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もののけだま  作者: 山澤幸花
7/15

変態と偶像

茶髪の青年がいつものようにレッスンのためスタジオへ行く。まだ薄暗い時間。更衣室へ荷物を起きレッスン着に着替える。勢いよくレッスン室へ入ってくる青年に眼鏡を拭いていた男とポーチを漁る女は睨みつけた。


「おっはよー!ほらほら元気にやろう!雅も透も立って立って!!」

「こんな早朝に元気になれる訳ないだろう。馬鹿者」

「そうよ、私は二時間しか寝てないのよ。大体他の人はどうしたのよ」

「明と類はロケ。悟はドラマ、優はCMだよん。俺達だけ本日仕事が無いのだ。えっへん。あ、泉さんはよっす!」


眼鏡をかけたスーツ姿の女性が片手をあげる。


「おはよ。建あとはよろしくね」


建は女性に向かって親指を立てそれをみた泉は立ち去る。三人はレッスン前の準備運動を始めた。



「さて、今日はどんな物怪がいるのかな」

『ふむ、今の所私と河童、座敷童に猫又、桜女、鬼神、砂鬼、天狗か……』

「めんどくせぇ……」

「砂鬼も探すの探すの!」


光多達は物怪探しに街から離れた場所、海へ来ていた。堤防沿いのアスファルトを歩く三人。堤防沿いには家がいくつかあり、砂浜では何かの撮影だろうか、白いノースリーブのワンピースにカーディガンを着た女性がカメラの前で演技をしている。


