けんじゃのいし
昔々あるところに賢者とよばれる、とても賢い魔法使いがいました。
魔法使いは若いころからいろんなところに旅をして、たくさんの道を歩き、たくさんの川を渡り、たくさんの山を登り、たくさんのおいしいものを食べて、たくさんの恋をして、たくさんの魔法を使い、たくさんの戦場で戦い、たくさんの王様につかえ、そしてたくさんのことを知りました。
やがて魔法使いは誰よりも優しく、誰よりも強く、誰よりも賢くなっていました。
そのころに魔法使いは賢者とよばれるようになっていたそうです。
しかし賢者は年をとり、あまり元気ではなくなってしまいました。
やがて疲れた賢者は静かに暮らせるところを探すようになりました。
そして賢者は世界のはじっこにあった小さな村を見つけました。
100人の村人と10匹の牛と1匹の犬しかいない小さな村でした。
その村の村長に挨拶をして賢者はその村に住むことにしました。
誰よりも優しかった賢者は村で一番の人気者になりました。
誰よりも強かった賢者は村で一番の狩人になりました。
誰よりも賢かった賢者は村で一番の職人になりました。
しかしある日の朝、賢者はポックリと死んでしまいました。
賢者が死んでしまったので、村人たちは皆で泣きました。
するとそこに賢者の幽霊が現れ、自分の死体に魔法をかけて大きな石にしました。
「この石は誰かがが困ったときに1度だけ助けてくれる魔法をかけておいた。
だからもう泣かないでくれ。」
賢者の幽霊はそういうと消えてしまいました。
やがてその石は けんじゃのいし と呼ばれるようになりました。
○○○
賢者がいなくなって、100回お日様が昇り、1000回お月様が満ち欠けしたとき、その村では村長の息子が村で一番の人気者であった女の子に恋をしていました。
村長の息子は誰よりもその女の子のことが好きで、誰よりもその女の子のことを愛していました。
しかし女の子にそのことを伝えようとすると緊張してしまい、うまく伝えることが出来ません。
そこで村長の息子は村の奥にある けんじゃのいし と呼ばれる大きな岩のところにいきました。
けんじゃのいし は一度だけ、困っているときに助けてくれると言われていたからです。
村長の息子は大きな岩に、女の子に好きと伝えたい、とお願いしました。
すると岩は村長の息子に「村の裏にある山の頂上に生えるお花を摘み、それを女の子に渡せばうまく伝わるでしょう」と言いました。
村長の息子はすぐに縄と鎌をもって山にむかいました。
山の頂上に向かう途中に生えた草は鎌で刈り取って進みました。
しかし途中で鎌は折れてしまいました。
山の頂上に向かう途中で見つけた崖は縄をかけて登りました。
縄はぼろぼろになってしまったので、そこにかけたままにしました。
そうして山の頂上にたどり着くと、村長の息子はいわれていた花を見つけました。
後ろをふりむくとそこには村長の息子が好きな女の子がいました。
なんと女の子は村長の息子のことが好きで けんじゃのいし にお願いをすると、山の頂上にいくように言われていたそうです。
村長の息子は女の子に花をあげて、好きだと伝えました。
村長の息子は緊張していましたが今度は上手く伝えることができたようです。
△△△
賢者がいなくなって、100回お日様が昇り、1000回お月様が満ち欠けしたとき、その村ではある狩人がお腹を空かせていました。
その村には狩人は3人いるのですが、その狩人は一番力が弱いのでウサギやシカを弓矢でしとめるのが一番下手でした。
そこでその狩人は村の奥にある けんじゃのいし と呼ばれる大きな岩のところにいきました。
けんじゃのいし は一度だけ、困っているときに助けてくれると言われていたからです。
狩人は大きな岩に、お腹いっぱいにお肉が食べられるようになりたい、とお願いしました。
すると岩は狩人に「穴をたくさん掘って落とし穴をつくれば、ウサギやシカがたくさんとれるようになるでしょう。」と言いました。
狩人は山の中にたくさんの落とし穴を掘りました。
狩人は次の日に見てみると、2匹のシカと4匹のウサギが穴の中に落ちていました。
狩人はシカとウサギをしとめるとそのお肉を焼いて食べました。
狩人は次の日に別の落とし穴を見ると、またシカとウサギが落ちていました。
そうして狩人はお腹いっぱいにお肉を食べられるようになり、食べきれなかったお肉は村の人たちに分けてあげることにしました。
やがて狩人は大きく成長し、村で一番の狩人になりました。
その村ではお肉が食べたくてお腹を空かせる村人は誰もいなくなったそうです。
◇◇◇
賢者がいなくなって、100回お日様が昇り、1000回お月様が満ち欠けしたとき、その村では村に一人しかいない鍛冶屋がとてもとても疲れていました。
その鍛冶屋は村で一番物知りであり、村で一番優しかったため、いつも誰かを助けていました。
困っている人のところへ走っていくせいで鍛冶屋は眠る暇がなく、鍛冶屋はいつも眠くて疲れていました。
