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もののけだま  作者: 山澤幸花
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偶像と再会

「はぁっはぁっ……どうしよう」


夜の住宅街を清海が走る。ロングスカートは無惨にも切り裂かれ短くなり上着も傷つけられていたが身体に目立った傷はない。清海は背後を振り返る。フリルがついた傘をさした幼い少女に追われていた。少女は空中浮遊をしフワフワと清海を追いかける。小さな帽子には長いリボンがついていて風に靡いていた。


「ねぇ鬼ごっこはおしまいにしましょう?」


清海が意識を集中させ猫又になると身体能力が上がり住宅の屋根へ飛ぶ。その後を少女が追いかける。傘をくるくる回し楽しそうだ。無邪気な笑い声。


「にゃんこちゃん。逃げちゃダメよ」


傘を閉じ頭上へ上げてから猫又の方へ向けると数体の人形が猫又に襲いかかる。猫又の手足に群がる人形達。キツく抱きつき猫又の動きを封じる。人形の指が猫又の体へ食い込んでいき鬱血してきた。


『ぐぅっ……!たかが人形使い如きに』


「たかが人形、されど人形。魂が最も移りやすく自由に動かせる。それが人形。私の人形」


楽しそうに笑う少女。傘を開き頭上でくるくると回す。猫又は唸り声をあげ力を振り絞る。人形に手をかけた。


『ふぅぅっぐああああっ!!』


人形を体から引きちぎり足にしがみついた人形を踏みつけて逃げる。少女は壊された人形を手にした。


「…マリア、レオン、ベルモント…」


少女の手の中で人形は光になり空へ消えていく。少女は猫又が逃げた方を見ると不適な笑みを浮かべた。







立上家


「砂鬼君新しい服買ってきたの。着てみて」


「ああ、ありがとう」


「遠慮しなくていいからな砂鬼君」


「遠慮すんのもめんどくせえ」


「…なんで打ち解けてるの?」


砂鬼が光多の家へ厄介になってしばらく立つが、両親は砂鬼の事を気に入り甲斐甲斐しく世話する。しかし砂鬼は相変わらずの面倒くさがりで与えられた物をそのまま身に付けていた。


「砂鬼君身長あるから何でも似合いそうね」


「光多も砂鬼君くらい大きくなれよ」


「は、はは……180…かなぁ?ちょっと無理じゃないかなぁ?」


白いロングTシャツにジーンズとシンプルな服を着ている砂鬼。特に拘りはないらしいが薄黄色の着流しだけは誰にも触らせなかった。そして砂鬼は元は人間なので物怪珠になる方法がわからないからこのままの状態でいた。玄関のチャイムが鳴り光多が応対する。


「お邪魔しますの!!」


「やぁ光多君。失礼するね」


玄関にはカーコや清海達がいた。清海の様子が少しおかしくずっと目を伏せたままだ。様子を見に砂鬼と母親もくるが砂鬼は涼司の姿に嫌そうな顔をした。


「あら、可愛い子ね……まさか光多の彼女?それとも彼氏?」


「カーコも清海も涼司もお友達なの。お付き合いはそれからなの」


「何バカなこと言ってんだ。涼司さんは男だし有り得ないから!!」


「酷いなー僕はどっちもいけるよ!」


すかさず砂鬼が涼司を叩く。カーコはただ笑っていたが清海は腕を押さえたまま俯いていた。騒がしい玄関に父親もリビングから出てきた。


「友達が来たのか。みんなゆっくりしていきなさい。母さん邪魔にならないように出掛けようか」


「そうね。そうしましょっか。うふふ久しぶりにデートね」


母親はバタバタと出掛ける支度を始めた。光多は取り敢えずリビングへ三人を通し支度を終えた夫婦は出かける。


「光多ーあとよろしくね」


「気をつけて行ってらっしゃーい」


2人を見送り光多は茶菓子を用意した。4人はソファに座る。


「で、カーコはともかく涼司さんと先輩はなんで?」


清海が重たい口を開いた。


「私、襲われたの。あ、変な意味じゃなくてね。逃げる時に涼司さんに助けてもらったの」


「彼女の話によると人形使いに襲われたらしい」


「人形使い……?」


「形ある物に魂を与え使役する。元々は呪術に使われたり使用人やスパイに使われてた。清海ちゃん人形使いの特徴わかるかな?」


「見た目は小学校低学年くらいでフリルがついた傘とヨーロッパ貴族みたいなドレス。あ、小さな帽子被ってたかな。ピンク色の髪の毛で私を追いつめるのを楽しんでたみたい」


「……残酷系無邪気ロリってところかな」


キリッとカッコ良く言った涼司の頭を砂鬼がリモコンで思い切り叩く。その拍子にテレビがつき音が流れる。


【シングルCDランキング第4位の発表です!第4位はSKAT-MRY!突如現れた男女混合和装アイドルグループ!男女のファンを着実に増やしています。今回のシングル第5段は神様をテーマにした曲。お聞きください、SKAT-MRYで約束】


