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或るあるシリーズ

或る電車の一生

作者: 林 秀明

電車の扉が開くと、僕はいつもウィンドゥショッピングをするかのように品物を見てしまう。それはつまり人間観察をする事である。


「右隣のお爺さんはいつも宝物の地図が載っているような本を読んでいる」

「右前の若ママのお姉さんはいつもジーンズにくるぶしを履き、足を組んで寝ている」

「左隣の女学生は次の駅で必ず降りる。なので端っこの席は空くはずだ」


こう観察していくと何曜日にその人がいるのか、祝日は休みなのかとその人なりの人生が見えてくる。サラリーマンで古今東西も見分けれないまま社内で奮闘しているのか、家内の重圧を避けて会社へ逃げているのか、容姿、姿勢、癖、行動を見るとその人が細かいのか、適当な人なのか少し分かってくる。


「『お盆』は今日はいないのか……」


僕はがっかりして席へつく。週二日制のシフトで一週間に一度しか現れないサラリーマンの中年の男性。誰が見ても分かるようなメタボの腹を出して、黒のベルトははち切れんばかり巻かれている。常に人の後ろを歩くようなマイペースさで白髪混じった髪の毛はもじゃもじゃ。ほとんど見ない事から僕はそう名付けた。


「『くるぶし』、『競馬』は今日は出勤」


あだ名を付けるとゲームみたいで楽しくなってくる。

付けられた方は迷惑もいい所だが、付けた方は名付け親になった感じで親密感が湧く。


かの友人は

「電車の中ほど人間観察において勉強出来る場所はない。学校、会社とは違う人と隣同士で何十分も一緒に入れるなんて滅多にない。もし会社で嫌な上司がいたとして、横の人が代わりの上司になったらと考えたら面白いじゃないか。そうやって楽しむ事も一つの勉強なんじゃないかな」


車通勤を主とする友人に言われて、説得力はなかったが、そうだと思った。

電車の中の環境でも学ぶ事はたくさんある。

でもふと気付いた事がある。僕が他の人をあだ名を付けるように見ているのであれば、他の人もそう考えているだろう。さしずめ僕はおっさんだが、子供のようにきょろきょろしているから


「エセ子供ってところか」


僕は指紋のついた窓を見ながら苦笑いした。


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