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???と???
短く揃えた髪にスーツを着た女が暗い山道を走る。手提げ鞄を抱えながら走りつづけた。ヒールは折れてストッキングも破れている。スカートでは走りづらく女は息を切らしながら走る。
どうして自分がこんな目に?
振り返りたくない。
でも振り返らなければ奴が何処にいるかわからない。
女は少しだけ首を後ろに向けた。いる。あいつがいる。
女は恐怖から山道をはずれて山の中へ逃げた。山の中なら多少は隠れられると考えた。しかし奴は見逃さなかった。
女は岩陰に隠れる。
ドクン、ドクン、心臓がうるさく鳴り続けた。走り疲れたものの人間はいざとなればこんなに走れるのかと笑いがこみ上げる。
鞄から携帯を取り出した。待ち受けを見て先ほどとは違う笑みがこぼれた。時刻は21時23分。
女はガタガタと震える。
そのときだった。
『―――――――――』
誰かが話しかけてくる。透き通って凛とした声。女は自然とその声に耳を傾けた。
「見つけた......探したよ?なんで逃げるの?ねぇ?」
『心配しなくてよい。妾が側にいる』