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ギルドはMMOの醍醐味の一つ

 正直疲れた。だって疲れるだろう、予想外のことが次々起こるんだもの。高レベルのミノが出たり穴空いてたり死にかけたり嫁が可愛かったり。

最後のは癒しだが。何はともあれ町の西門から少し郊外に抜けた先、ギルドホームタウン、通称ギルド街だ。

 うちのギルドは弱小ではない、かといって大規模ギルドでもない。一口で言うと少数精鋭ってやつだ。

一人一人の戦力はトップクラスなんだがどうにもやり方が合わなかったり、自由に過ごしたい奴らの集まり、それが

我らがギルド『フリーカフェ』である。「ラストエンプレスオンライン」のギルドシステムはギルドメンバーの総レベルで左右される。

それがギルドランクである。そのギルドランクに応じてギルドホームの形状、大きさ、立地が結構変わってくる。

 ギルドメンバーは全9人。人数で言えばうちはこの街、「エヌディープ」では最弱といえよう。うん、少ないからね。

だが個人のスキルはゲーム内トップレベルだ。まあ個性がすげえ強いんだが。


「あ、タッケルく~んこっちこっち~」


女だか男だかわからない中性的なプレイヤーが手を振っている。


「よおフィナ」


 こいつの名前はフィナ。一応アバターは男だ。職業はソーサラー、妖術、魔術に長けた職だ。装備した魔術爪という武器でフィールドを駆け回る故に

『魔獣』とか言われてるらしいが気にしてないらしい。


「食材は探してきた?」


「こんなもんでいいか?」


「うん、いろいろ混ざってるけど…」


「ミノは気にすんな」


「あ、う、うん」


調理すんのはどうせギルマスだろ、調理スキル持ってるのギルマスだけだし。あと龍姫。


「ま、入ろうよ、みんな集まってるよ」


「みんなって、全員か」


「うん、全員集まってるよ」


「さすが廃人プレイヤーだね」


「社会人もいるからな」


 そもそも拡張された瞬間に閉じ込められたのだ。拡張された時間は午前3時。それも日曜日のだ。


「俺たちは寝てなきゃいけないような時間なんだからな」


「ふふっ、僕たちにとっては拡張時間に入ってるのは当然じゃないか」


フィナが微笑みながら言う。ちなみに拡張時間というのはメンテナンス突入時間のことだ。メンテナンスせずにアプデするゲームとか見てみたいよ。


「寝てないから、眠い」


龍姫のジト目に磨きがかかってきた、ほぼ糸目だ。口に至っては人ができるのかと疑われる『ω』のような口になっている


「狐呼ぶか?」


「そうだね、薄氷ちゃーん、車出してー」


ギルドホーム内から女性の声が聞こえる、今呼ばれた「狐月 薄氷」の声だ。


「んあー?また姫ちゃん寝落ちしちゃいそうなのー?」


「ああ、頼む」


「ほいほい~、き~つ~ね~び~カ~」


 なぜダミ声になった。あのネコ型ロボットの真似か?やめとけ。

数秒の後炎でできた車のようなものが近づいてきた。これが狐火カーだ。妖狐の能力である狐火によって形成された車、だそうだ。


「むみゅぅ…」


もはや本能で動いているような龍姫は狐火カーが来ると同時に乗り込んだ。ちなみにこれ、人力で動く。

さてさて、ギルドホーム内にようやく入れますな。


「お!タケルン遅いぞ~!肉は持ってきたろうな!」


「ナスさん、近い、近い」


 今迫ってきた女性がギルドマスター、「ナスカルビ」だ。最古参のプレイヤーの一人で俺もこの人に勝てる気がしない。いろんな意味で。


「ほれ、肉をだせ、俺たちゃ飢えてるぜ」


「まだ閉じ込められて数時間でしょうが」


この気さくなようなおじさんは「熊野陽介」ナスさんの旦那さんでサブマスターだ。


「さてさて、じゃあもう調理始めちゃうわよ~」


ナスさんが調理を始めようとする。主婦系プレイヤーたちの手によってうちの畑はすでに素材の宝庫だ。


「にんじんはぬいてくだせぇ~」

 

