなく集団下校の説明時間と言うところで、薫は肩をつつかれた。
「こんにちわ、米沢薫さん」
「えっ。……あ~えっと、興津、沙織さん、だったよね」
薫が振り返った先にいたのは、制服を取りにいった際に出会った興津沙織だった。
「正解。覚えててくれたんだね」
「まぁ状況が状況だったからね」
更衣室には若干ながら沙織の残り香が残っていたし、その後は女装騒動が合ったのではっきりと記憶に残っていた。……実は私服姿で合っている為、沙織に男だとバレているのでは無いのか不安だったのだ。
「え?どういう事?」
「あ、いやこっちの話。……始まるみたいだから後でね」
チャイムが鳴り、訓練開始時刻となった。幸い薫の横は教室に入った時から埋まっていたので、沙織は他の席へといく。クラスメイトがいなくてちょっと安心していた薫だが、どうなるやら。
担当となる先生からの説明は非常に簡潔で終わり、その後は暫く教室内で待機となった。というのも、帰宅は学園から遠いグループから行われる為、徒歩圏内となるグループは最後の方になるとか。
そして教室から出なければ自由ということで、今は沙織が薫の横の席に移動してきていた。
「へぇ~。じゃあこの辺は殆ど知らないんだ」
「う、うん。引っ越してからまだ1週間も経ってないからね」
会話が弾む――と言いたい所だが、元々薫は人見知りが激しい方であり、殆ど沙織が質問して薫が答える状況であった。因みに沙織は隣のA組ということで、合同授業となる事も多いそうだ。
今は住んでいる場所を聴かれ、住所からお互いの家が非常に近い事が分かったのだが、これまで顔すら見たことがないと沙織に言われ、つい最近引っ越してきた事を告げた。
「そこなら小中も同じ学区なのに顔すら見たこと無かったから内部生なのかと思ったけど、薫ちゃんも外部生だったんだね」
「う、うん。そうだけど……あの興津さん?」
いつの間にか沙織は薫の事を名前で、しかも「ちゃん」付けで呼んでいる事に気付いた。
「何、薫ちゃん?……あ、名前の事?」
「そ、そうだけど……」
「私、堅苦しいの嫌いなんだ。友達関係なら特にね。私の事も沙織で良いからね、薫ちゃん」
「うっ、わ、分かった。けどちゃん付けは勘弁してくれないかな、おき……沙織さん」
「まだ堅いね~」
「……努力します」
まさか女の子を出会ってばかりで名前で呼ぶ関係になるとは思わなかった。




