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時空とギャレット  作者: ホシノミ
6/6

月下時計

✳︎


「ギャレンヌとはかつての仕事仲間でね。」

楽しそうに博士が語る。

やっぱり、ギャレンヌはエルバの一員なのか?

エルバは国の中でも最先端を行く人たちが集まるところ。

博士のような天文学者限らずの、哲学者、生物学者、歴史学者、、、など学者の方々。

また、ギャレンヌさん?のような腕の立つ職人さん。

それも同じように、時計職人以外にも家具職人とか、かつての俺の仕事の鍵職人(腕が立つ)。

そのようないわゆる『花形』の職業の方々の一部が集まるところ、それがエルバだ。

エルバはもともと、今から何十年か前に芸術家集団として栄えていたけど、今はこれといった芸術家がいなくて職業集団になっている。

博士もその一員で、俺が昔遊びに来た時もエルバのたくさんのことを教えてくれた。

俺も当時は憧れていた。

まあ、だから鍵職人になったっていうこともあるかもしれないけど。

夢叶わずってな。

「あん時は国中で有名な時計職人、だったな」

博士はそう言い、口を閉じた。

少し悲しそうな顔になった気がした。

俺はハッと気がついた。

今は、ギャレンヌさんは、

今は。

「今は、どうしているのか?」

俺はいった後に後悔した。

バカな子供みたいだ。

ギャレットは博士の言いたいことに気づいたのか、辛そうな顔をした。

「ロイ青年。君は昔と変わらないな。」

博士はやれやれと、いう顔で俺を見つめた。

「すみません。」

俺はすみません、としか言えなかった。

よくわからなかった。

「まあ、一言で言えばギャレンヌはもういないんだ。」

俺は思わずギャレットの方を見てしまった。

ギャレットは驚いたような顔で硬直していた。

「ギャレットくん。それで、ここで一緒に働いて欲しいんだ。」

博士は立ち上がった。

ギルも大きく頷いた。

でも、彼女はそれが受け入れられなかった。

「どうして…どうしてですか_」

彼女の瞳が一瞬光ったように見えた。

「どうして師匠は、私を置いて、どうして。どうして」

ギャレットのネジは驚くほど早く巻き戻されていた。

きっと彼女の気持ちそのものが大きく動かされているからだろう。

そして、ギャレットはそのまま扉の外へ駆け出した。

もう、夕暮れ時の天球館。

そこに取り残された俺たちは、彼女を追うことができなかった。

なぜだかわからないけど。

そして少しの時間しんとした空気が流れた。

「ロイ青年、君はギャレットとどこで会ったのか?」

博士が言った。

「空家の地区です。俺も金がなかったのでそこにしかいられなかったんです。」

俺は少し思った。

ギャレットはなんであそこにいたのか、と。

「やっぱりそうなのか。そこか。」

博士は納得したように頷く。

「ギャレンヌはそこにちいさな工場を持ってたんだよ。きっと、彼女の死でお金の関係のせいで続かんかったんだろう。それで、その工場はもう捨てられたのだろうなあ。」

彼女はきっと工場で作られた特別な人形だ、と博士が言ってるように聞こえた。

「それで、ギャレットさんは大丈夫なんですか?」

ギルが大きな目をパチクリさせながら、博士に問うた。

博士は、夕暮れで真っ青に染まった空を見て、言った。

「彼女は、きっとあの空家_すなわち工場に戻ってるだろう。今から行こうか。」

師匠の死、とても辛いものだったのだろう。

俺は彼女の気持ちも何もわからずに、簡単に言葉を述べてしまったことに後悔した。

でも、少し見えた気がした。

彼女の心というものが。


✳︎


ギャレットは博士の予想通り、空家にいた。

そこで、金色の月を眺めていた。

その月明かりに照らされた金色のネジは、まるで太陽のようだった。

博士と俺たちが来たのに気づいたのか、曲げていた膝をおこして立ち上がった。

そしてこっちに振り向いた。

彼女の頬には金色の涙のようなものが伝っていた。

彼女は泣いたのか?人形なのに。

「人は死ぬと、星になると師匠から聞きました。」

ギャレットは涙を流し続けた。

彼女その涙はどこから出ているのか、俺にもわからなかった。

でもただ一つわかることは、彼女には心があること。

その小さな心の力で彼女は涙は流した。

これもきっと、ギャレンヌという職人の手によって。

俺は、ギャレットの背中に回り金色のネジを巻いた。

ゆっくりゆっくり、何回も巻いた。

すると、不思議なことが起こった。

チャンチャチャチャ…

なんと、彼女からオルゴールのようなものが流れ出したのだ。

俺は驚きで声をあげられなかった。

「こ、この曲は…」

博士はこのことを何か知っているようで、そのギャレットの背中を指差した。

「『月明かりの人形の踊り』という曲じゃないか。」

博士は驚いた顔を変えなかった。

金色の月の夜空に聞こえるメロディー。

なんでこうやって曲が流れたのかはわからないけど、俺はそんなことどうでもよかった。

それよりもギャレットの泣き顔が忘れられなかった。

やがて音楽はゆっくりと小さくなっていく。

そして少し経つと、女性のような声が聞こえてきた。

ツーツーと機会音が鳴る。

『あ、あー』

今度はギャレットから音楽ではなく、人の声が聞こえてくる。

俺はびっくりした。

ギャレットもその声に驚いたのか、少し寂しげな顔で自分のネジを見ていた。

『えーっと、今日は8月の夏の真っ盛り。ギャレンヌです。もし聞いてるあなたたちが月の下だったら私の実験は成功かな!』

ギャレンヌ。

その肉声はギャレンヌのものだった。

ツーツート機会音は続き、みんなはシーンとなる。

少し経って、また女性の声がした。

『えーっと。私、明日からローリタニアっていう国に引っ越すの。だからここはもうお別れ。』

その単語、ローリタニアに俺は驚いた。

ギャレットのふるさと、なのか。

『だから、このテープで言っておくの。カルロジョーンズ、大好きです。』

そこでテープはプチっと切れた。

その中で一人、嘆いているものがいた。

「ギャレンヌ…俺も、俺も好きだ。」

カルロ博士は、彼女のその声に耳をそばだてそう言った。

そんな中ギャレットは月の方を見ていた。

青い色の目が金色に光っていた。


✳︎


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