テレビから流れる和風ロック。改造された着物で舞姫のように踊る3人の女と2人の男。スタンドマイクで力強く歌い上げる2人の男。計7名だ。テレビを見ていた涼司が頭をさすりながら言う。


「僕は雅ちゃんが好みだな。高飛車でなかなか落ちなそうなタイプ」


「涼司さん知ってるの?」


「スキャットミライ、メンバーの頭文字をとったアイドルだよ」


「へぇ……」


光多の目が1人の少女で止まる。可愛らしい笑顔と迫力あるダンス。裾を捲り上げた着物で踊る姿は天女のようだ。ハーフアップにしたダークブラウンの髪。しかし画面を見つめていたのは光多だけではなかった。カーコと清海が砂鬼とテレビを何度も見比べ、不機嫌そうに眉を潜める砂鬼。


「なんだよ?」


「砂鬼ちゃんに一票なの!」


「わ、私も!!」


「はぁ?バカじゃねーの」


途端に落ち込む涼司。がっくりと肩を落とす。


「そうか顔か……僕なんてどうせ白アスパラだよ…鬼神の欠片もないよ。迫力ないよ…わかってるよ…アスパラに失礼だったなアスパラごめんよ…」


「ちょっと話ずれてますよ!!何訳わかんないことを。今は人形使いの話じゃないんですか?」


光多の言葉に我に返った涼司。


「ああ、そうだったね。そういえば犬神は?犬神の意見も聞きたいな」


「リキなら庭で日向ぼっこしてます」


「リキ君完全にペットになったの?」


『その心配はいらない』


光多はリキが上がろうとした窓のそばへマットを敷く。


「足ふけよ。ほら足ふきマット。腹は?」


『うむ……草がついてるかもしれん。取ってくれ』


ごろんとマットの上で仰向けになるリキに清海が笑い出した。固かった表情がようやくとけた。


「あはは。リキ君可愛い」


『む……そうか?』


心なしか嬉しそうなリキ。尻尾と耳がパタパタと動いている。そのまま光多にお腹の草を取らせる。


「人形使いの話なんだけど犬神はどう思う?」


『そうだな。手がかりが少ないうちは気にとめるだけでいいだろう』


「そっか、それもそうだね。じゃあ清海ちゃんには天狗を貸すよ。何かあったら投げて」


「いいんですか?」


「天狗は人間にもなれるしこき使っていいよ。君1人だけじゃ心配だしね」


首から下げてた小袋から天狗の珠を清海に渡す。清海は大事そうにポーチのポケットへ入れた。


「ありがとうございます」


その様子を1人の女がずっと見ていた。流れるような黒髪、薄桃の着物。彼女は小走りで駆け寄る。そして勢いよく抱き付いた。


『砂鬼様ー!!お会いしとうございましたー!!砂鬼様ぁぁぁん』


「なんでお前がここにいる!?」


「え?砂鬼、桜女と知り合い?」


砂鬼に引き剥がされるが、それでも手を伸ばす桜女。砂鬼に頭を掴まれて近寄れない。砂鬼はギリギリまで体を離して触れられないようにしている。


「光多てめぇ……コイツがいるなら来なかった!!」


「じゃあ砂鬼君僕と来る?」


「それも断る!!」


砂鬼が桜女の足を払い桜女は床に崩れ落ちる。


『砂鬼様ヒドい……でも素敵。こんなに早く会えるなんて幸せですわ』


桜女は素早く立ち上がって砂鬼の背中に指でのの字を書き再び砂鬼に伸され床に這いつくばるはめに。


「いやーモテる男は辛いね」


「そういう問題じゃないと思うんですけど……」


「なんだか怖いの」


桜女の姿にカーコが怯え清海は呆然としていた。砂鬼が息を切らしながら手から出した砂を集める。めんどくさがりの砂鬼がここまでアクティブなのも珍しい。が、掃除が趣味の光多は怒鳴る。


