アプデ後って探索したくなるよね
とりあえずフィールドに出てみた。街の近域は当然低レベル帯で固められている。でないと初心者が死ぬからね。狩りの方法は変わらないだろう。
武器を取り出す、という動作は俺の職には存在しない。そういう職なのだ。
龍姫の方は存在する。職業は回復を行うクレリックだ、このゲームにおいての回復職は万能で、ダメージ遮断、脈動回復、起動回復、蘇生、なんでもこなすことができる。
パーティに一人はほしい職である。
「ん、出たよ」
そんなことを話しているとモンスターが出てきた。ライダーゴブリン、何らかの生物に騎乗しているゴブリンである。今回は、鹿か。
「鹿肉ドロップあるよな」
「それは鹿のみを先に倒した場合のみだね」
「じゃ、そうしよう」
やることはゲームのときと変わるまい、弓を構えるような恰好を取り、武器の名前を脳内でオーダーする。『覇弓 ケルケイネス』
「できたできた」
俺の手の中に目玉があしらわれた歪な弓が出現する。矢は自動装填済みだ。出現した位置から弦は引けない、筋力パラメータに応じて弦の引き具合は変わる。レベルはアプデ前ではカンスト。
筋力パラメータは1万を優に超える。正直鹿なら軽くしばいた程度で倒せる。動作確認もあって武器を使用した。
ま、説明はこの辺にして…発射ぁ!
「ヒィィ~ン…」
悲しき鳴き声を残して鹿のみを貫いた矢は止まることなく後ろの木に突き刺さる。当然即死だ、鹿はな。
ゴブリンの方は無様にも転げてのたうち回っている。体力パラメータが見えるがやっぱりあれで体力減るんだな。
「ギィッ、ギィィ…」
さすがに死ぬまい?
「とどめ、刺す?」
うちの嫁が怖いこと言ってる。
「いや、やるよ」
右手を前に出し、軽く握る。武器名をオーダー。『盗賊王の曲刀』手入れされてなさそうなごつごつした曲刀が現れる。
出現したらそのままゴブリンの頭を貫く。レベルが違いすぎるためそのまま倒すことができるのだ。
さて、俺の職業について説明しようか。俺の職は武器王、ウェポンマスターだ。武器のスキルは使えないがありとあらゆる武器を使える。
さらにそれはドロップ品に限る。たとえば先ほどの『盗賊王の曲刀』だがあれは週間開催イベント「盗賊王からの奪還」というイベントに出てくる「盗賊王ダリス」からのレアドロップ品だ。
加えて追加効果で武器の付与効果を1.5倍にする効果がある。盗賊王の曲刀の効果は「ドロップ個数を+4」だ。レアドロップや装備品は入らない。等級が一定以上のものもだ。
間違えてしまったな、ゴブリンのドロップ品を増やしてどうすんだか。
「タケル、ドジった」
「すんません」
今回の目的は食料の確保だ。元々食料アイテムというボックス内のカテゴリがないので高レベル帯のエリアばかり行っていると自然と食料アイテムは消えていく。
低レベル帯は食料を大量に持っているかもしれない。以前まで食料アイテムなんて娯楽だったからね。
んで、俺たちのアイテムバッグ及びアイテムボックスの中身には食料はゼロってわけだ。さっきのミカンは買ったものらしい。
「野菜とかはどうすればいいんだろうか」
「ギルドの庭に畑あるよ」
「そうだっけ?」
「使ってないから忘れてた、てへ」
少し舌を出して微笑んできた。天使かこいつは。
「牛は、いないか」
「ミノタウロスなら」
「食べたくない、さすがに」
「けどドロップ品で『ミノタウロスのミノ』ってのあったじゃない」
「あれは武器の棍棒扱いだったろ」
一時期のネタ装備として『ミノタウロスのミノ』という武器が出回ったのはずいぶん前だ。
「はい」
そうして差し出されたのは『ミノタウロスのミノ』と同時期に出回った『キルキャンディー』という短剣だ。見た目はただのキャンディーなのだが攻撃力は嫌に高い。
中レベル層には未だ人気がある武器である。
「え…?食べろと?」
「おいしいよ?」
何…だと…?いわれるがまま龍姫の手の中にあるままペロリと一舐め。
「あまっ」
驚いたことにおいしかった。
「ミノタウロス、行く?」
「れつごー」
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「この辺も久しぶりだな」
「今更?」
そういって龍姫は小さく笑う。かわいい。
「地図が無いのは痛いな」
「ミニマップ式だったもんね」
「使わないと思ってたんだけどな」
そういって俺はカバンの中から地図を取り出す。元々の使用用途は地形データの保存だが、一度行ったことのある場所は自動で映し出される。
これを使えばこのあたりは探索できよう。
「ん?」
地図のなかに円形の未探索フィールドがある。なんだ?新規追加フィールドだろうか。
「後で見に行く?」
「ん、いく」
まずは肉の確保だ。ミノタウロスのダンジョンは最初の森の北の最奥部にある。その道中で肉を回収することも目的だ。
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サクッと到着。ここらで困る俺たちではない。念のため周囲を警戒しつつダンジョン内へ。アップデート後の情報がない現状では唐突に強いのが出る可能性もあるからだ。
そもそも今回のアップデート自体一切の情報が明かされることがなかったため何もわからないのだ。ひどいもんだ。
「前方、スケルトン目視5」
「5か、杖なら一瞬だが」
「MPとっといて」
「了解」
両手をだらんと下げ軽く握る。そしてオーダー。『無形双雹刃 刻零』
冷気を纏った二本の刀が現れる。武器を呼ぶことにはMPは使用しない。杖を使用した場合その杖にセットしてある呪文、魔法を使用できるが
その時のみMPを使用する。あとは唯一の特技を使用したときか。武器の召喚速度、換装速度を飛躍的に加速させることができる
「そーれっと」
二刀を振るうと氷塊が地面から飛び出していき、スケルトンたちはばらばらになった。
これは『無形双雹刃 刻礼』の特殊効果である。振ると氷属性の追加攻撃が加わるのだ。便利。
武器王の特性で効果範囲、威力は1.5倍になっている。ちなみに物理依存だ。
「それチートみたい」
「ハイランカーなめんなよ」
俺は小さく笑う。この武器はPVPイベントで5位以内のプレイヤーに贈られる最高レア、世界級の武器、であるのだが、配布の武器であるために性能はレア度にしては比較的そこそこである。
広範囲攻撃と攻撃速度の速さが売りの双刀である。
「換装の速度変わったかな?」
「変わってないよ、0.119秒」
「なんでわかるんだそれ」
「勘」
「あやふやだな」
「えへへぃ」
この程度で苦戦する我々ではない。レベルさえあれば回復職だけでもこの程度はクリアできる。
かくしてミノタウロスの部屋についたのだが…。
「レベルこれバグってんのかな?」
「後ろに低いやついるよ。こいつ別のところのだ」
偶然っぽいなすっげえ。俺たちのレベルが現在80最高レベルだ、最初の森最奥のダンジョンで出たミノタウロス、
なんと78。おどろいたな、初心者が来たらトラウマもんだぞ。
「パーティランク。本気でやるしかないな」
「もう一人連れてきたほうがよかったかもね」
「「今更」」
俺たちは小さく笑った。