このにんじん嫌いは先ほど車を出してくれた「狐月 薄氷」。廃人だ。


「ちゃんと食べないと大きくなりませんよ」


こちらのお母さんみたいなのは「卍勇者卍」。マンジさんと呼ばれている。


「マンジさ~ん、ここゲームなんで成長とかはしないと思うんだけど~」


グラサンのような眼鏡をかけた彼は「ホークアイ」、みんなからはたかさんと呼ばれている。


「そうかな?」


「そうだとおもうよ?」


なんてあほな会話だろう。


「けどにんじんのジャムはたべれるんだよね?」


これはフィナ。


「あれは…甘いじゃん…。」


「なら薄氷のだけ甘くしてもらえば?」


「料理にもよるがおそらくまずいだろ!」


「わたしが作れば原型は残らないから食べれるかも!」


最後の謎発言のもとは自称アイドル「神崎 綾音」。モンク、つまり格闘家だ。一対多の戦闘が得意だそうだ。


「それはそれでたべたくない…」


「だろうな」


「お、タケル、おかえり~」


「おー、ただいま」


「姫は?また寝た?」


「相変わらずの眠り姫だよ」


龍姫はゲーム内で寝ることの多い眠り姫である。ゲームのシステム上1時間寝た状態が続くと自動的にログアウトになるのだが恐らく出れないだろう。


「うへへぇ、かわええぇ…」


「おいこら狐、しばくぞ」


「イエスロリータ」


「ノータッチ」


「「ならばよし」」


気は合うのだがどうにも合わない。


「まずいな、仕事が残ってたんだよ、どうしよ…」


こんな時に仕事のこと考えるなよマンジさん。


「あ、漬物漬けっぱだ、どうしよ」


フィナ、漬物のことかよ。


「え~と元栓は締めてるし電気も消した、先週のノルマは達成してるしペットは飼ってない、完璧だ!」


さすが敏腕サブマスター、完璧じゃないか。


「え、うちによく来るネコちゃんのごはん用意してないよ!どうしよ、ネコちゃん来なくなるかも」


「最近つまみの缶詰が消えてると思ったらそういうことか!くっそう!」


陽介さん、どんまい。


「やっべ、デスクトップ点灯しっぱなしだ、ホム画ばれるなこりゃ」


何の心配してんだたかさん。


「ムイッターで明日生放送するって言ったからなぁ、フォロー人数減っちゃう」


それこそ何の心配だ自称アイドル。


「何の予定もなかったから暇じゃなくなった、ラッキー」


この大事件は暇つぶしかよ廃人。


「まあ!とりあえず食べながら今後について話しましょ!」


 大テーブルの中央に特大の鍋がそのまま置かれる。これは、すき焼きか。


「おおお!うまそうです!」


キャラぶれてんぞ狐。


「龍姫、飯だぞ」


「んう、眠い」


「おまえの分食べちゃうぞ」


「や~だ~、お~き~る~」


かっわいい。


「今後についても話すらしいから」


「それ言ったらすぐに起きたのに」


「いたずらだ」


「むぅ」


龍姫の小パンチ!タケルにはダメージはない!


「「「「「「「「「いただきま~す」」」」」」」」」


「さて、知っての通り、私たちはこのゲーム、『ラストエンプレスオンライン』に閉じ込められてしまった。いえ、閉じ込めてもらったわ」


「その訂正の必要性について説明を求める」


「希求を却下します」


「なんでさ!」


 狐がショック受けとる。


 

「いろいろと試してみたところ、様々な事象が現実に近づいているわ」


「確かにモンスター斬った感触が嫌な感じだったな」


「そう、ここはもうゲームじゃないの、現実世界、アナザーワンよ」


「「その訂正の必要性について説明を求める」」


狐とたかさんだ。


「言ってみたかっただけよ」


「「なるほど」」


納得なのかよ。


「実際にその料理、すき焼きだけどメニューから作ったのではなく今実際に作ったわ」


「なんだと!?」


「えっ!?」


「ナスカルビさん料理できたのか!!」


「ぶっ飛ばしますぞ?」


「すみませんでした」


たかさんどんまい。


「ふむ、しかし、いつもと少し味が違うな」


「俺たちはそのいつもはわからんが」


「さっすが陽さん!ま、調味料が違うってだけなんだけど」


「なるほどな」


「ちなみに味は格段に落ちるけどメニューからも一応作れるらしいわ」


「サラダでも作ってみようか、材料あるし」


「ちょうどいいし実際に作ったものと比べてみる?」


サラダは調理スキルを上げていなくても作れる料理だ。材料は小さな葉5枚。適当すぎないかな?


「ほいっと、すぐできるな」


「さすがにサラダだからぱぱっとできるね、ほら比べてごらん」


「ふむふむ、うぷっ、うっわ、まっずい!」


これがメニュー調理の方か。


「で、実際に作ったほうは、お、うま」


食べたい。


「この通り差は歴然よ、試してみたけど素材の味がそのまま出るらしいわ」


やったのかよマスター。


「ステーキ系はメニュー調理おすすめしないわ、生肉の味がするから」


「そりゃあやりたくねえや」


 木の葉味のサラダを食べた狐の図であろうか、のどを抑えている、そんなにまずかったのかメニューサラダ。


「水飲んでくる」


「水はとってもおいしかったわ」


「天然水みたい、ほんとだ」


「龍姫ちゃん、あとでpH計ってもらえる?」


「わかった~」


 龍姫はカウンタースキル、つまり計測スキルが極まっているので様々な事象を数値として見ることができる。pHまで見られるのか、すごいな。


「フィナ、あなたは後でNPCたちの市場の状況を見てきて頂戴」


「了解だよ、マスター」


「薄氷、あなたは運営に問い合わせられるか試してみて」


「了解、運営側のプレイヤーにも問い合わせてみるよ」


「ありがと、あとは、食料かな。ギルド倉庫食料全然ないし」


「マスター」


「なに?」


「始めたばっかりの知り合いが困ってるらしい」


「なにかあったの?」


「PKにあったらしいんだ、それも、ストーキング系の」


「許せないわね、それはマンジさん、タケルン、姫ちゃんはそっちにあたって」


「俺もか」


「対人戦、得意でしょ」


「そりゃまあ」


過去にPVP大会で優勝経験あるしな。


「恐らく複数人相手だけど」


「誰に物言ってんだよマスター」


「んじゃよろしくね」


「了解」


「PK狩り?」


「そうだってよ」


「ぶっ潰さなきゃね」


「ああ」


「タケル君、パーティ組むの久しぶりだね」


「そうだな、よろしくマンジさん」


「ああ、よろしく」


かくしてPK狩りの幕が上がるのだった。

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