スムージーを飲む少女
久々の投稿です。
リハビリがてら書きました。
星の砂にも掲載。
小学校二年生くらいの時からだろうか。
少女は毎朝グリーンスムージーを作って飲むことを日課とした。
初めて作った時こそ母に教えてもらいながら作ったのだが、それから程なくして少女は自分だけで作ることが出来るようになっていた。
レシピを子ども用スマートフォンで自ら探し、冷蔵庫にある食材を組み合わせて上手く使ってくれるので、母もそれは大きく喜んだ。
いい子ね、と母は少女をとても褒めた。
少女はそれは嬉しそうに微笑んだのだ。
幼い少女にとって絶対的な存在である母からの褒め言葉は、いつまでも心に残るものとなった。
それからは、まだ幼稚園生であるやんちゃな弟の巧を叱る時、お姉ちゃんを見習いなさいと母が言うようになった。
その度に少女は、自分の方が上であると実感していったのだ。
小学六年生の秋を迎えたある日、少女はいつものようにスムージーを作っていた。
今日のレシピは起きてすぐにリサーチ済みだ。
小松菜にりんごとバナナ、そして少量の水。
最後に隠し味を少々。
その光景は、『お手伝いをする偉い子ども』から『単なる日常』と化していた。
特に褒められることも無くなった。
それでも、少女はスムージーを作る事を止めなかった。
いつかまた、褒めてくれる日々を待っていた。
そんな少女の期待は真逆のものとなって、昨夜少女の事を襲った。
「またそんなの読んで勉強さぼってる!」
漫画を読んでいる少女を見つけて母は怒鳴った。
少し息抜きしていただけなのに、と少女は呟く。
「あんたお姉ちゃんでしょ! 巧は大人しく勉強してるわよ!」
少女は少しむっとした。
いつもは巧がうるさくしている中で、きちんと勉強しているつもりだったからだ。
「まったく、巧の爪の垢でも煎じて飲めば!?」
ぴしゃっとドアを閉めながら言われて、少女は落ち込んだ。
何故こんなにもいい子の私に怒るのだろう。
一人になった部屋で、考える。
何をしたら母が喜んでくれるのか。
昔のように褒めてくれるのか。
とりあえずスマホを手に取り、明日のスムージーレシピを検索する。
そこでふと思いついた。
少女の顔が笑顔に変わる。
これならきっと、母も喜んでくれる。
そうして、少女は朝を待ちわびた。
次の日の朝。
母が回覧板を隣に回している間に、下ごしらえをする。
母はお喋りが好きなので、十五分は帰ってこないだろう。
勿論、母を驚かせる為だ。
きっと、自分を褒めてくれるはず。
そう思って、少女は材料を適当な大きさに切り、スムージーミキサーへと入れた。
あとは隠し味だけ。
少女は、台所を少しだけ離れた。
母は、回覧板を渡してから話し込んでいた。
気づいて時計を見ると、あっという間に二十分ほど経っていた。
遅くなってしまった、朝ごはんを作らなければと考えながら歩く。
娘はスムージーを作って飲んでいるだろうから、巧のご飯を作ろう。
そういえば昨晩は娘に言い過ぎてしまったかもしれない。
謝ろうかな、なんて考えて家の玄関に手をかけた瞬間、中からけたたましい悲鳴が聞こえてきた。
一瞬体を硬直させ、はっとしてあわてて施錠を解きにかかる。
動揺しているせいか、なかなか入らない鍵にイライラした。
何が起こったのだ。
今の声は……巧。
玄関に入るなり、母は部屋に向かった。
どうしたの、と声を張り上げながら。
開いたままの扉から部屋に入るなり、ぎょっとした。
蹲る巧の傍には多数の血痕。
うっうっと呻きながら巧は振り向こうともしない。
「巧、どうしたの!?」
「ママ、痛いよお、助けてママ」
「巧!」
肩を掴んで振り向かせると、母はそれを見てびくっとした。
巧の手の爪が、全て、剥がされていた。
血まみれの両手を見て、ぐらりと視界が歪む。
何だ、何なのだ、これは。
一体誰がこんなことを。
家に居るのは巧と……。
「おかあさん」
後ろから投げかけられた声に、母は体を強張らせた。
ゆっくりと振り向くと、少女はグラスに入れたスムージーを飲んでいた。
「おかあさん、私ね、ちゃんと言われた通りにしたよ」
少女がにこっと笑いながら言ってくるが、母には一体何なのか分からない。
「爪の垢だけじゃなくて、爪ごとミキサーに入れたの。ねぇ、私偉いでしょ?」
そう言うと、少女は笑顔でくいっとスムージーを飲んでみせた。
多少の返り血に染まった、少女がどこか遠く見えた。
果たしてこれはホラーなのでしょうか…。