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第1話は毎日更新していきます。
制服の受け取りは3月25日から行われていたが、薫が新しい住居に入れるのは4月になってから。受け取り開始の時期は引っ越し準備に追われていて、自宅からの距離の問題もあり制服を取りに行ける状況では無かった。
そして1日も薫は一日中新しい部屋の片づけに追われていたので、制服を取りに行ったのは2日の夕方のことだった。
受け取り場所となる高校で制服の受け取りに来たと告げたら、かなりほっとした反応をされた。話を聞くと、8割程の新入生は開始当日、殆どは引き替え開始3日で受け取りに来ており、自分で最後との事だった。
制服が保管されてあるという講堂に案内されると、丁度奥の簡易更衣室から1人の女子が出てくる所だった。
「あっ、あなたも新入生でしょ?」
「え?あ、はい」
更衣室から出てきたのは薫よりやや背の低い女の子。腰の辺りまである黒髪のサラサラのロングヘアが印象的だった。
「私は興津沙織。よろしく」
「あっ、米沢薫です」
自己紹介されたので、とっさに返した。
「制服は大丈夫かしら?」
「はい。問題ありません」
興津沙織と名乗った子は担当らしい先生の問いかけにはっきりとした声で応えていた。
「そうね、大丈夫そうですね。では帰って構いませんよ。知っているかもしれませんが、制服を受け取った新入生が試着のままで帰るのは当校の恒例になってますから。そして米沢さん。これがあなたの制服ですね。採寸してあるので問題無いでしょうけど、着替えてみて下さい」
「……あ、はい着替えます」
先生からやや大きめな白い箱を手渡された。この中に制服が入っているようだ。
「えっと、米沢さん……だったよね。私はこれから親と会う予定があるから帰るけど、新学期もよろしくね」
手を振って笑顔で彼女は講堂を出ていった。
講堂の隅に設置されている臨時の更衣室に入ると微かに甘い香りが漂っていた。直前まで沙織がいたので当然とも言えるが、ちょっと落ち着かない。臨時とは言え更衣室に男女の区別が無いのが少々気になるが、自分で最後らしいのであまり気にする事もないだろう。
コートや上着を脱いで壁のハンガーに掛け、箱を開けるとまずはワイシャツ。袖を通してみると、サイズはぴったり合っているが――何か違和感がある。そして調節用の紺のセーターを着てブレザーを箱から出し、その下に入っていた物を見て違和感の理由が明らかになった。
入っていたのは青を基調としたチェックのプリッツスカートに赤のリボン。しかも落ち着いて考えて見ると、今自分が着ているワイシャツのボタンの位置が逆。箱に入っていたのはパンフレットで見た、そして先程出会った沙織が着ていた女子の制服だった。