「あれ?撮影かな?」

「うーん見たことある顔なの」

「あぁ、あれだこの間のアイドルのSKAT-MRYだっけ?」


ハーフアップの女性がスタッフと打ち合わせたりジュースを片手にカメラに笑顔を見せたりしていた。光多は気づいたら彼女を目で追っていた。


「……」

『なるほどああいう女が好みだったのか。光多』

「ち、違う違う!ただ可愛いと思っただけだから!!」

「そんなくだらねえことより物怪探しだろ。めんどくせぇ」


光多は若干へこむが、砂鬼はスタスタと歩いていく。砂鬼の後を三人は追いかける。日差しが強くてカーコは水を何度も飲んでいた。


「…………」


堤防沿いをしばらく行くと砂鬼が止まっている。というより固まっている。追いついた光多が砂鬼の前を覗き込むと長い舌をだらんと垂らした不気味な小汚い人間がいた。


『垢舐めか……』

『へぇ、いかにもワッシは垢舐めでごぜーやす。あなた様は犬神様でごぜーやすな』

「えっと物怪だよね?」

「仲間仲間なの」

『ふむ、垢舐めがなぜこんな所にいる?』

『汚い風呂場を探していたでやんすが最近ではそんな風呂場も無く。力を失う前に可愛い女の子を嘗めようと思って来たでごぜーやす』


なんという汚い物怪なんだと光多と砂鬼はドン引き。可愛い女の子という言葉が気にかかり光多は指さした。


「可愛い女の子ってあの子?」


光多が指差したのは撮影中の彼女。垢舐めはニヤニヤと笑う。その笑顔のいやらしいこと。


『そうでごぜーやす。美しい肌についてる垢を舐めようと。いひひひひ』


砂鬼がたまらず殴りつけ垢舐めは地面に這いつくばった。


『だが仲間は多いに越したことはない。連れて行こう』

「これ役に立つの?」

「気持ち悪ぃだろーが」


光多と砂鬼の嫌そうな声を聞かない振りをしてリキは垢舐めに噛みつき起こした。目に涙を貯めながら垢舐めは訴える。


『ひでーでごぜーやす』

『垢舐め、私達と来ないか?』

『へぇ、どなたか舐めさせていただけるなら』


その言葉に譲り合いが始まる。


「砂鬼お前行け!!イケメンだし!!」

「ふざけんなそんな趣味はねぇ!!カーコお前女だろ!!」

「うーん、尻子玉食べるためにお尻舐めたりはするの」


カーコの言葉に光多と砂鬼は地面に両手を突きリキは呆れ顔。カーコはみんなの反応が理解できずにキョトンとしていた。


『ははは冗談でごぜーやすよ。男を舐める趣味はワッシにはごぜーやせん。多分』


再び砂鬼に殴られる。光多達へと近づいてくる人影。


「あのー?ちょっといいですか?」


突然後ろから声をかけられ光多は振り返った。ダークブラウンの髪をハーフアップにした女性がいた。何故か光多の胸が高鳴る。


「え?あ、すみません。撮影の邪魔しちゃいましたか?」

「いいえ。そうじゃないんです。私、犬が大好きでさっきから触りたくて触りたくて。休憩になったからようやく。良かったです。あなた方がどこにも行かなくて」


満面の笑みで言う彼女に光多は見とれていた。まさに正統派清楚系美少女。


「私はアイドルSKAT-MRYの優といいます」

「あ、立上です。こっちがカーコと砂鬼。で、犬のリキ」

「よろしくなの」

「うん。よろしくね。リキちゃんって言うんだね…可愛いなー」


リキはパタパタと尻尾を振っている。優に頭を撫でられリキは目を細めた。その瞬間垢舐めが彼女の腕を舐める。


「キャッ?!」


即座に砂鬼に踏まれた垢舐めは地面の上でバタバタともがく。ごまかすようにリキが舌を出していた。


「す、すみませんバカ犬が…」

「ううん、いいの。リキちゃん賢いですね。吠えないしかみつかないし。舐められたけど」

「あはは…」

「優さーーん!休憩終わりでーーす!!」

「あ、はーい。今行きまーす。立上さんありがとうございました。リキちゃんまた会えるといいね」


リキの頭をもう一度撫でてから光多に手をさしだす優。その手を握る光多。


「それじゃあ失礼します!ありがとう」


彼女は手を振り撮影に戻っていく。


『砂鬼、離してやれ……』

リキの言葉に踏んでいた垢舐めを仕方なく離す。


『ワッシは可愛い女の子も舐められたし犬神様についていきやす。よろしくでごぜーやす』


物怪珠へと姿を変えた垢舐め。光多は汚いものを摘むかのように小袋へと入れた。砂鬼が撮影の様子を眺めながらボヤく。


「桜女がああいう女なら楽なんだがな」


そういえば優は砂鬼に対して何も言わなかった。芸能界にもいないような美青年の砂鬼。彼女は見た目を気にしないのだろうか。光多は手をジッと見つめていた。何故か感触が思い出せない。冷たいような暖かいような。