「ちょっと何してんだよ!!俺んちだぞ!」


「五月蝿い。黙らせるだけだ」


桜女は砂鬼の足にすがりつく。砂を桜女目掛けて振りかけようと腕を上げた。


「死ね……!!」


『お墓は是非大岩の隣に作ってくださいな』


ピタリと砂鬼が止まる。ニヤリと桜女は笑い砂鬼の背中に手を伸ばし抱きつく。はらはらと様子を見守るしか出来ない清海達。


「怖い女だね……僕はもう帰ろうかな……じゃ、あとは任せた」


砂鬼が桜女を振り払い帰り支度をしていた涼司の首を掴む。


「桜女……俺じゃなくてコイツはどうだ?」


『砂鬼様には誰も適いません』


ニッコリ微笑む桜女に砂鬼は涼司を突き出す。


「コイツと付き合ってるから俺には構わないでくれ」


冷気が吹き抜けた。全員固まる程の冷気が。涼司が砂鬼を見る。砂鬼の表情は真剣だった。諦めてもらおうと必死なようだ。桜女は砂鬼から距離をとり考え込む。しかし。


『砂鬼様が男色家…。でしたら私は砂鬼様を応援します』


砂鬼は引きつった表情をして逃げ出した。二階へ駆け上がり大きな音をたて扉がしまる。


『砂鬼様可愛いですわ……』


ほうっと頬を染める桜女の腕にリキが噛みついた。


『騒ぎを起こすなら出て行ってもらう』


『申し訳ありません。会えたことが嬉しくてつい。ほほほほほ』


「こ、怖いの……」


「私もよ……」


カーコと清海は抱き合って震えていた。涼司は面白いものを見たと言わんばかりに光多に告げた。


「ねぇねぇ、桜女ちゃん頂戴?」


「え?どうして?」


『私は砂鬼様のそばを離れる気はありませんが』


「君がここにいたら砂鬼君ああやって逃げちゃうでしょう?離れてみると想いは募るってね」


考え込む桜女。涼司はリキと目配せする。砂鬼のために離すべきか。


『桜女、砂鬼を思うなら離れた方がいいと思うが』


『……わかりましたわ。犬神様がおっしゃるなら砂鬼様を誑かした優男と共にいきましょう』


「いや、これでも鬼神なんですけどね……じゃ、僕は帰るよ。砂鬼君によろしくね」


『それでは仕方ありませんが私も失礼しますわ』


桜女も涼司の後を追う。嵐が去った。


「桜女が探してたのって砂鬼だったんだな」


「涼司と付き合ってるなんて嘘よくついたの」


ジュースを飲んでいたカーコは言う。


「まさか付き合ってるって本当なの?」


「ある訳ないだろクソが!!」


二階から降りてきた砂鬼は怒りが収まらないようだった。というより震えていた。砂鬼はソファに腰掛け頭を抱える。


『一体何があったのだ?』


「…あいつが絡まれてた現場に通りかかっただけだ。絡んでた奴らが俺を見て逃げた」


「え?それだけ?」


「それだけだ」


光多は呆気にとられる。リキは興味なくなったのか丸くなり寝始めた。


「あーでも私わかるかな。絡まれてた時に格好いい人が来たら王子様みたいに見えちゃうかも」


「……整形してくる」


本気で整形しかねない勢いで立ち上がった砂鬼を光多とカーコが必死に止めた。


「それはダメなの!砂鬼は砂鬼がいいの!」


「ほら、その容姿だったら色々使えそうだから、な?」


「………どうせ俺は死んでるから無理だっつーの」


「でもほら、桜女さんと離れられて良かったね。ひとまず安心なんじゃない?」


清海の笑顔に砂鬼は苦笑する。


「だな。あの優男に感謝だな」


「………砂鬼お前笑うな」


「は?」






深夜、光多は夢を見た。森の中で青い着物を着た青年、大きな白い犬、無数の物怪。彼等に囲まれ杯を交わす。


『楽しそうだな』


「ああ、楽しいね。幸せだよ」


『…いいのか?』


「かまわないさ。決めたことを曲げるつもりはない。数年、数百年、数千年いつになるかわからないがお前と再び共に……」


『…では私は見届けよう』


「ありがとう犬神。お前といられて良かった」


犬の頭を撫で抱きしめる。どこか寂しげであり楽しげでもある。


「私を必要とする世界が訪れた時にまた皆で闘おう。その日が来るまで鬼神に任せるがいいか?」


「私でよければ貴方様の代わりをつとめましょう」


「ありがとう」


楽しそうにしていた物怪達は青年に跪き涙を流した。そして青年は腹に刀を突き刺し自害する。白い液体が流れ地面を濡らした。ゆっくりと倒れる青年を物怪が取り囲み、それを見届けた犬神が遠吠えする。


『私の力尽きようともお前を待ち続ける』



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