それでも鍛冶屋は誰かを助けていました。
眠くてたまらない鍛冶屋は村の奥にある けんじゃのいし と呼ばれる大きな岩のところにいきました。
けんじゃのいし は一度だけ、困っているときに助けてくれると言われていたからです。
鍛冶屋は大きな岩に、安心してたくさん眠れるようになりたい、とお願いしました。
すると岩は鍛冶屋に「私の体を削って溶かして四角の薄い板にして、それを村のみんな一人一人に配れば、安心して眠れるようになるでしょう。」と言いました。
鍛冶屋はすぐに目の前の岩を砕いて、その岩の欠片を集めました。
鍛冶屋は砕いた欠片を自分の工房にもっていき、溶かして四角系の薄い板の形にしました。
そして鍛冶屋は村の皆に四角系の薄い板をたくさん配りました。
その日の夜、鍛冶屋はもっていた自分の四角系の薄い板から狩人の声が聞こえてくることに気が付きました。
四角系の薄い板に話しかけると、そこから狩人の声が聞こえてくるのです。
鍛冶屋は狩人から穴の掘り方を教えてほしいと言われたので、上手な穴の掘り方を教えました。
それからというもの、鍛冶屋は誰かが困っているときは四角系の薄い板で会話をして、困っている人がどうすればよいかを教えるようになっていました。
走っていかなくても良くなった鍛冶屋はそれからぐっすりと眠れるようになっていました。
不思議なことに鍛冶屋が砕いた岩はいつの間にかもとに戻っていたそうです。
×××
賢者がいなくなって、200回お日様が昇り、2000回お月様が満ち欠けしたとき、その村に村長の次男が帰ってきていました。
村長の次男はとても賢かったため、遠くの国の王様に呼ばれてその国で働いていて、久しぶりにこの村に帰ってきたのでした。
村長の次男が帰ってきたころには彼の兄は村長となり結婚して子供も出来ており、力持ちな狩人のおかげで誰もお腹をすかせておらず、賢い鍛冶屋の作った四角系の薄い板のおかげで困ったことはすぐに解決できるようになっていました。
村の皆は久しぶりに彼に会えたことを喜びました。
村長の次男は、いえ村長の弟は村の皆が持っている四角系の薄い板を王様に捧げることが出来れば王様も喜んでくれると思い、鍛冶屋に自分と王様の分も作ってくれるよう頼みました。
しかし鍛冶屋は村の皆の分しか作ることを考えていなかったので、もう岩の欠片が余っていません。
そこで鍛冶屋はまた岩を砕こうとしましたが、岩はかたくて砕くことが出来なくなっています。
鍛冶屋からもう作ることができないと言われましたがが、村長の弟はあきらめません。
そこで村長の弟は村の奥にある けんじゃのいし と呼ばれる大きな岩のところにいきました。
けんじゃのいし は一度だけ、困っているときに助けてくれると言われていたからです。
村長の弟は大きな岩に、王様に四角系の薄い板を捧げたい、とお願いしました。
すると岩は村長の弟に「それだけは叶えて上げることができません」と言いました。
しかし村長の弟はあきらめません。
もう一度お願いすると岩は「村の裏にある山の頂上でお日様とお月様の光を集めて混ぜれば、王様もお喜びになるでしょう。」と言いました。
村長の弟はすぐに村の裏にある山にいきました。
山を登る途中、村長の弟は落とし穴に落ちてしまい、足を怪我してしまいました。
しかし村長の弟はあきらめません。
山を登る途中、おおきな崖にボロボロの縄がかかっていました。
いまにもちぎれそうなほどボロボロの縄ですが、崖を登るにはその縄を使わなくてはいけません。
しかし村長の弟はあきらめません。
村長の弟は何とか崖を登り、山の頂上にたどり着きました。
村長の弟は持ってきたガラスのビンの蓋を開けて、朝はお日様の光を、夜はお月様の光を集めようとしました。
しかしどちらの光もビンに入るとすぐに抜けていってしまいました。
それから3回お日様が昇って、3回お月様が沈むまで、村長の弟は頑張りました。
しかし光を集めることは出来ません。
ついに村長の弟はあきらめてしまいました。
村長の弟は村へ帰るときも、崖を下りなければいけません。
崖を下りるために縄に足をかけた瞬間、
ぷちん
と音をたてて縄はきれてしまい、村長の弟は崖から真っ逆さまに落ちてしまいました。
その日の夜、村の奥から大きな笑い声がしたといいます。
しかしその声を聞いていた村人は誰もいませんでした。
☆☆☆
世界のはじっこにある小さな村に けんじゃのいし とよばれる大きな岩がありました。
けんじゃのいし は一度だけ、困っているときに助けてくれるといいます。
その岩のおかげで村の皆は幸せになりました。
しかし不思議なことにその岩のことを村人以外は誰も知らないそうです。
しかし村の皆の中に、そのことを気にする人はいません。
村の皆は幸せだったからです。
けんじゃのいし のおかげで村の皆はいつまでもいつまでも幸せに暮らしました。
(おしまい)