『……惚れたか』

「へ?あ、いや、その…」

「光多ー真っ赤ーなのー」

「だから違……カーコ?」


カーコの様子がちょっとおかしい。汗はかいてないが、辛そうだ。砂鬼がカーコの額に手を当てる。


「お前水不足だろ?なんで言わなかった?」

「そうーみたいーなのー。言えないー理由もあるのー」


目の焦点が合っていない。光多は慌てて近くの自販機から水を三本買ってきた。


「はい、カーコ。これで何とかなるかな?」

「ありがとうなのー。ビックリーしないでーほしいのー」

カーコがキャップを外す。


「?!」


ビックリするなと言われたが落ち武者のように光り輝くカーコの頭頂部に驚かずにいられない。


「はー……お皿乾くと僕死んじゃうの」


ざーっと皿に水を掛けるカーコは生き生きとしだした。それを見て思い知らされる。


「そうだったカーコは河童だったね……」

「そうなの。助かったの!ありがとうなの」


光多は複雑な気持ちになった。見てはいけないものを見てしまったような。不思議な罪悪感が胸に残る。ふとリキが何かに気づいた。


『光多、小袋が光ってるぞ』


垢嘗めを入れた小袋が微かに光っていた。中を確認してみると座敷童だ。座敷童の珠が光っている。


「どうしたんだろう?」


座敷童の珠を投げると座敷童は走り出した。現れてすぐに走り出す座敷童を光多は慌てて追いかける。


「座敷童?おい、どうした?」

『おじいちゃんの、重雄さんの気配がする!!』


光多達が座敷童のあとを追いかけると武家屋敷のような日本家屋についた。海沿いに立つ家屋は高い塀で囲まれており門も大きい。光多は門の脇に表札を見つけた。


「国分寺宗一?名字違うよ?」

『ね、砂鬼ちゃん、肩車してほしい』


砂鬼が座敷童を肩車すると塀から中の様子をうかがう。中高年の女性が庭の掃除をしている最中だった。


『あ、やっぱりおじいちゃんの娘さん!!良かった会えた……』

「そっか…そういうことか」


光多は寂しくなった。わかっていた事とはいえ座敷童の八重子のため。これでお別れだ。


『では座敷童、この家にするか?』

「力を取り戻すには家につくしかないの」

『………うん、そうする』


砂鬼が座敷童を降ろす。


『ありがとうお兄ちゃん。私頑張るね。いっぱい幸せにして私も幸せになるね』

「力を取り戻せたらまた俺たちのところへ遊びに来るといいよ」

『うん!お兄ちゃん、カーコちゃん、リキちゃん、砂鬼ちゃんありがとう。また遊ぼうね』

「……いいから早く行け…めんどくせぇ」

『ではまたな八重子』


座敷童は手を大きく振りながら別れを告げると国分家へ入っていった。ここで座敷童の新しい生活が始まる。しばらくしてから様子を見に来るのもいいかもしれないと光多は思った。








一方清海は公園を散歩していた。ドラマの撮影らしく野次馬と機材がたくさんある。その中に見たことある人物がいた。何度も砂鬼と見比べたSKAT-MRYの1人だ。痩せ型のスーツ姿。確かに整った顔をしている。合図が鳴り演技をスタートする。


「だから言っただろう!!君じゃなきゃダメだって……!」

「でも、私じゃ釣り合わない……私が貴男に相応しくないの、わかってるのよ!!」

「そんなことはない。君と共に生きていきたい。だから傍にいさせてくれないか?」

「……私でいいの?」


カットの声があがる。清海は苦笑いだった。どんな昼ドラだよと内心思っていた。その後休憩に入りバラバラに別れるスタッフと出演者。清海は木陰で珠を投げて天狗を出した。天狗は大きく伸びをする。


『あれ以降なんともないか?』

「うん、大丈夫だよ」


天狗は術を唱え厳つい男へと姿を変えた。少し長めの髪の毛と無精髭。まさしく熊と呼ぶにふさわしい。


「清海いつでも私を呼んでいいからな。暇つぶしくらいにはなるぞ」

「ありがとう天狗さん。今は天さんがいいかな?」

「そうだな。それで頼む」

「前から聞きたかったんだけど涼司さんと知り合ったキッカケって何?」

「私はあいつの古い友人でな。あいつが物怪集めを始めた頃に手を貸すことにした」


本人がいないときほど話は盛り上がるもので。2人で公園を散歩する。そんな2人の様子を見ていた男が清海に話しかけてきた。


「ねぇ、君どこかの事務所入ってたりする?」

「え?私?」

「凄く綺麗だなって思って。エキストラでもいいから出ませんか?」

「清海にそんなことはさせない」


天狗が睨みつけ若いスタッフは怯んだ。若いスタッフが何かしでかしたと聞きつけて他のスタッフと出演者も数名来た。しまいには野次馬も集まり出す。


「何の騒ぎですか?」

「監督がエキストラ欲しいって言ってたからちょっと声かけてみたんですが」


長身の男が頭を下げスタッフがあわて出す。


「僕はSKAT-MRYの悟といいます。すみませんでした、不愉快な思いをさせて」


天狗が清海の前に立つが清海がそれを制す。スタッフの代わりに謝罪する姿は野次馬の心を掴むには簡単だった。


「天さん、ありがとう。悟さん、頭を上げてください。折角の申し出だけどエキストラはやりません。ごめんなさい」

「本当にすみませんでした。ではそろそろ休憩も終わりなので失礼します」

「撮影頑張ってください。天さん行こう」

「ああ」


悟はもう一度頭を下げるとスタッフを連れて撮影へ戻った。天狗は悟を訝しんで睨みつける。


「清海、あいつおかしくないか?」

「悟さん?そうかな?」

「……」

「……うーん、ま、今はいいじゃない。何か食べよう。シブスターとかどう?」

「これだから女というものは……食べることしか考えんな」


天狗は苦笑しながら清海の頭をなでた。


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