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もののけだま  作者: 山澤幸花
8/15

神様と彩芽

食べ物を探しに台所へ行く。缶詰めがあった。全部で六個。焼き鳥にサバ、角煮...。お腹いっぱいにはならないけど無いよりはマシ。喉が渇いて水道をひねるが水はでない。冷蔵庫にも何もない。


私はここで死ぬのかな。


そんな不安が少女を包み込んだ。




(いい?彩芽、お父さんはもういないのよ。これからお母さんと二人で暮らすの)



どうして?私は何か悪いことした?お父さん私を嫌いになった?


わからない。


わからない。


わからない。


わかりたくない。



ふと電話が鳴る。受話器は取らない。そう約束したから。しばらくすると留守電に切り替わる。


[もしもし、彩芽ちゃん?お婆ちゃんだけど覚えてる?お母さんいるかな?連絡つかなくて...ううん、ごめんね。お婆ちゃんも探してみるね。彩芽ちゃん、何かあったらお婆ちゃん行くからね、連絡頂戴ね]


約束したから。誰にも会わない、電話も出ない、郵便も受け取らない。約束したから。


あれからまた数日が過ぎた。もしかしたら数週間かも。今が何日なのかさえわからない。体に力が入らず床に伏していたから。


どうやってここまで生きてきたんだっけ?冷凍庫についた霜を食べて、缶詰めが無くなっていって花瓶の花を食べようとしたんだっけ。


どうやってここまで生きてきたんだっけ?




「彩芽ちゃん、先生よ!いる?ねぇ!返事をして!」



先生がドアを叩いている。声は聞こえる。でも彩芽は声が出せない。声の出し方がわからない。指一本動かない。目蓋さえ動かない。


「お前に、あの子を救う資格はない」


「...どなたですか?」


先生の声が低くなる。もう一人は笑っているようでもあり怒ってるようでもあった。


「もう一度言う。お前に、あの子を救う資格はない。さっさと帰れ」


大きな音がしてドアが倒れた。男が中に入ってくる。力が入らない彩芽を抱き上げた男の顔は怖いほどに綺麗だった。黒いロングコートに真っ黒な髪の毛。深い緑色の瞳が私を見る。


「こんなになって。すまない。もっと早く来られたら...」


男が鞄からペットボトルを取り出し彩芽の口にそっとつけた。甘い水に少しだけ彩芽の喉が動いた。


彩芽はどうしてこうなったのだろうと考える。男に抱かれたままようやく動くようになったまぶたを閉じた。





「いい?彩芽、お父さんはもういないのよ。これからお母さんと二人で暮らすの」


そうだ。あれが全ての始まりだったんだ。お父さんとお母さんが別れたのが始まりだったんだ。



「彩芽。目が覚めたかい?無理はしなくていい。俺がお前の面倒を見る。心配しなくていい」


見たことない部屋。見たことない天井。見たことない綺麗な男の人。深い緑色の瞳は優しくてずっと見ていたかった。



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