03
制服の間違いが発覚後、理事長室にて緊急会議が開かれた。制服の間違いもだが、何と学校側の書類にも不備があり、薫が女子生徒として登録されていた事が発覚した。この場にいるのは薫、理事長(50代前半ぐらいの女性)、薫が事情を説明した先生(1年の主任だったらしい)の3人。因みに薫は一旦私服に戻っている。
「……弱りましたね」
事情を聴いた理事長は困惑している。
「あの、どうすればいいでしょうか?」
恐る恐る薫は訊いた。そしてこの場で初めて、薫は桜坂高校が共学校ながら男子のいない実質女子校状態であったことを知った。
「米沢薫さんは入試試験では問題なく合格しているので、勿論入学ですが……ちょっと問題があります」
「問題?」
「今年――というか、他の学年も含めて校内で男子生徒はあなた1人ね」
……なんですと?手続きミスにも驚いたが、男子生徒が自分だけという事実にも驚いた。しかも、更なる追い打ちをかける。
「それで、一つ私から提案……あなたにはとても無茶なお願いなんだけど……女子生徒として通うのはどうかしら?」
理事長のこの発言を聞いた時、薫はあまりのことにすぐ反応出来なかった。
「えっと、あの……それは本気ですか?」
薫がそれだけ返事を返すのに、1分は経っていたと思う。
「勿論本気です。薫さんには女装を強要することになってしますけどね。当桜坂高校との提携校もいくつかありますが、2次募集の期間も終わり、入学式直前のこの時期に受け入れてくれる所を探すのは不可能です」
「それは……そうですよね」
もう何処の学校も入学式直前。流石に4月になって新入生を受け入れる所はないだろう。
「高校浪人するわけにもいかないでしょう?それに1人だけ男子だと、居心地悪いから苦労するわよ」
「それは、まぁそうかもしれませんが……」
3学年合わせると生徒数約850人で、教師陣に僅かに男性がいるものの、生徒としての男は自分一人。……うん、確かに気まずい。
「それに、あなたの体格なら女子としても通用するでしょうし、髪の毛を整えれば平気そうね」
……身長が低い事は結構気にしているのですけど。
「名前もそのままで大丈夫だし、声も聞く限りは女子としても通用しそうね。ただ、まぁもう少し意識して高い声は出せる?」
「それはまぁ多分……と言うか、ちょ、ちょっと待って下さい!いいんですか?女の集団に1人女装した男子がいても」
薫も当然の反論をする。しかし、理事長の発言が薫の斜め上をいく。
「まぁ、こちらの不手際も原因ですから、黙認します。可能な限りサポートもしていきますよ」
「いや、黙認って……それにサポートですか?」
「ええ、下着とかある程度必要でしょ?」
「……」
平然と言うから絶句してしまった。いや、そうかもしれないけどさ。そこまでしろと?
「女子生徒扱いするから堂々とスキンシップしても構いませんよ。折角だからこの状況を楽しんだらどうかしら」
……楽しんだらってなんて不謹慎な。あなた本当に理事長ですか?横にいる学年主任の方が困惑してるし。
「まぁ、あなたが高校留年したいなら止めないわよ」
「そ、それは……」
もう4月になっているから、これから受け入れ先を見つけるのは流石に困難だろうし、高校で浪人は勘弁。
「但し、もし何か問題を起こしたら退学処分ですから、そのつもりで」
「……考えさせて下さい」
一応そうは言ったものの、実質選択の余地は無く(流石に同学年はおろか、全校で男子1人だけの状況で堂々と登校出来る程の度胸は無い)、薫は表面上女子生徒として通うことになったのだ。